カタラン予想の特別な場合(東北大学2018年理系第3問)

今年の東北大の整数問題は有名問題からの出題でした。とは言っても、受験生の中で「カタラン予想」を知っている人は果たしてどれだけ居るのでしょうか・・・(笑)?

実はこの問題、当サイトの創作整数問題#11として昨年の4月に出題していたものと全く同じ問題です!今年の東北大理系を受験した人の中に、過去に閲覧されていた方がいれば、管理人としても嬉しい限りです。


 

整数 $a,\ b$ は等式$$3^a-2^b=1 \tag*{・・・・・・①}$$を満たしているとする。

(1)$a,\ b$ はともに正となることを示せ。

(2)$b>1$ ならば、$a$ は偶数であることを示せ。

(3)$①$ を満たす整数の組 $(a,\ b)$ をすべてあげよ。

(東北大学2018年理系 第3問)


《考え方と背景》

本問は整数論では有名な問題なので、もし予備知識があればかなり見通しが良かったことでしょう。実際には親切な誘導設問が付いているので予備知識などは全く不要なのですが、せっかくなので本問の背景について触れておきたいと思います。

実は、本問の題材となっている数論の定理が存在します。

『(カタラン・)ミハイレスクの定理』

等式 $x^a − y^b = 1$ を満たす$1$より大きい整数解の組は $x = 3$、$a = 2$、$y = 2$、$b = 3$ に限る。

この命題は「カタラン予想」として知られており、フランスの数学者カタラン(1814年~1894年:生まれはベルギー)が予想として発表してから150年以上も未解決のままでした。これをルーマニアの数学者ミハイレスク氏が2002年に証明し、フェルマーの最終定理ほどではないにせよ、当時の数学界においてかなり興奮をもって報じられました。今では「カタラン・ミハイレスクの定理」、若しくは単に「ミハイレスクの定理」と呼ばれています。

今回の東北大の問題はミハイレスクの定理において $x=3$、$y=2$ とした特殊な場合に関する証明問題となっています。

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(1)は等式$①$の左辺の指数部分がともに正でなければならないことの証明ですが、背理法的に示すのが良いでしょう。

$a$が$0$以下のとき、$x^a$は$1$以下となります。ここで、$b$がどんな整数であっても$y^b$は正の値しか取らないため、このとき左辺 $x^a-y^b$ は$1$未満となり等号が成立せず不適です。よって$a$は正であることが必要です。

次に$b$についてですが、いま証明した通り、$a \geqq 1$ が分かっているので$x^a$は整数となります。そこで$b$が負だとすると $0<y^b<1$ となるので、左辺 $x^a-y^b$ は整数値を取り得ず不適です。また、$b=0$ とすると等式$①$は$$3^a=2$$となり、$3$の冪乗が$2$になることはないのでこれも不合理です。したがって等式$①$を満たす整数$a$、$b$はともに正となることが示されました。

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(2)は単純な式変形(二項展開)で解決できます。少し大げさに言えば、$4$の平方剰余の考え方を利用します。

$b>1$、即ち $b \geqq 2$ のとき、$2^b$は$4$の倍数となるので等式$①$により、$3^a$を$4$で割った余りは$1$となることが必要です。

他方で $3=4-1$ ですから、$$\begin{align} 3^a &=(4-1)^a \\ &=4N+(-1)^a \end{align}$$と表せます(ただし$N$は非負整数)。したがって、$3^a$を$4$で割った余りが$1$となるには$a$が偶数となることが必要です。

これにより、$b>1$ ならば $a$ は偶数であることが示されました。

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(3)ではこれまでの設問の結果から、$a$、$b$がともに正のときを考えればよく、$b$が$2$以上のときは$a$が偶数となる場合のみを考えればよいことになります。

$b=1$ のとき等式$①$は$$3^a=3$$となり $a=1$ を得ます。

以下、$b \geqq 2$ の場合を考えます。このとき(2)の結果より$a$は偶数となるので、自然数$k$を用いて $a=2k$ と置けます。これより等式$①$は$$3^{2k}-1=2^b$$ $$\therefore (3^k+1)(3^k-1)=2^b$$と整理できます。このとき、$2l<b$ を満たす整数$l$を用いて$$\begin{cases} 3^k+1=2^{b-l} \\ 3^k-1=2^{l} \end{cases}$$と表すことができます。これより$$2^{b-l}-2^l=2$$ $$\therefore 2^l(2^{b-2l}-1)=2$$を得ますから、$$\begin{cases} 2^{l}=2 \\ 2^{b-2l}-1=1 \end{cases}$$となり、$l=1$ かつ $b-2l=1$、即ち$$\therefore a=2,\ b=3$$を得ます。

以上より、求める整数の組 $(a,\ b)$ は$$(a,\ b)=\color{red}{(1,\ 1),\ (2,\ 3)}$$となります。


 

数学愛好家にとっては割と親しみのある内容なのですが、受験生からしてみればそんな訳にはいかないでしょう。ただ、親切な誘導設問が用意されていますので、しっかり誘導に乗ることができればそれほど苦労せずに正答に辿り着けるものと思います。

上記の解説では$$(3^k+1)(3^k-1)=2^b$$と式変形したあと、左辺の因数について$2$の冪で置き直していますが、これにより分かりやすい形で解の候補を絞り込むことができています。このように得られた条件を文字によって式化する、という方法は整数問題を解く上では非常に大切で、条件の式化によって文字式の因数分解や、剰余に関する考察ができるようになり、問題解決の糸口を発見できることが結構あるのです。

今後、整数問題を解く機会が予想される受験生の皆さんは、このことを是非とも心に留めておいてください。


なお、本問の題材となったミハイレスクの定理については、その他の興味深い定理とともに、当サイトの「整数第4章『諸定理と数論の四方山話』」の頁に掲載しています。

それから、実は昨年、数学セミナー(2017年7月号)の人気コーナー「エレガントな解答を求む」の問題に、ミハイレスクの定理(カタラン予想)の特別な場合に関する出題がありました。そのときの問題は$$p^n+1=a^m$$($p$は素数、$a\ (\ne 2)$、$m\ (\ne 1)$、$n$は正の整数)という形の出題で、整数分野に心得のある高校生であれば十分に解答できると思います。解答の募集自体はとうの昔に終わっていますが取り組む価値のある問題なので、腕に覚えのある方は腕試ししてみるのも一興かと思います。

 


(2018/04/14追記)

本問は1988年の数学セミナー(10月号)に誘導設問が無い形でほとんど同じ出題があります。また、20年以上前の学習院大でも同様の出題があるという噂(?)を聞いています。ともかく、本問は指数型の不定方程式としてはかなり有名な(簡単な?)部類に入ります。


(2018/04/28追記)

2015年の奈良県立医科大学の後期第3問に以下のような出題がありました。

 

$a$を$2$以上の整数、$p$を$2$より大きい素数とする。ある正整数$k$に対して等式$$a^{p-1}-1=p^k$$が成り立つのは、$a=2$、$p=3$ の場合に限ることを証明せよ。

 

「エレ解」の設定に比べてやや難度は下がりますが、この問題もまさしくミハイレスクの定理の特殊な場合に該当します。

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