本稿では表題の通り、3次方程式の解の公式を用いて解析解を求めてみます!
先日、因数分解の式$$\begin{align} a^{3}+& b^{3}+c^{3}-3abc \\ =& (a+b+c)(a^{2}+b^{2}+c^{2}-a b-b c-c a) \end{align}$$から3次方程式の解の公式を導出する方法をご紹介しました。(参照:「3次方程式の解の公式」)
そこで今回は公式を用いて、色々な3次方程式の解析解を求めてみます。
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まず、チルンハウス変換について説明します。
$n$次方程式$$a_{0}x^n + a_{1}x^{n-1} + a_{2}x^{x-2} + \ldots + a_{n-1}x + a_{n}=0$$に対して $x=t-\dfrac{a_{1}}{na_{0}}$ と置換すると $n-1$ 次の項を消去することができます。これはチルンハウス変換と呼ばれ、3次方程式の場合は以下のような式変形になります。
$$ax^{3}+bx^{2}+cx+d=0$$において $x=t-\dfrac{b}{3a}$ と置くと、$$\begin{align} & a\left(t-\dfrac{b}{3 a}\right)^{3}+b\left(t-\dfrac{b}{3 a}\right)^{2}+c\left(t-\dfrac{b}{3 a}\right)+d \\ =& a t^{3}+\left(-\dfrac{b^{2}}{3 a}+c\right) t+\left(\dfrac{2 b^{3}}{27 a^{2}}-\dfrac{b c}{3 a}+d\right) \end{align}$$となるので、$p =-\dfrac{b^{2}}{3 a^{2}}+\dfrac{c}{a}$、$ q=\dfrac{2 b^{3}}{27 a^{3}}-\dfrac{b c}{3 a^{2}}+\dfrac{d}{a}$ と置くと方程式は$$t^3+pt+q=0$$の形に帰着する。
これにより、一般の3次方程式は $x^3+px+q=0$ という形に式変形できます。
さて、3次方程式の解の公式とは、以下のようなものでした。
3次方程式$$x^3+px+q=0$$の解は$$\color{red}{x=\begin{cases} \sqrt[3]{-\dfrac{q}{2}+\sqrt{r}}+\sqrt[3]{-\dfrac{q}{2}-\sqrt{r}} \\ \omega\sqrt[3]{-\dfrac{q}{2}+\sqrt{r}}+ \omega^{2}\sqrt[3]{-\dfrac{q}{2}-\sqrt{r}} \\ \omega^{2}\sqrt[3]{-\dfrac{q}{2}+\sqrt{r}} + \omega\sqrt[3]{-\dfrac{q}{2}-\sqrt{r}}\end{cases}}$$である。ただし、$$r=\dfrac{q^{2}}{4}+\dfrac{p^{3}}{27}$$である。
一般形の3次方程式$$ax^{3}+bx^{2}+cx+d=0$$に適用する際は、$$x=t-\dfrac{b}{na}$$と置換して$$t^3+pt+q=0$$の形に直してから公式を適用し、最後に$t$から$x$に直して求める、という手順を踏みます。
$x^3-1=0$ の場合
まずは簡単な3次方程式を解いてみます。
$p=0$、$q=-1$ より、$r=\dfrac{1}{4}$ となり、解の公式より$$x=\begin{cases} \sqrt[3]{\dfrac{1}{2}+\sqrt{\dfrac{1}{4}}}+\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}-\sqrt{\dfrac{1}{4}}} \\ \omega\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}+\sqrt{\dfrac{1}{4}}}+ \omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}-\sqrt{\dfrac{1}{4}}} \\ \omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}+\sqrt{\dfrac{1}{4}}} + \omega\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}-\sqrt{\dfrac{1}{4}}}\end{cases}$$となるので、$$\therefore x= 1 ,\ \omega ,\ \omega^{2}$$ $$\therefore x= \color{red}{1 ,\ \dfrac{-1\pm\sqrt{3}i}{2}}$$と求められます。この場合は単純に$1$の3重根を求めているだけなので公式を使うメリットは全くありませんが、虚数解を含めて正しく求められています。
$x^3-3x-2=0$ の場合
$p=-3$、$q=-2$ より、$r=0$ となり、解の公式より$$x=\begin{cases} \sqrt[3]{\dfrac{2}{2}+0}+\sqrt[3]{\dfrac{2}{2}-0} \\ \omega\sqrt[3]{\dfrac{2}{2}+0}+ \omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{2}{2}-0} \\ \omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{2}{2}+0} + \omega\sqrt[3]{\dfrac{2}{2}-0}\end{cases}$$となるので、$$\therefore x= 2 ,\ \omega + \omega^{2}$$と求められます($x=\omega + \omega^{2}$ は重解)。
