隣接3整数の積の積(2023年東京工業大学数学第2問)

今年(2023年)の東京工業大学の問題の第2問です。最近の東工大はコンスタントに整数問題を出題しています。


 

実数 $$\left(x^3-x\right)^2\left(y^3-y\right)=86400$$ を満たす整数の組$(x,y)$をすべて求めよ。

(2023年 東京工業大学 第2問)

 

考え方

左辺の次数が高いので一瞬怯みそうになりますが、見かけほどは難しくありません。第1問に続き、シンプルな一題ですね。

$x^3-x$ のカタマリは $(x-1)x(x+1)$ と因数分解できるので、隣接3整数の積であることが分かります。$y$についても同様なので、この問題は「隣接3整数の積の積」に関する整数問題だと把握できます。そうと分かれば解の候補を絞り込むのは簡単そうです。$86400$を素因数分解するときにケアレスミスしないように注意。この手の問題では大きな素因数、もしくは次数の小さい素因数に注目して絞り込みを行うのが良いでしょう。今回で言うと、まずは素因数$5$の次数から議論を始めるのが良さそうです。

また、$x \ne 0$ のとき $(x^3-x)^2<x^6$ となることから $86400<x^6<10^6$ と大雑把に見積もって、高々 $x<10$ の範囲で探せば良さそうだと分かります。可能な解の範囲を絞り込む際には、素因数の種類、偶数と奇数の組み合わせ、・・・などの整数特有の制約を利用すると良いでしょう。以下、解答例を2つ示します。


解答例①

右辺について、$$86400=2^7 \cdot 3^3 \cdot 5^2 \quad \cdots ①$$である。また、左辺は$$\{(x-1)x(x+1)\}^2 (y-1)y(y+1)$$と変形できる。$(x-1)x(x+1)$と$(y-1)y(y+1)$はともに隣接する3整数の積であり、$①$より$$\begin{cases} (x-1)x(x+1) = 2^a \cdot 3^b \cdot 5^c \\ (y-1)y(y+1) = 2^d \cdot 3^e \cdot 5^f \end{cases}$$と置ける。ここで、$a$、…、$f$はいずれも負でない整数であり、$$\begin{cases} 2a+d=7 \\ 2b+e=3 \\ 2c+f=2 \end{cases} \quad \cdots ②$$を満たしている。

ここで $f=0,\, 2$ に限られるから、この2通りで場合分けする。

ア)$f=2$ のとき

$(y-1)y(y+1)$ について、「①:$y$が偶数の場合」と「②:$y$が奇数の場合」が考えられる。

隣接3整数の中には$3$の倍数と$5$の倍数がともに1個しか含まれないことに注意すると、①の場合、$y-1$ と $y+1$ のいずれか一方は$3$の倍数で、もう一方が$5$の倍数となる。そのような組は$25$、$27$であるが、これは$②$を満たさない。②の場合、$y-1$ と $y+1$ のいずれか一方は$50$の倍数となる。しかしこのとき、積 $(y-1)y(y+1)$ は $48^3=110592$ を上回ってしまう。

よって、このとき解は存在しない。

イ)$f=0$ のとき

このとき $c=1$ となる。ここで、$(x^3-x)^2=x^6-2x^4+x^2$ より、$x \ne 0$ のとき $(x^3-x)^2<x^6$ が成り立つ。また、$86400<10^6$ であるから、$y$の値によらず少なくとも $x<10$ が必要である。ここで、$x^3-x$ が$0$でない$5$の倍数となる、かつ、$x^3-x$ が素因数に$2$、$3$、$5$のみを持つような整数$x$は $x<10$ の範囲で $x=4,5,9$ の3つのみである。

$x=4$ のとき、$(a,b,c)=(2,1,1)$となるから、②より$(d,e,f)=(3,1,0)$となる。これを満たすのは $y=3$ のときに限る。したがって $(x,y)=(\pm 4,3)$ は題意を満たす。

$x=5$ のとき、$(a,b,c)=(3,1,1)$となるから、②より$(d,e,f)=(1,1,0)$となる。これを満たすのは $y=2$ のときに限る。したがって $(x,y)=(\pm 5,2)$ は題意を満たす。

$x=9$ のとき、$(a,b,c)=(4,2,1)$となるから、②より、これを満たすような$y$は存在しない。

以上より、求める整数の組は $\color{red}{(x,y)=(\pm 4,3),\,(\pm 5,2)}$ である。

隣接3整数の積を関数として見てやると、次のような解答も可能です。


解答例②

まず、左辺は$$\{(x-1)x(x+1)\}^2 (y-1)y(y+1)$$と変形できることに注意する。$\{(x-1)x(x+1)\}^2$は常に正だから、$x>0$ のときを考えれば十分である。

ここで整数$z$に対して $f(z)=(z-1)z(z+1)$ と置くと、$f(2)=6$ であり、$$86400 \div 6^2 = 2400<f(14)=2730$$となることから $1 \leqq y \leqq 14$ の範囲に絞られる。また、$86400$の素因数は$2$、$3$、$5$のみであるから、隣接3整数の積$f(x)$、$f(y)$として有り得る数は$$f(2)=6,\,f(3)=24,\,f(4)=60,\,f(5)=120,\,f(9)=720$$の5つに限られる。

次に$x$の範囲を調べる。いま $f(y) \geqq f(2)=6$ であるから、$${f(x)}^2 \leqq 86400 \div 6 = 14400$$を満たすことが必要である。よって $x \leqq 5$ となるから、この条件の下で${f(x)}^2 f(y)=86400$ を満たすような整数の組$(x,y)$を探すと、$(x,y)=(4,3),\,(5,2)$ を得る。

$x<0$ のときも全く同様に調べればよいから、求める整数の組は $\color{red}{(x,y)=(\pm 4,3),\,(\pm 5,2)}$ となる。


コメント

定数の値や次数が高いことでやや威圧感はありますが、非常にシンプルな整数問題でした。隣接3整数の積(の積)であることと素因数の種類という2つの制約により、解の候補を大きく絞り込むことができます。今年のセットの中で最も解きやすい問題だったと思います。

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