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新年一発目は創作整数問題から参りましょう!このコーナーも早いもので86問目を数えます。
ところで、$86$というのは何の変哲もない数字に思われますが、少し面白い性質が知られています。$k$を正の整数として$2^{k}$を$10$進法で表示したとき、各位の数字として$0$が表れないような$k$のうちで最大のものは$86$と考えられています。実際、$$2^{86}=77371252455336267181195264$$となり$0$は現れていません!
このような整数列はオンライン整数列大辞典「OEIS」のA007377として登録されています。$10^{10}$以下の範囲にそのような整数は存在しないことが確かめられていますが、$86$が最大かどうかは厳密に証明されておらず、現在も未解決の問題です。
因みに、$3^{k}$の場合は $k=68$ が現時点で見つかっている最大の整数だそうで、こうした冪乗の “zeroless number” を与える整数列$\{k\}$は一般に有限の値からなると予想されています。面白いですね。
創作整数問題#86
《問題#86》
平方数とは、ある整数の二乗として表される数のことである。
(1)$a_{1}$、$a_{2}$、$a_{3}$、$a_{4}$、$b_{1}$、$b_{2}$、$b_{3}$、$b_{4}$を整数とし、$A=\displaystyle \sum_{i=1}^{4}a_{i}^{2}$、$B=\displaystyle \sum_{i=1}^{4}b_{i}^{2}$ とする。このとき積$AB$もまた$4$個の平方数の和として表せることを示せ。つまり等式$$\begin{aligned}AB=&\,(a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+a_{3}b_{3}+a_{4}b_{4})^{2} \\ & \quad +(a_{1}b_{2}-a_{2}b_{1}+a_{3}b_{4}-a_{4}b_{3})^{2}\\ & \quad \quad +(a_{1}b_{3}-a_{2}b_{4}-a_{3}b_{1}+a_{4}b_{2})^{2}\\ & \quad \quad \quad +(a_{1}b_{4}+a_{2}b_{3}-a_{3}b_{2}-a_{4}b_{1})^{2}\end{aligned}$$が恒等的に成り立つことを示せ。
(2)$2022$を$4$個の平方数の和として表せ。ただし平方数の組は$1$組のみ与えれば良い。
(3)$173892$を$4$個の平方数の和として表せ。ただし平方数の組は$1$組のみ与えれば良い。
(創作問題)
$2022$に因んだ整数問題にしてみました。(1)はただの計算問題です。(2)で詰まったときは、まず素因数分解してみることをオススメします。
» 答えはこちら
(1)計算するだけなので省略。
(2)$\color{red}{42^2 + 13^2 + 8^2 + 5^2}$ など。
(3)$\color{red}{357^2 + 187^2 + 107^2 + 5^2}$ など。
(2)の組をいきなり求めるのが難しければ、先に$337$を4つの平方数の和で表して(1)の恒等式を用いると良いでしょう。(3)の値は(2)の組と(1)の恒等式を用いて得られます。
なお、本問は$86$が $6^2 + 5^2 + 4^2 + 3^2$ という4つの隣接する平方数の和で与えられる事実に着想を得て作問されました。ただし本問を解く際にはゼロを含む $6^2 + 5^2 + 5^2 + 0^2$ の方を使うのがラクですが…。
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創作整数問題#85(解き方)
方程式$(*)$に関する以下の問いに答えよ。$$(*): \quad y^2=x^3+7$$ (1)方程式$(*)$が整数解$(x,y)$を持つとすれば、$x$は奇数に限ることを示せ。 $a$を整数、$p$を素数として $n^2 \equiv a \pmod{p}$ を満たす整数$n$が存在するとき「$a$は$p$を法とする平方剰余である」という。ここで一般に、$p-1$ が$p$を法とする平方剰余であるならば、$p$は$4$で割った余りが$1$となる素数に限ることが知られている。 (2)上記の事実を利用して方程式$(*)$が整数解を持たないことを示せ。 |
