適切な図形や曲線を使えば「相加平均・相乗平均の不等式」(AM・GMの不等式)が成り立つことは一目瞭然です! 本稿ではこの不等式の図形的な証明方法を紹介します。
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相加・相乗平均の不等式のおさらい
「相加平均・相乗平均の不等式」とは以下のようなものでした。
相加・相乗平均の不等式
$a$、$b$を正の実数とするとき、不等式$$\dfrac{a + b}{2} \geqq \sqrt{ab}$$が成り立つ。$a=b$ のとき等号が成立し、またそのときに限る。
英語では “Inequality of arithmetic and geometric means” と呼ばれます。”arithmetic mean” は相加平均、”geometric means” は幾何平均を指します。日本でも「AM・GMの不等式」と略されることがあります(ただしこの名称を入試の答案で断り無くいきなり使うのはお勧めしません…)。
より一般には$n$個の正数について$$\displaystyle \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n} a_{i} \geqq \left(\prod_{i=1}^{n} a_{i}\right)^{\frac{1}{n}}$$という不等式が成り立ちます。証明は $n=2$ の場合が基本となります。
※この不等式の各項を書き下すと$$\dfrac{a_{1}+a_{2}+\cdots+a_{n}}{n} \geqq \sqrt[n]{a_{1} a_{2} \cdots a_{n}}$$となります。
以下、相加・相乗平均の不等式を視覚的に表現する方法を10通り紹介します。
① 正方形を用いる(その1)
正方形内部の長方形を用いたシンプルな視覚的表現です。図中の点$A$を自由に動かせるようにしています。
この図より、$$(a+b)^2 \geqq 4ab$$が分かるので、両辺正より根号を取って$$a+b \geqq 2\sqrt{ab}$$を得ます。これは相加・相乗平均の不等式そのものです。
② 正方形を用いる(その2)
この方法は説明も容易なので知っておいて損はありません。直線 $y=x$ 上に点$A$、$B$をとり、その$x$座標をそれぞれ$\sqrt{a}$、$\sqrt{b}$としています。赤色の長方形の面積は$\sqrt{ab}$、黒色と緑色(茶色に見える)の三角形の面積はそれぞれ$\dfrac{a}{2}$、$\dfrac{b}{2}$です。図中の点$B$は自由に動かせます。
図中の紫色の三角形の面積は、相加平均と相乗平均の差分になっています。これがゼロになるのは点$A$と$B$が一致するときなので、$a=b$ のときに等号が成立することも直感的に理解できますね。「中学生でも分かる相加・相乗平均の不等式」といったところでしょうか。
③ 双曲線を用いる
直線 $\dfrac{x}{a}+\dfrac{y}{b}=1$ が双曲線 $xy=\dfrac{ab}{4}$ に接するという事実を利用します。四角形$OCAE=\dfrac{ab}{4}$、$\triangle OBC=\dfrac{a^2}{8}$、$\triangle ODE=\dfrac{b^2}{8}$ となるので、図より$$\dfrac{a^2}{8}+\dfrac{b^2}{8} \geqq \dfrac{ab}{4}$$が成り立ちます。ここから相加・相乗平均の不等式が導かれます。
④ 円を用いる(その1)
円を用いる方法も非常に有名です(Twitterなどで定期的にbazzっているような気がします)。この方法では直径が $a+b$ の円を考え、互いに直交する弦を用います。$AH=a$、$BH=b$ とすると、$PH=QH$ であることと「方べきの定理」から $PH=\sqrt{ab}$ と求められます。
図中の点$P$、$Q$、$H$は自由に動かせるようになっています。なお、方べきの定理は三角形の相似比から示されるので、証明は中学数学の範囲です(不等式は中学数学の範囲外ですが)。
※$PH$の長さは$\triangle ABP$、$\triangle AHP$、$\triangle BHP$の相似比から求められるので、実際には「方べきの定理」は不要です。
