対数微分法の使いどころ

対数微分法は数学Ⅲにおいて学習する微分法の応用ですが、その使いどころをしっかり理解している受験生はそれほど多くありません。指数型の関数にしか対数微分法を使わないというのは実は勿体ないことなのです。意外と見落としがちな対数微分法の勘所を押さえておけばケアレスミスや計算の手間を減らすことができます。

 

 対数微分法の基本

対数微分法について軽く復習しておきましょう。以下、対数はすべて自然対数とします。

$y=f(x)$ に対して $w=\log y$ と置いて両辺を$x$で微分すると、$$(\text{左辺})=\frac{d w}{d x}=\frac{d w}{d y} \frac{d y}{d x}=\frac{1}{y} \frac{d y}{d x}$$となり、導関数は$$y^{\prime}=y \cdot \frac{d}{dx}(\log y)$$と求められます。具体的には以下の手順で求めます。

① 正であることを確かめてから対数をとる
 (正でないときは絶対値をとればよい)
② $x$ で微分する
③ $y^{\prime}$ について解く

よくある例を紹介します。例えば2020年の大阪大学前期理系第1問に$$f(x)=(x+1)^{\frac{1}{x+1}} \quad (x \geqq 0)$$を微分させる出題がありましたが、これは見るからに対数微分法を使うべき形をしています。$$\begin{aligned}
\log f(x) &=\log (x+1)^{\frac{1}{x+1}} \\
&=\dfrac{\log (x+1)}{x+1}
\end{aligned}$$より、$$\begin{aligned}
\dfrac{f^{\prime}(x)}{f(x)} &=\dfrac{\dfrac{1}{x+1} \cdot(x+1)-\log (x+1) \cdot 1}{(x+1)^{2}} \\
&=\dfrac{1-\log (x+1)}{(x+1)^{2}}
\end{aligned}$$となって$$f^{\prime}(x)=\{1-\log (x+1)\} (x+1)^{\frac{1}{x+1}-2}$$と求められます。この後にも小問が続くのですが、本問の計算は阪大入試としては非常に易しいものでした。

 

 対数微分法の応用例

$y=6^{x^2}$ などの指数関数の微分には対数微分法が有効ですが、それ以外にも対数微分法が役立つケースがあります。

 

$$y=\dfrac{(x+3)^{3}(x-5)^{2}}{(x+1)^{2} \mathrm{e}^{x}}$$を微分せよ。

$$y=\dfrac{(x+3)^{3}(x-5)^{2}}{(x+1)^{2} \mathrm{e}^{x}}$$の両辺に対数をとると$$\small \log y=3 \log (x+3)+2 \log (x-5)-2 \log (x+1)-x$$となるので、両辺を$x$で微分して$$\begin{aligned} \dfrac{y^{\prime}}{y}&=\dfrac{3}{x+3}+\dfrac{2}{x-5}-\dfrac{2}{x+1}-1 \\ &=\dfrac{-x^{3}+4 x^{2}+17 x+36}{(x-5)(x+1)(x+3)} \end{aligned}$$より、$$\small y^{\prime}=-\dfrac{\left(x+3\right)^2\left(x-5\right)\left(x^3-4x^2-17x-36\right)}{\left(x+1\right)^3\mathrm{e}^{x}}$$を得ます。

導関数自体を明示的に求める必要が無い場合(「$f'(0)$の値を求めよ」といったケース)は通分しなくても良いので計算量を大きく減らせます。

このように次数が高い有理関数の場合は対数微分法が有効です。


他にも例えば $y=\dfrac{\sqrt{\sin^2\left(x\right)+1}}{\log\left(x^2+1\right)+1}$ の導関数は$$\small \dfrac{\cos\left(x\right)\sin\left(x\right)}{\sqrt{\sin^2\left(x\right)+1}\left(\log\left(x^2+1\right)+1\right)}-\dfrac{2x\sqrt{\sin^2\left(x\right)+1}}{\left(x^2+1\right)\left(\log\left(x^2+1\right)+1\right)^2}$$となりますが、これを商の微分公式を使って計算するのはやや大変です。一方で対数微分法によれば$$\small \log y =\dfrac{1}{2} \log \left(1+\sin ^{2} x\right)-\log \left(1+\log \left(1+x^{2}\right)\right)$$より、$$\small \begin{aligned}
\therefore \dfrac{y^{\prime}}{y} &=\dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{0+2 \sin x \cos x}{1+\sin ^{2} x}-\dfrac{0+\dfrac{2 x}{1+x^{2}}}{1+\log \left(1+x^{2}\right)} \\
&=\dfrac{\sin x \cos x}{1+\sin ^{2} x}-\dfrac{2 x}{\left(1+x^{2}\right)\left\{1+\log \left(1+x^{2}\right)\right\}}
\end{aligned}$$となるので$y$を両辺に乗じて上記の式を得ます。マジメに計算するよりは多少ラクだと思います。

