最近話題になった頭脳王の整数問題を取り上げてみます。この問題、実はそれなりに背景のある問題なのです・・・。
先週放送されたクイズ番組「頭脳王2020」で、以下の問題が出題されました。
色々と普通でない日テレのクイズ番組『頭脳王』ですが、特にこの問題は正解者が4人中3人も居たということで視聴者の度肝を抜いたようです。反響の度合いはTwitterを見れば何となく察しがつきます。
この番組は「ひたすら頭が良い人のすごさをボーッと見てるだけ」という清々しい番組。
クイズがひたすら出されていくのみ。
答えの解説を視聴者用にしてくれることもありません。
解説されても分からないからね…。#頭脳王 #頭脳王2020 pic.twitter.com/vv91Qo8bkc— 現役テレビディレクターのぼやき (@r1erhipXXvTbG06) February 14, 2020
フェルマーの最終定理で扱われる不定方程式に似ていますが、負の整数解も含まれるのでちょっと違います。$$x^{3}+y^{3}+z^{3}=k$$というタイプの不定方程式はよく研究されていますが、この研究の源流は “Solutions of the Diophantine equation $x^{3}+y^{3}+z^{3}=k$”(外部リンク)という1955年に発表された論文にまで遡ることができます。この論文によってこの型の不定方程式が問題提起され、現在に至るまで解の探索が行われていました(論文の末尾に解のリストが掲載されています)。
$k \not \equiv \pm 4 \pmod{9}$ のとき、$$x^{3}+y^{3}+z^{3}=k$$は無数に整数解をもつことが予想されており、これまで多くの$k$に対して解が与えられてきました。
2019年の3月まで、$k<1000$ の範囲では以下の$k$で解が見つかっていませんでした。
33, 42, 114, 165, 390, 579, 627, 633, 732, 795, 906, 921, 975
ところが、2019年の3月頃に “Cracking the problem with 33”(外部リンク)という論文が発表され、遂に $x^{3}+y^{3}+z^{3}=33$ の解が見つかったのです。$$\begin{align} 33 = \; &8866128975287528^3 \\
& + (-8778405442862239)^3 \\
& + (-2736111468807040)^3 \end{align}$$このような巨大な解を見つけるのためには沢山のCPUが必要で、論文中では「23 core-years」を実時間で1か月間掛けたと述べられています。具体的な並列数は記載されていませんが、独自のアルゴリズムによって効率化された上でこれだけの計算資源を費やしているので、市販のPCだけではとても計算できるような問題ではないということが分かります。
さらに同じ年の9月頃には $x^{3}+y^{3}+z^{3}=42$ の解が発見されています。
$$\begin{align} 42 = \; &(-80538738812075974)^3 \\
& + 80435758145817515^3 \\
& + 12602123297335631^3 \end{align}$$
それが今回の「頭脳王」の出題だった、という訳です。しかしこれを覚えようと思うかどうかは人それぞれですね・・・(※今回の問題は予選会で出題されていたとの情報もあります)。
例えば $k=1$ の場合は、絶対値が1000以下の範囲で探しても以下のように多くの非自明な整数解$(x,y,z)$が存在します(並べ替えは無視)。
(-566,-823,904)
(-426,-486,577)
(-372,-426,505)
(-242,-720,729)
(-135,-138,172)
(-71,-138,144)
(-6,-8,9)
(9,-12,10)
(10,-12,9)
(64,-103,94)
(73,-150,144)
(94,-103,64)
(135,-249,235)
(144,-150,73)
(235,-249,135)
(244,-738,729)
(334,-495,438)
(438,-495,334)
(729,-738,244)
一方で $k=3$ の場合は比較的小さいものだと (1,1,1) や (4,-5,4) しか見つからず、次に(絶対値の)大きな解は
$x=569936821221962380720$、
$y=-472715493453327032$、
$z=-569936821113563493509$
となるそうです!これも最近発見された解のようです。先程の問題の解よりも数桁大きいため、探索のコストも桁違いなのでは…。
問題の見た目は単純なのに奥が深い、という点が数論という学問分野の薫り高いところだと思います。「頭脳王」では単なる知識・時事問題として出題されていましたが、実は数学者の多大な貢献の上に成り立っている問題だったのです。