⑤ 円を用いる(その2)
接線を共有し、互いに外接するような直径が$a$、$b$の円を考えます。このとき中心間距離は$\dfrac{a+b}{2}$、2円の法線間の距離は$\sqrt{ab}$となるので、相加・相乗平均の不等式が成り立つ様子が一目で分かります。
この⑤は管理人お気に入りの可視化表現です。図中の点$A$、$B$は $a \geqq b$ の範囲で自由に動かせます。
⑥ 円を用いる(その3)
半径$\sqrt{ab}$の円に外接する等脚台形$ABCD$(下辺$2a$、上辺$2b$)について、辺$AD$の中点を$M$、円の中心$O$から辺$AD$に下した垂線の足を$H$とすると、$OM=\dfrac{a+b}{2}$、$OH=\sqrt{ab}$ となります。ここから相加・相乗平均の不等式が説明できます(等号成立は$ABCD$が正方形のとき)。
この図示方法はいわゆる「アーキタスの定理」に関連しています。
※当サイトがお世話になっている Loving is Easy さん(@LovingisEasy1)からご教授頂きました。この場を借りて感謝いたします。
⑦ $y=\sqrt{x}$ を用いる
$y=\sqrt{x}$ を用いる解析的な方法も有効です。中点$M$の$y$座標よりも、同じ$x$座標における曲線上の点$C$の$y$座標の方が大きいことを利用します。図中の点$A$、$B$は自由に動かせます。
図より点$C$と$M$の$y$座標について明らかに$$\sqrt{\dfrac{a+b}{2}} \geqq \dfrac{\sqrt{a}+\sqrt{b}}{2}$$が成り立ちます。両辺正なので2乗して$$\dfrac{a+b}{2} \geqq \dfrac{a+2 \sqrt{a b}+b}{4}$$ $$\therefore \dfrac{a+b}{2}-\dfrac{a+b}{4} \geqq \dfrac{\sqrt{a b}}{2}$$ $$\therefore \dfrac{a+b}{2} \geqq \sqrt{a b}$$を得ます。等号が成立するのは点$A$と$B$が一致するとき、つまり $a=b$ のときであることも一目瞭然ですね。「関数の凸性」という重要な考え方に基づく方法です。
⑧ $y=\log{x}$ を用いる
$y=\log{x}$ を用いる方法は、解析的な証明法としては最もオーソドックスでしょう。⑦の方法と大差ありませんが、$$\log \dfrac{a+b}{2} \geqq \dfrac{\log a+\log b}{2}$$から直ちに結果が得られるのが嬉しいポイントです。図中の点$A$、$B$は自由に動かせます。
$n$項に拡張した相加・相乗平均の不等式は、この $y=\log{x}$(もしくは逆関数の $y=e^x$)を用いる方法によって示すのが簡便です。
⑨ 傾きを用いる
$a \leqq b$ として、$y=\sqrt{ax}$(青色)と $y=\sqrt{bx}$(赤色)の2つの曲線を用意します。図のように点を取り、$AB$の傾きを$m_1$、$CD$の傾きを$m_2$とします。このとき $m_1 \geqq m_2$ が成り立つことから、$$\dfrac{b-\sqrt{ab}}{b-a} \geqq \dfrac{\sqrt{ab}-a}{b-a}$$ $$\therefore \dfrac{a+b}{2} \geqq \sqrt{ab}$$が従います。$a=b$ のときは別に場合分けして等号成立を確認します。なかなかエレガントな証明法ですね。
【参考】“Proof Without Words: Arithmetic Mean / Geometric Mean Inequality” by Wasim Akram Mandal
⑩ 直角三角形を用いる
図のような直角三角形を考えると、相加・相乗平均の不等式はほとんど自明ですね。
相加平均・相乗平均の不等式は様々な場面に適用できる便利な不等式です。シンプルな不等式ゆえに様々な証明方法が知られており、今回は視覚に訴える直感的な証明法について色々紹介しました。皆さんのお気に入りの証明はどのスタイルですか? ここで紹介しきれていない図形的な証明も沢山あると思いますので、是非コメント欄で教えて下さい!