表面積一定の円柱と直方体の体積の最大値

表面積が一定である円柱と直方体の体積の最大値について考えてみます。慶應大学の入試にこれに関連する出題があり、面白い誘導が付いていたので取り上げます。

 


まず次の問題を考えてみます。

問題

 

表面積が一定である直円柱の体積の最大値を求めよ。

 

別に「直円柱」にこだわる必要はないですが、考えやすいのでここでは直円柱としています。

普通なら次のように解くのではないでしょうか。

 

 円柱の場合(解法①:微分法)

底面の円の半径が$a$、高さが$b$である直円柱の表面積を$S$と置くと、$$\begin{aligned} S &=2 \times \pi a^{2}+2 \pi a \times b \\ &=2 \pi\left(a^{2}+a b\right) \end{aligned}$$より、

$a^{2}+a b=\dfrac{S}{2\pi}$ $\therefore b=\dfrac{S}{2\pi a}-a$

となります(当然ながら $a \ne 0$ です)。この直円柱の体積は $V =\pi a^{2} b$ と表せるので、$b$を代入して$$V=\pi a^{2}\left(\dfrac{S}{2 \pi a}-a\right)=\dfrac{S}{2} a-\pi a^{3}$$となります。これを$a$の関数とみなして$V(a)$と置くと、導関数は$$V^{\prime}(a) =\dfrac{S}{2}-3 \pi a^{2}=3 \pi\left(\dfrac{S}{6 \pi}-a^{2}\right)$$となるので、$a=\sqrt{\dfrac{S}{6 \pi}}$ のとき最大値 $\dfrac{S \sqrt{S}}{2 \sqrt{6 \pi}}-\dfrac{S \sqrt{S}}{6 \sqrt{6 \pi}}=\dfrac{S \sqrt{S}}{3 \sqrt{6 \pi}}$ をとり、このとき$$b=\dfrac{S}{2 \pi} \sqrt{\dfrac{6 \pi}{S}}-\sqrt{\dfrac{S}{6 \pi}}=2\sqrt{\dfrac{S}{6 \pi}}=2 a$$となります(増減表は省略)。

つまり、表面積が一定である直円柱の体積は、底面の直径と高さが等しくなるとき($b=2a$ のとき)に最大となることが分かります。

 

 円柱の場合(解法②:相加相乗平均)

2003年の慶應義塾大学(環境情報)で同じ趣旨の問題が出題されているのですが、この問題では3項の相加平均と相乗平均の不等関係を利用する誘導が付いていました。その流れに沿って解答を作ってみると以下のようになります。


$b_{1}$、$b_{2}$、$b_{3}$ を正の実数とし、$a_{1}=b_{1}^{3}$、$a_{2}=b_{2}^{3}$、$a_{3}=b_{3}^{3}$ としたとき、これらの相加平均と相乗平均の差を取って整理すると$$\small \begin{aligned} & \quad \dfrac{a_{1}+a_{2}+a_{3}}{3}-\sqrt[3]{\mathstrut a_{1} a_{2} a_{3}} \\ &=\dfrac{b_{1}+b_{2}+b_{3}}{6}\left(\left(b_{1}-b_{2}\right)^{2}+\left(b_{2}-b_{3}\right)^{2}+\left(b_{3}-b_{1}\right)^{2}\right)\end{aligned}$$となるので$$\frac{a_{1}+a_{2}+a_{3}}{3} \geqq \sqrt[3]{\mathstrut a_{1} a_{2} a_{3}}$$が成り立ち、等号は $a_{1}=a_{2}=a_{3}$ のときに限り成立します。$a$、$b$を正の実数とし、この不等式において $a_{1}=a^2$、$a_{2}=a_{3}=\dfrac{1}{2}ab$ として両辺を3乗すると、不等式$$4(a^{2}+a b)^{3} \geqq 3^{3}(a^{2} b)^{2} \quad \cdots (*)$$を得ます。これで必要な不等式が示されました。

ここで底面の円の半径が$a$、高さが$b$である直円柱の表面積を$S$、体積を$V$と置くと、$a^{2}+a b=\dfrac{S}{2\pi}$、$a^{2} b=\dfrac{V}{\pi} $ となります。これらの値を不等式$(*)$に代入すると$$\dfrac{S^{3}}{2 \cdot 3^{3}\pi^{3}} \geqq \dfrac{V^{2}}{\pi^{2}}$$ $$\therefore \dfrac{S \sqrt{S}}{3 \sqrt{6 \pi}} \geqq V$$を得ます。したがって体積$V$の最大値は$\dfrac{S \sqrt{S}}{3 \sqrt{6 \pi}}$であり、等号成立条件から

$a^2=\dfrac{1}{2}ab$  $\therefore 2a=b$

となり、解法①と同じ結果が得られます。

 

 直方体の場合

相加・相乗平均の不等関係が使えるというのは意外な印象を受けるかもしれませんが、直方体の場合を考えると何となくリーズナブルに思えるのではないでしょうか。

例えば縦、横、高さがそれぞれ$a$、$b$、$c$の直方体の体積は$$V=abc$$であり、表面積を$S$とすると$$\begin{aligned}
S &=2 a b+2 b c+2 c a \\ &=2(a b+b c+c a)
\end{aligned}$$となるので、相加・相乗平均の不等関係が使えそうです。

実際、$\dfrac{x_{1}+x_{2}+x_{3}}{3} \geqq \sqrt[3]{\mathstrut x_{1} x_{2} x_{3}}$ において $x_{1}=ab$、$x_{2}=bc$、$x_{3}=ca$ とすると
$$\dfrac{a b+b c+c a}{3} \geqq \sqrt[3]{\mathstrut (abc)^2}$$ $$\therefore \dfrac{S}{6} \geqq \sqrt[3]{\mathstrut V^{2}}$$ $$\therefore \dfrac{S^{3}}{6^{3}} \geqq V^{2}$$ $$\therefore \dfrac{S\sqrt{S}}{6 \sqrt{6}} \geqq V$$を得るので、$a=b=c$ のとき$V$が最大になります。つまり表面積が一定である直方体は、立方体のときに体積が最大となることが分かります。

※これは二葉双曲面 $a b+b c+c a=\dfrac{S}{2}$ 上で $abc$ の最大値を求める条件付き極値問題の一種と言えます。

(コメント)

直方体の場合は$S$や$V$が特に綺麗な対称式になっているので、ひょっとすると相加相乗が使えるのではないか?と勘を働かせることができます。相加・相乗平均の不等関係を用いずに示すこともできますが、計算がやや面倒です。

 

慶應大の問題は、直方体の場合で上手くできたので、相加・相乗平均の不等関係が直円柱でも使えるかも、という類推に基づいて作問されたのではないかと思います。それとも「解法②」は一般的によく知られている解法なのでしょうか・・・(^_^;)?


 

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