こんにちは。管理人のpencilです。今回は無理分数の有理化についてのメモ書きです。3乗根を含む場合も考察します。
なぜ有理化が必要なのか?
よく数学の先生に
「答えの分母には根号(ルート)を入れてはいけません」
と言われます。$\require{cancel}$
別に計算結果を$\dfrac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}}$と書こうが、$\sqrt{\dfrac{2}{3}}$と書こうが、$\dfrac{\sqrt{6}}{3}$と書こうが、どれも一緒なので構わない気がします。しかしながら、実際に推奨されるのは分母には根号を含まない$\dfrac{\sqrt{6}}{3}$の形です。
$\dfrac{\sqrt{5}+\sqrt{2}}{\sqrt{5}-\sqrt{2}}$ も $\dfrac{7+2\sqrt{10}}{3}$ も同じ値を表しているのに、後者の方が答えとして相応しいとされる理由は何でしょうか?
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「約分」という操作があります。皆さんご存知の通り、$$\dfrac{\cancel{6}}{\cancel{4}}=\dfrac{3}{2}$$とする操作のことです。分数の約分では分子と分母の公約数をキャンセルし、最終的には分子と分母の公約数が$1$である互いに素な分数(既約分数)に変形します。この操作によって、この分数に対応する有理数の表現がただ一つに定まるのです。
「ただ一つに定まる」というのは一見何でもないようですが、結構大切な考え方です。事実、有理化で目指している式変形もこの考え方に依っているところが大きいです。
$\dfrac{7+2\sqrt{10}}{3}$($=4.4415184…$)という数には多くの表し方が存在しますが、有理化することによって表現の方法が(項の順序を除いて)ほとんど1通りに定めることができます。
有理化には次のような利点があります。
・次のステップの計算がラクになる(ことがある)
・見やすくなるので計算ミスなどを発見しやすい
・大小の比較がしやすくなる
・(先生などが)採点しやすい
…など
例えば、$$\sqrt{2}+\dfrac{\sqrt{5}+\sqrt{2}}{\sqrt{5}-\sqrt{2}}$$という計算をする場合、有理化しておいた方が計算しやすくなりそうだというのは何となく想像できます。また、有理化によって分数の見た目を揃えられるので、他の人にも計算の結果や意図が分かりやすくなるメリットが生まれます。
さらに、もう少し高度な視点から捉えるならば、有理化とは無理数の集合が体であることを露わにする操作であるとも言えます(大抵の場合は「二次体」)。
例えば $\dfrac{1}{1+\sqrt{2}}$ という分数は有理化すると $-1+\sqrt{2}$ となります。これにより集合$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$に含まれることが直ちに了解できます。
※「二次体」というのは平方因子を含まない $0$、$1$ 以外の整数$d$を用いて$$\mathbb{Q}(\sqrt{d}) = \{a+b\sqrt{d} \mid a, b\in \mathbb{Q}\}$$と表される集合を指します。ここで$\mathbb{Q}$は有理数の集合です。
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ともあれ、無理分数の有理化が常に要求される訳ではないと言えばそうなのですが、数学の文化の一つとして身に付けておきましょう。
ただし、有理化というのは手計算でなければあまり意味を持たない操作でもあります。実際、物理や化学の計算問題では有理化したがために、より計算式が遠回り or 煩雑になってしまう、といった場面に出くわすことがあります。あくまでも、有理化は数学分野の慣習の一つとして継承されている、と割り切ってしまうのが良いのかもしれません。
コツ①:平方を作るのが基本
無理分数を有理化する際は、分母に根号が含まれない形にしなければなりません。この目的のためであれば、どんなに分子にルートが来て煩雑になろうとも意に介する必要はありません。
項が2成分の場合は次のように計算します(ここでは$a$、$b$は正の整数とします)。
$\begin{aligned} \frac{1}{\sqrt{a}+\sqrt{b}} &=\frac{(\sqrt{a}-\sqrt{b})}{(\sqrt{a}+\sqrt{b})(\sqrt{a}-\sqrt{b})} \\ &=\frac{\sqrt{a}-\sqrt{b}}{a-b} \end{aligned}$
分子と分母に $\sqrt{a}-\sqrt{b}$ を掛けることで、分母を「平方の差」の形にしています。これにより分母は整数になります。
