明けましておめでとうございます。今年の4月1日には平成に替わる新たな元号が公表される運びです。次の元号は248番目の元号となりますが、巷では昨年から元号の予想合戦が繰り広げられています。頭文字はM、T、S、H以外だろうという予想が大勢を占めていますが、実際のところは関係者しか分かりませんね・・・。
ともかく、昨年は災害の多い年でしたので、今年は平穏な一年であって欲しいですね!
創作整数問題#50
《問題#50》
方程式 $a^2 b=a^3+2b^2$ を満たす整数の組$(a,\,b)$をすべて求めよ。
(創作問題)
新年一発目、しかも#50というキリ番ということもあり、何となくシンプルながらも本格的なディオファントス方程式にしてみました(笑)
大学入試レベルだとさすがに誘導設問を付けないと試験にならない気がしますが、数学コンテストでは易問扱いされてしまいそうです・・・。
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答えは $\color{red}{(a,\,b)=(-1,\,1),(0,\,0),(8,\,16),(9,\,27)}$ です。
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創作整数問題#49(解き方)
$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k}$ は$2$以上の任意の整数$n$に対して整数にならないことを示せ。 |
$$\small \displaystyle \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{n} = 1 + \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{3} + \dfrac{1}{4} + \dfrac{1}{5} + \cdots$$は調和級数(harmonic series)と呼ばれ、古くから和声学や建築学などの分野で研究されてきた数列です。調和数列はしばしば「harmonic series」の頭文字を取って $H_n=\displaystyle \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k}$ と書き表されます。
一般項が $n \to \infty$ で$0$に収束するにもかかわらず、和が無限大に発散するという直感に反する数列としても知られています。この事実について、初等的な証明法が知られていますが、$\log x$ を用いた追い出しの原理によっても証明することができます。
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調和数列$H_n$の有名な性質の一つとして$1$より大きいどんな$n$についても整数値をとらないことが知られており、本問はこの事実を証明しようというものです。ここではよく知られた証明法をご紹介します。
証明$1 < 2^m \leqq n$ を満たす整数$m$で最大のものを$M$とし、$$\small 1 + \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{3} + \cdots + \dfrac{1}{2^M} + \cdots + \dfrac{1}{n}=k$$(ただし$k$は整数)と仮定する。両辺に$2^{M-1}$を乗じると、$$\small 2^{M-1} + \dfrac{2^{M-1}}{2} + \dfrac{2^{M-1}}{3} + \cdots + \dfrac{1}{2} + \cdots + \dfrac{2^{M-1}}{n} =k2^{M-1}$$ $$\small \therefore 2^{M-1} + 2^{M-2} + \dfrac{2^{M-1}}{3} + \cdots + \dfrac{2^{M-1}}{n} =k2^{M-1}-\dfrac{1}{2}$$ここで、右辺を通分したときの分母は$2$である。一方、左辺の各項を約分すれば分母は奇数となるので、これらすべてを通分したときの分母は奇数となり、$2$になることはない。したがって左辺と右辺の分母が一致しないので、これは不合理である。
故に$\displaystyle \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k}$は$2$以上の任意の$n$に対して整数にならないことが示された。
《前回のおまけ問題の解説》
前回のおまけ問題は以下のようなものでした。
《おまけ問題》
$p$を正の整数とするとき、$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^p}$ は$2$以上の任意の整数$n$に対して整数にならないことを示せ。
解答に移る前に、本問の背景(?)について触れておきましょう。皆さんは「バーゼル問題」と呼ばれる数学の問題をご存知でしょうか?(興味のある方は「バーゼル問題を解いてみよう!」のページを是非ご覧下さい!)