このように特殊関数の積や商を含む関数を微分するときは対数微分法の出番です。


$y = \dfrac{{{x^5}}}{{\left( {1 – 10x} \right)\sqrt {{x^2} + 2} }}$ では$$\small \begin{align*}y’ & = y\left( {\frac{5}{x} + \frac{{10}}{{1 – 10x}} – \frac{x}{{{x^2} + 2}}} \right)\\ & = \frac{{{x^5}}}{{\left( {1 – 10x} \right)\sqrt {{x^2} + 2} }}\left( {\frac{5}{x} + \frac{{10}}{{1 – 10x}} – \frac{x}{{{x^2} + 2}}} \right)\end{align*}$$として少し計算が簡単になりそうです。

ただし、$f(x)=\log\left(\mathrm{e}^x+x\right)\sqrt[3]{\mathrm{e}^{\sin\left(x\right)}+2}$ のように対数微分法を使ってもあまり省力化できない場合もあります。自分の手で確かめてみて下さい。

 

(おまけ)対数をとってから極値を見つける

一般に関数$f(x)$に対して、$f(x)$の値を極大(極小)にする$x$と、$\log f(x)$の値を極大(極小)にする$x$は一致します。これは$\log$が単調増加な関数であることによります。また、このこと事実自体は多項式に限定されるものではありません。関数$f(x)$の値が正である限り $\log f(x)$ の導関数は$\dfrac{f'(x)}{f(x)}$で与えられるため、$f(x)$の値を極大(極小)にする$x$と、$\log f(x)$の値を極大(極小)にする$x$は等しくなるのです。

この方法で実際に手計算が簡単になることもありますが、一番の利点は極値をとる条件を簡素化できる点です。これにより次数を下げてプログラムによる計算を速く行うことができるなどの利点があります。例えば、最尤推定における尤度方程式の解を見つけるために対数をとる方法が使われたりします。


例えば関数 $f(x)=x^3 (2-x)^3$ の場合、積の微分を用いる場合は以下のようになります。$$\begin{aligned} f^{\prime}(x) &=3x^2 (2-x)^3-3x^3 (2-x)^2 \\ &=3x^2 (2-x)^2 \{(2-x)-x\} \\ &=6x^2 (2-x)^2 (1-x) \end{aligned}$$したがって、この導関数から増減表を書くと $x=1$ で最大値をとることが分かります。一方で対数を取った場合、$$\begin{aligned}\log f(x) &=\log \left( x^{3}\left( 2-x\right) ^{3}\right) \\ &=3\log x+3\log\left( 2-x\right) \end{aligned}$$より、微分計算は$$\begin{aligned}\dfrac{f^{\prime}(x)}{f(x)} &=\dfrac{3}{x}-\dfrac{3}{2-x} \\ &=3\cdot \dfrac{\left( 2-x\right) -x}{x\left( 2-x\right) } \\ &=6\cdot \dfrac{1-x}{x\left(2-x\right) }\end{aligned}$$となり、より簡素な式が得られます。

この関数は簡単すぎてあまり恩恵を感じられませんが、多変数関数について極値条件を調べる場合は対数をとった方が計算が簡単になることがあります。


この考え方を知っていれば、例えば $y=\mathrm{e}^{\sin x}$ が周期関数であり$\sin x$と同じ$x$について周期的に極大・極小を持つことがすぐに分かります。また、$y=e^{x^2-x}$ について対数をとれば、$x^2-x$ と同じく $x=\dfrac{1}{2}$ で最小を取ることが直ちに了解できます(このこと自体は対数をとらなくてもすぐに分かりますが・・・)。

あまり微分法とは関係無い事柄かもしれませんが、対数をとるだけで得体の知れない関数でも少しは親しみやすくなるのではないでしょうか。

 

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