摂動論とは、対象としている問題Aを、厳密に解析解が求められる問題Bに小さな「ずれ」(摂動項) が加えられた問題と見なすことで、Aの近似解を求める方法です。本稿ではその分かりやすい導入として、2次方程式を例に摂動論を理解することを目指します。
摂動論の考え方
多重振り子や天体の運動などの力学や、シュレディンガー方程式などの量子力学に関する問題を扱う際に、厳密解を求められない問題に遭遇することが多々あります。そのようなときに活躍するのが「摂動論」という考え方です(この方法を指す場合は特に「摂動法」と呼ばれます)。普通は次のように説明されることが多いです。
摂動法では基本的にこれだけの操作しか要求されないのですが、この説明だけでは摂動論が具体的に何をする方法なのか分かりませんし、全くありがたみが伝わってきませんよね。
そこで2次方程式を例に、摂動論が具体的にどんな方法で、どんなご利益があるものなのかを直感的に理解していきましょう!
2次方程式を摂動法で解く
例えば、次の2次方程式を解くのは容易です。
では、次の2次方程式はどうでしょうか?
では早速、2次方程式
ⅰ. 摂動項 の導入
より一般的に考えるために、
さて、
ここでは「2次の摂動法」を用いることにします。いま、
ⅱ. の式を代入して整理
得られた方程式の両辺の係数を比較することで、以下の連立方程式が得られます。
ⅲ. 連立方程式を解く
①は厳密解を与える方程式で、ここから
同様に
ⅳ. 近似解の に値を代入する
以上より摂動を2次まで考慮した近似解
もとの2次方程式
厳密解は
摂動法の流れは、これまで見てきたように、
ⅰ 対象としている方程式に摂動項
ⅱ
ⅲ 係数比較により得られる連立方程式を解く
ⅳ 近似解の
という手順になっています。求めた近似解が厳密解とかけ離れていたらどこかで計算ミスをしています。検算も忘れずに!
誤差の範囲と摂動の大きさ
ここで気になるのが、摂動の大きさがどのくらいの範囲までなら許容できる誤差範囲内に収められるのか、という点です。何万回も繰り返し処理するような計算では小さな誤差でも、蓄積していくと膨大なズレに繋がります。誤差の程度は数値シミュレーションにおいて死活問題と言えます。
というわけで、近似解と厳密解の相対誤差を調べてみましょう。
2次方程式
厳密解と近似解の相対誤差が1%以内に収まるのは
誤差の範囲を0.001%以内と厳しくすると、
実際、
一方で
摂動論は一見複雑そうなことをしているように見えますが、対象が何であれ、やっていることは全て上で見てきたことと基本的に変わりません。今回の記事で少しでも摂動論恐怖症の方々の症状が緩和されることを願ってやみません…。
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