「バーゼル問題」とは、平方数の逆数からなる級数$$\displaystyle \sum^{\infty}_{n=1} \dfrac{1}{n^2}=1 + \dfrac{1}{2^2} + \dfrac{1}{3^2} + \cdots$$の厳密な極限値を求めるというもので、1735年に数学者レオンハルト・オイラーによって解決されました。当時、この級数が収束することは知られていましたが、オイラーによる証明が与えられるまで、何と100年近くも未解決のままでした。
実はこの級数は$\dfrac{\pi^2}{6}$という値に収束するのですが、一見すると級数の形からは想像しにくい極限値です。当のオイラーも厳密値を求めるのには大変苦労したようで、解析学の知識を駆使して級数の値を小数点以下20桁程度まで計算し、それから数年後にようやく$\dfrac{\pi^2}{6}$に収束しそうだと見当を付けたそうです。これをヒントに、オイラーは正弦関数のマクローリン展開に着目し、$\dfrac{\sin x}{x}$を「因数分解」するという天才的な発想で極限値$\dfrac{\pi^2}{6}$を導くことに成功しました。
さて、おまけ問題の$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^p}$ですが、$p=1$ のときは問題#49の解答の通り、整数になり得ません。また、$$\dfrac{\pi^2}{6}=1.644934066…$$という値を考えると、$p \geqq 2$ のときは$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^p}$が$2$より小さい数にしかならないので、決して整数にはならないことが分かります。つまり $n \geqq 2$ のとき、$p \geqq 2$ ならば常に$$1<\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^p}<2$$が成り立つため、これが整数になることはありません。
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仮にもし$\dfrac{\pi^2}{6}$という極限値を知らなかったとしても、$n \geqq 2$ のとき、$$n^2>n(n-1)$$という不等式から$$\dfrac{1}{n^2}<\dfrac{1}{n(n-1)}$$を得ますので、$$1<\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^2}<1+\sum^{n}_{k=2} \dfrac{1}{k(k-1)}$$が成り立ちます。$\displaystyle \sum^{n}_{k=2} \dfrac{1}{k(k-1)}$は「望遠鏡和」(telescoping sum)によって計算でき、$$\small \begin{align}&\sum^{n}_{k=2} \dfrac{1}{k(k-1)} \\ &=\sum_{k=2}^{n}\left({\dfrac{1}{k-1}}-{\dfrac{1}{k}}\right) \\ &=\left(1-{\dfrac{1}{2}}\right)+\left({\dfrac{1}{2}}-{\dfrac{1}{3}}\right)+\cdots-\dfrac{1}{n} \\ &=1+\left({\dfrac{1}{2}}-{\dfrac{1}{2}}\right)+\left({\dfrac{1}{3}}-{\dfrac{1}{3}}\right)+\cdots-\dfrac{1}{n} \\ &=1-\dfrac{1}{n} \end{align}$$より、$$1<\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^2}<2-\dfrac{1}{n}<2$$が示されます。これより、$p$が$2$より大きいときについて、$$1<\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^p}<\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^2}<2$$が言えるので、題意が成り立つことが示されます。
※注:$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \dfrac{1}{k^p}$が整数でないことは、問題#49の解答において「両辺に$2^{M-1}$を乗じる」という部分を「両辺に$2^{pM-1}$を乗じること」とすれば一般の$p$について代数的に証明可能です。
(2019/01/08 たけちゃん さんよりご指摘を頂きました)
(コメント)
本問は割と有名な部類の問題ですが、分母の偶奇で場合を絞り込むという方法は初等的でありながら盲点であったりします。今回の問題では左辺と右辺の分母の比較でしたが、「分子が奇数で分母が偶数であるような有理数は整数にならない」というこれもまた当たり前に思えるような事実が解答の突破口になることもしばしばあります。
これに関して、例えば2018年の東大理系数学では$\dfrac{_{2n+1}\mathrm{C}_n}{n!}$(文科では$\dfrac{_{2n}\mathrm{C}_n}{n!}$)が整数になるような$n$を求めさせる問題が出題されています。この問題には分子と分母の形に着目させる誘導設問が付いているので、東大の整数問題としてはかなり易しめのレベルになっていますが・・・。
分数絡みの整数問題では他にも「分母≦分子」などの必要条件が考えられるので、どの攻略法が適切か、その都度見極める必要があります。
今年からはページの見た目に拘ってみようかと思い、今回はカラーの囲み枠を使ってみました。記事の内容にメリハリが付くのは良いことですが、デコレーションが派手にならないように注意したいと思います(笑)
あと、スマホだとよくTeXの長い数式が画面からはみ出してしまいダサいのですが、せっかく付けた枠線を突き抜けてしまうのでより一層ダサく見えますね(笑)。PCやタブレットではちゃんと収まるように表示されるので、スマホ画面の場合に限ってスクロールバーを付ける、といった対応はできますが、それも何となく格好悪く見えてしまいます。
何とかなりませんかね・・・(´~`;)
「前回のおまけ問題」ですが,p=1の場合が証明済みとして,
その証明自体は忘れた前提で考えれば,提示されている方法が楽ですが,
実際は,そもそもp=1とp≧2を分けて考える必要がなさそうです.
問題#49の解答として書かれている[よく知られた証明法]とまったく同様に,
「両辺に2^{M-1}を乗じる」かわりに「両辺に2^{pM-1}を乗じる」ことで,
ほとんど修正なく「おまけ問題」の解答として通用しますね.
たけちゃん さん
コメントありがとうございます。今年もどうぞ宜しくお願いします。
おまけ問題に関して、記事中では解析的なアプローチのみを紹介していましたが、仰る通り問題#49と全く同様の代数的な方法で証明することもできますね。
ご指摘に感謝致します。