$\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}$ とすると、$\omega^2=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}$ であるので、求める解は$$x=\color{red}{2 ,\ -1}$$の2つとなります。
この場合も方程式の左辺を因数分解できるので、答えは解の公式によらなくても簡単に求められます。
$x^3+3x-4=0$ の場合
$p=3$、$q=-4$ より、$r=5$ となり、解の公式より$$x=\begin{cases} \sqrt[3]{\dfrac{4}{2}+\sqrt{5}}+\sqrt[3]{\dfrac{4}{2}-\sqrt{5}} \\ \omega\sqrt[3]{\dfrac{4}{2}+\sqrt{5}}+ \omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{4}{2}-\sqrt{5}} \\ \omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{4}{2}+\sqrt{5}} + \omega\sqrt[3]{\dfrac{4}{2}-\sqrt{5}}\end{cases}$$となるので、$$\therefore x=\begin{cases} \sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-\sqrt[3]{\sqrt{5}-2} \\ \omega\sqrt[3]{\sqrt{5}+2}+ \omega^{2}\sqrt[3]{\sqrt{5}-2} \\ \omega^{2}\sqrt[3]{\sqrt{5}+2} + \omega\sqrt[3]{\sqrt{5}-2}\end{cases}$$と求められます。
一方で、$x^3+3x-4$ は $(x-1)(x^2+x+4)$ と因数分解可能なので、これらの解のうち実数であるものは $x=1$ に一致します。したがって$$\sqrt[3]{\sqrt{5}+2}-\sqrt[3]{\sqrt{5}-2}=1$$であり、その他の解も簡単にすると、$$x=\color{red}{1,\ \dfrac{-1 \pm \sqrt{15}i}{2}}$$と表せることが分かります。
この2種類の表現の仕方は入試問題の題材になることがあります。最近では和歌山大学2017年前期文系で出題されており、当サイトに解説記事があります(参照:「和歌山大学2017年前期 文系第1問」)。他にも2009年東北大後期や2002年大阪教育大後期でも類題が出題されています。
$x^3+2x^2+3x-2=0$ の場合
全く因数分解できない3次方程式の厳密解を、解の公式によって求めてみましょう。
まずチルンハウス変換を行います。$x=t-\dfrac{2}{3}$ と置くと、方程式は$$\left(t-\frac{2}{3}\right)^{3}+2\left(t-\frac{2}{3}\right)^{2}+3\left(t-\frac{2}{3}\right) – 2=0$$ $$\therefore t^3 + \dfrac{5}{3} t-\dfrac{92}{27} = 0$$と変換できます。この$t$の方程式について $p=\dfrac{5}{3}$、$q=-\dfrac{92}{27}$ より、$r=\dfrac{83}{27}$ となるので、解の公式より$$t=\begin{cases} \sqrt[3]{\dfrac{46}{27}+\dfrac{\sqrt{249}}{9}}-\sqrt[3]{\dfrac{\sqrt{249}}{9}-\dfrac{46}{27}} \\ \omega\sqrt[3]{\dfrac{46}{27}+\dfrac{\sqrt{249}}{9}}-\omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{\sqrt{249}}{9}-\dfrac{46}{27}} \\ \omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{46}{27}+\dfrac{\sqrt{249}}{9}}-\omega\sqrt[3]{\dfrac{\sqrt{249}}{9}-\dfrac{46}{27}}\end{cases}$$となるので、$$\therefore x=\color{red}{\begin{cases} -\dfrac{2}{3}+\sqrt[3]{\dfrac{46}{27}+\dfrac{\sqrt{249}}{9}}-\sqrt[3]{\dfrac{\sqrt{249}}{9}-\dfrac{46}{27}} \\ -\dfrac{2}{3}+\omega\sqrt[3]{\dfrac{46}{27}+\dfrac{\sqrt{249}}{9}}-\omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{\sqrt{249}}{9}-\dfrac{46}{27}} \\ -\dfrac{2}{3}+\omega^{2}\sqrt[3]{\dfrac{46}{27}+\dfrac{\sqrt{249}}{9}}-\omega\sqrt[3]{\dfrac{\sqrt{249}}{9}-\dfrac{46}{27}}\end{cases}}$$と求められます。(※ $\dfrac{46}{27}-\dfrac{\sqrt{249}}{9}<0$ であることに注意)
このように、単純な因数分解では解けない3次方程式の厳密解は複雑な表式をもちます。
4次方程式の解の公式というものも知られており、そのうち記事にまとめられればと考えています。また、5次以上の次数の方程式には解の公式が存在しないことが、19世紀フランスの天才数学者ガロアによって証明されています。詳しくは「ガロア理論」を勉強して下さい!
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