項が3成分の場合は次のように計算します。
$\small \begin{aligned} \frac{1}{\sqrt{a}+\sqrt{b}+\sqrt{c}} &=\frac{(\sqrt{a}+\sqrt{b}-\sqrt{c})}{(\sqrt{a}+\sqrt{b}+\sqrt{c})(\sqrt{a}+\sqrt{b}-\sqrt{c})} \\ &=\frac{\sqrt{a}+\sqrt{b}-\sqrt{c}}{(\sqrt{a}+\sqrt{b})^{2}-c} \\ &=\frac{\sqrt{a}+\sqrt{b}-\sqrt{c}}{(a+b-c)+2\sqrt{ab}} \end{aligned}$
ここで3行目の分数は項が2成分の場合に相当するので、もう一度「平方の差」を作る操作を行って有理化が完了します。
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例えば $\dfrac{1}{\sqrt{2}+\sqrt{3}}$ を有理化したいときは、$$\begin{aligned} \frac{1}{\sqrt{2}+\sqrt{3}} &=\frac{(\sqrt{2}-\sqrt{3})}{(\sqrt{2}+\sqrt{3})(\sqrt{2}-\sqrt{3})} \\ &=\frac{\sqrt{2}-\sqrt{3}}{2-3} \\ &= \sqrt{3} -\sqrt{2} \end{aligned}$$と計算すればOKです。
コツ②:対称性を意識しよう
例えば $\dfrac{1}{\sqrt{3}+\sqrt{2}+1}$ を有理化したいとき、皆さんはどのように計算しますか?
分子と分母に $(\sqrt{3}+\sqrt{2}-1)$ を掛ける方針だと以下のようになります。$$\small \begin{aligned} \frac{1}{\sqrt{3}+\sqrt{2}+1} &=\frac{(\sqrt{3}+\sqrt{2}-1)}{(\sqrt{3}+\sqrt{2}+1)(\sqrt{3}+\sqrt{2}-1)} \\ &=\frac{\sqrt{3}+\sqrt{2}-1}{(\sqrt{3}+\sqrt{2})^{2}-1} \\ &=\frac{\sqrt{3}+\sqrt{2}-1}{4+2\sqrt{6}} \\ &=\frac{(\sqrt{3}+\sqrt{2}-1)(\sqrt{6}-2)}{2(\sqrt{6}+2)(\sqrt{6}-2)} \\ &=\frac{\sqrt{2}-\sqrt{6}+2}{4} \end{aligned}$$
これでも良いのですが、$(1+\sqrt{2}-\sqrt{3})$ を掛ける方針の方が計算がラクです。実際、$$\small \begin{aligned} \frac{1}{1+\sqrt{2}+\sqrt{3}} &=\frac{(1+\sqrt{2}-\sqrt{3})}{(1+\sqrt{2}+\sqrt{3})(1+\sqrt{2}-\sqrt{3})} \\ &=\frac{1+\sqrt{2}-\sqrt{3}}{(1+\sqrt{2})^{2}-3} \\ &=\frac{1+\sqrt{2}-\sqrt{3}}{\color{red}{2\sqrt{2}}} \\ &=\frac{\sqrt{2}+2-\sqrt{6}}{4} \end{aligned}$$となり、1回目の操作で分母に$2\sqrt{2}$だけが残るので計算量を減らすことができます。
これは$$\frac{1}{\sqrt{a}+\sqrt{b}+\sqrt{c}} =\frac{\sqrt{a}+\sqrt{b}-\sqrt{c}}{\color{red}{(a+b-c)}+2\sqrt{ab}}$$において、特に $\color{red}{a+b=c}$ のとき$$\frac{1}{\sqrt{a}+\sqrt{b}+\sqrt{c}} =\frac{\sqrt{a}+\sqrt{b}-\sqrt{c}}{2\sqrt{ab}}$$と簡単になることを上手く利用した方法です。
つまり、$\dfrac{1}{\sqrt{3}+\sqrt{2}+1}$ を有理化したいときは、$\sqrt{3}+\sqrt{2}$ や $1+\sqrt{3}$ をセットにするよりも、$\sqrt{2}+1$ をセットにした方が計算がラクになります。$\dfrac{1}{\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}$ などで試してみると、その巧さがよく分かると思います。有理化の際は対称性を考慮して行うことで計算量を削減し、計算ミスを予防するよう心掛けましょう。
3乗根を含むときはどうする?