(1)は$x$が偶数として平方剰余を考えれば矛盾が導かれます。ここでは $\mod 8$ を取るのが良いでしょう。(2)は平方剰余の相互法則を用いて証明する必要があり、ヒントが無いと大変です。問題文中で与えられているヒントを上手く使いましょう。
解答例
(1)
$x$、$y$を整数として、方程式$(*)$の整数解$(x,y)$が存在すると仮定する。ここで$x$が偶数だとすると、$$y^2 \equiv 7 \pmod{8}$$となるが、これを満たすような整数$y$は存在しない。よって、方程式$(*)$の整数解$(x,y)$が存在するならば、$x$は奇数でなければならない。
□
(2)
方程式$(*)$を$$y^2+1=x^3+8$$ $$\therefore y^2+1=(x+2)(x^2-2x+4) \quad \cdots ①$$と変形する。ここで$$x^{2}-2 x+4=(x-1)^{2}+3 \, (\geqq 3)$$と変形できるから、$x^2-2x+4$ は少なくとも$3$以上の値をとる。また、(1)の結論より$x$は奇数でなければならないから、$$(x-1)^{2}+3 \equiv 3 \pmod{4}$$が成り立つ。したがって、$x^2-2x+4$ は$4$で割った余りが$3$であるような素因数を少なくとも1つ以上もつ。($\cdots ②$)
また、$x$は奇数だから $x^2-2x+4$ を割り切るような素数$p$は奇素数に限り、$①$より$p$は $y^2+1$ も割り切る。これより$$y^{2}+1 \equiv 0 \pmod{p}$$を得るが、これは $p-1$ が$p$の平方剰余であることを意味する。ここで問題文中で述べられている事実に基づけば、このような素数$p$は$4$で割った余りが$1$となる素数に限られるから、$x^2-2x+4$ の素因数はいずれも$4$で割った余りが$1$であるような素数に限られることが従う。ところが、これは先ほどの結論$②$と矛盾し不合理である。
以上より、$x$が奇数の場合でも方程式$(*)$を満たすような整数組$(x,y)$は存在しない。よって(1)の結論と合わせて、方程式$(*)$は整数解を持たないことが示された。
□
問題#85は本格的なディオファントス方程式の問題でしたが、(1)は標準的なレベルの整数問題だったと思います。解答例では省略してしまっていますが、$y^2 \equiv 7 \pmod{8}$ を満たすような整数$y$が存在しないことは、$$\begin{array}{l|llllllll}
y & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 \\
\hline y^{2} & 0 & 1 & 4 & 1 & 0 & 1 & 4 & 1
\end{array}$$といった剰余の表($\bmod{8}$)を書いておけば、より丁寧です。あるいは $x=2n$ などと置いて$$y^2+1=8(n^3+1)$$と変形しても良さそうです。この場合は $\bmod{4}$を考えるだけで左辺が$8$の倍数になり得ないことが示せます。
一方で(2)はヒントがあったとしても使いどころが難しかったと思います。与式を因数分解してさらに「$x^2-2x+4$ を割り切るような素数$p$」を考えるというのがポイントでした。問題文中の「$p$は$4$で割った余りが$1$となる素数に限る」という部分から逆算して、「$4$で割った余りが$3$となる素数」の存在を利用して矛盾を導くのではないか、と発想できる…と良かったのですが、鋭い推理力の持ち主でもなかなか難しいと思います(笑)。ただ、こういう議論のやり方もあるのだということは知っておくと良いでしょう。
それから余談ですが、$y^2=x^3+ax+b$ という形の方程式で表される曲線は「楕円曲線」と呼ばれ、ブロックチェーンなどの暗号技術に応用されています。今回の方程式 $y^2=x^3+7$ は「Secp256k1」という規格の楕円曲線暗号の公開鍵生成アルゴリズムに使われています。この方程式の係数(パラメータ)はBitcoinやEthereumといった主要なブロックチェーンにおける暗号化に利用されており、堅牢な情報保護システムの一翼を担っています。この分野に興味のある方は楕円曲線暗号に関する数学書を読んでみて下さい。