関西大学の入試問題から「マクローリンの不等式」に関する問題を取り上げます。
《問題》
3次関数$$\small f(x)=\dfrac{1+x+x^{2}+x^{3}}{4}-\left(\dfrac{x+1}{2}\right)^{3}$$について次の問いに答えよ。
(1)$f(x)=0$ を満たす$x$を求めよ。さらに $f(x) \geqq 0$ が成り立つ$x$の範囲を求めよ。
(2)$a>0$、$b>0$ のとき、不等式$$\small \dfrac{a^{3}+a^{2} b+a b^{2}+b^{3}}{4} \geqq\left(\dfrac{a+b}{2}\right)^{3}$$を示せ。さらに等号が成り立つ条件も求めよ。
(関西大学2020年 文系(2/6 3教科型)第1問)
《考え方》
「マクローリンの不等式」は相加・相乗平均をより精緻化した不等式で、大学入試でこそあまり見かけないものの、数学オリンピックや数学コンテストではそれなりの頻度で登場します。
2文字のマクローリンの不等式は相加・相乗平均の不等式そのものなのですが、3文字以上では以下のようになります。
3文字のマクローリンの不等式$$\small \dfrac{a+b+c}{3}\geqq \sqrt{\dfrac{\mathstrut ab+bc+ca}{3}}\geqq \sqrt[3]{\mathstrut abc}$$
4文字のマクローリンの不等式$$\small \begin{aligned}
& \quad \dfrac{a+b+c+d}{4} \\
& \geqq \sqrt{\dfrac{\mathstrut a b+a c+a d+b c+b d+c d}{6}} \\
& \geqq \sqrt[3]{\mathstrut \dfrac{\mathstrut a b c+a b d+a c d+b c d}{4}} \\
& \geqq \sqrt[4]{\mathstrut a b c d}
\end{aligned}$$
これらの一連の不等式を「マクローリンの不等式」と呼んでいます。一般化されたマクローリンの不等式は$\log$の凸性や数学的帰納法などから示されますが、今回は多項式を用いて示す誘導が付いています。
(1)は問題無く解けると思います。(2)では(1)の結果を利用しますが、$a$、$b$ の2文字をどのように登場させるかがポイントです。項の次数がすべて3次で等しい「斉次式」になっていることに注目すると、$x$に何を代入すればよいか見当が付くかもしれません。
解答例
(1)
$$\small \begin{aligned}
f(x) &=\dfrac{1+x+x^{2}+x^{3}}{4}-\left(\dfrac{x+1}{2}\right)^{3} \\
&=\dfrac{(x+1)\left(x^{2}+1\right)}{4}-\dfrac{(x+1)^{3}}{8} \\
&=\dfrac{(x+1)}{8}\left\{2\left(x^{2}+1\right)-(x+1)^{2}\right\} \\
&=\dfrac{(x+1)}{8}\left(x^{2}-2 x+1\right) \\
&=\dfrac{(x+1)(x-1)^{2}}{8}
\end{aligned}$$より、$f(x)=0$ の解は$$\color{red}{x=1,\,-1}$$となる。$(x-1)^{2} \geqq 0$ に注意すると、$f(x) \geqq 0$ が成り立つとき$$x+1 \geqq 0$$ $$\therefore \color{red}{x \geqq -1}$$となり、これが求める範囲である。
(2)
$x=\dfrac{b}{a}$ と置くと $a>0$、$b>0$ より、$x>0$ である。よって(1)の結果より、$f\left(\dfrac{b}{a}\right) \geqq 0$ となるから、$$\small \dfrac{1+\dfrac{b}{a}+\left(\dfrac{b}{a}\right)^{2}+\left(\dfrac{b}{a}\right)^{3}}{4}-\left(\dfrac{1+\dfrac{b}{a}}{2}\right)^{3} \geqq 0$$ $$\small \therefore\dfrac{a^{3}+a^{2} b+a b^{2}+b^{3}}{4}-\left(\dfrac{a+b}{2}\right)^{3} \geqq 0$$となる。よって不等式$$\small \dfrac{a^{3}+a^{2} b+a b^{2}+b^{3}}{4} \geqq\left(\dfrac{a+b}{2}\right)^{3}$$が示された。
また、等号は $f\left(\dfrac{b}{a}\right)=0$ のとき、すなわち$$\dfrac{b}{a}=1 \quad (\because a>0 ,\,b>0)$$ $$\therefore a=b$$のときに成立する。
(コメント)
マクローリンの不等式を知っている受験生はあまり居ない気がします。