ここまでは $\dfrac{1}{1+\sqrt{2}}$ といった平方根を含む無理分数を扱ってきました。しかし常にそう上手くいく訳ではありません。例えば$$\dfrac{1}{1+\sqrt[3]{2}}$$を有理化したいときはどうすればよいでしょうか。今までのように $1-\sqrt[3]{2}$ を掛けても上手くいきそうにありません。
そこでよく考えると、$\sqrt[3]{2}$は3乗すれば根号が取れるので、今まで「平方の差」を作っていたところを「立方の差 or 和」にすれば良いのではないか、と気が付きます。
ここで$$1^3+(\sqrt[3]{2})^3=(1+\sqrt[3]{2})(1-\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{2^2})$$ですから、$\dfrac{1}{1+\sqrt[3]{2}}$ の分子・分母に $1-\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4}$ を掛ければ、$$\begin{aligned} \frac{1}{1+\sqrt[3]{2}} &=\frac{(1-\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4})}{(1+\sqrt[3]{2})(1-\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4})} \\ &=\frac{1-\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4}}{1+2} \\ &=\frac{1-\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4}}{3} \end{aligned}$$となって無事、有理化することができました。
これ以上は詳しくやりませんが、もしも4乗根や5乗根が分母に出てきたとしても、べき乗の和や差に変換するという方針を持っていれば、どんな無理分数でも(計算はハードですが、理論上は)有理化することができます。
分母に虚数単位を含む複素分数の有理化についても、見た目は少し違いますが、概ね上記と同じような理屈で議論・計算できます。
お久しぶりです.
つまらない指摘ですが...
・表題で「有利化」となっているのは「有理化」です.
・本文中で,「1/(1+√2)を有理化すると1-√2となる」とありますが,
正しくは√2-1です.
たけちゃん さん
お久しぶりです。
誤りのご指摘に感謝致します。
気を付けてはいるのですが、どうもこういうミスがなくなりませんね・・・(^_^;)。
いつもありがとうございます。
すみません,あと1カ所,
「なぜ有利化が必要なのか?」がありました.
なお,結論の数値を「できるだけシンプルに表現する」ことは
望ましいことだと思いますが,
何がシンプルかは状況や主観によって分かれる場合も多いですね.
有理化の話に限定しても,個人的には多くの場合,
例えば「π/√2」の分母を有理化したいとは思わない気がします.
たけちゃん さん
またまたご指摘ありがとうございます。
どういう場面で有理化すべきかについては確かに議論の余地があると思います。
$\dfrac{\sqrt{2}}{2}\pi$ よりも $\dfrac{\pi}{\sqrt{2}}$ の方がシンプルに見えるといえばその通りですし、「$\sin \theta = \dfrac{\sqrt{3}}{3}$ を満たす角$\theta$」よりも有理化せずに「$\sin \theta = \dfrac{1}{\sqrt{3}}$ を満たす角$\theta$」と表現する方が個人的にはイメージしやすいように感じます。
私は学生に対して、答の値くらいは有理化することを勧めていますが、その必要性の根拠は実際かなり主観的なものに依っています。
高校入試であれば分かりませんが、大学入試の数学において答えを有理化しなかったからといって減点する大学はあるのでしょうか?
そういった噂はこれまで聞いたことがありません。
本文中(7+10√2) / 3は、
(7+2√10) / 3 ではないでしょうか?
なべ さん
初めまして。
コメントありがとうございます。
ご指摘の該当する2箇所を修正しました。
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