突然ですが、皆さんはなぞなぞを解くのが得意でしょうか?それともなぞなぞを作る方が得意でしょうか?今回はそんな話題から、数列の世界へご案内・・・。
ある日のことです。友人からいきなり、なぞなぞを出してくれ、と言われたので次の問題を解かせてみたのですが、これをなぞなぞとして出題するセンスも我ながらどうかと思いますね(笑)。
《なぞなぞ?》
$a_1=1$、$a_2=2$、$a_3=\smash{\fbox{? }}$、$a_4=4$
$\smash{\fbox{? }}$に入る数字は?
(もちろん創作問題です)
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なぞなぞとは?
そもそも「なぞなぞ」とは一体何なのでしょうか?
ある言葉や物を間接的に表現した問いに対して、それを当てさせるのが本来の「なぞなぞ」なのですが、頓智(とんち)を利かせた答えを要求する言葉遊びを用いたクイズ、とも説明されることがあります。
非常に一般的ななぞなぞの例
:パンはパンでも食べられないパンは?
(回答例:「フライパン」・・・お決まりの答えですね)
やや頓智の利いたなぞなぞの例
:朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。この生き物は何?
(回答例:「人間」・・・赤ん坊のときは四つん這いで、成長すると二本足で立てるようになりますが、老人になると杖を突くようになるので三本足、というわけです)
さて、それでは私の《なぞなぞ?》は一体どれに該当するのでしょうか?
この《なぞなぞ?》の数学的意味に気付いた方にとっては、これがなぞなぞというにはちょっと納得できないかもしれませんね(笑)。でも考えてみれば、「パンはパンでも食べられないパンは?」という問いかけに対して「フライパン」と答えようが「ジーパン」と答えようが「鉄板」や「審判」と答えようが、どれも全て「正しい」ので、解が複数存在するなぞなぞも許容されるということになるのでしょう。
しかしこの《なぞなぞ?》には、解が複数あると言えばもちろんその通りなのですが、実は無限個の解が存在するのです。
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推論する人々
恐らく10人中9人は
「$3$でしょ」
と即答するこの《なぞなぞ?》ですが、数学的な根拠を与えることにより、$\smash{\fbox{? }}$に入る数字としては「$1$」でも「$100$」でも「$10^{10^{10}}$」であっても(!)適切な答えと言えるのです。
その数学的根拠とは、数列$a_n$の一般項です。
$a_1=1$、$a_2=2$、$a_3=\smash{\fbox{? }}$、$a_4=4$ という数字の並びから、皆さんは直ちに次の予想が思い浮かぶことでしょう。
(予想)どうせ $a_n=n$ に違いない。
確かにこの予想に基づけば $a_3=3$ となるのは自明に思われますが、実はこれが唯一の正解ではないのです。例えば、次のような数列を考えてみてください。$$a_n=(n-1)(n-2)(n-4)+n$$どうでしょうか?確かに $a_1=1$、$a_2=2$、$a_4=4$ は満たしていますよね?ただしこのとき $a_3=1$ となっており、$3$というわけではありません。また、$a_n$が$$a_n=-\dfrac{97}{2}(n-1)(n-2)(n-4)+n$$という一般項をもつなら $a_1=1$、$a_2=2$、$a_4=4$ を満たし、かつ $a_3=100$ となります。《なぞなぞ?》において、数列$a_n$は何の定義もされていないのですから、$\smash{\fbox{? }}$に入る数字が整数である必要はありませんし、有理数である必要もありません。当然、実数である必要もないのです!
例えば$$a_n=\left(\dfrac{3}{2}-\dfrac{1}{2}i\right)(n-1)(n-2)(n-4)+n$$と定めれば、
$a_1=1$、$a_2=2$、$a_3=i$、$a_4=4$
という数列の出来上がりです。
種も仕掛けもございます、というこの数列。与えられた条件を満たしながら$a_3$に何でも入れられるように3次関数を構成すると以下のようになります。
$$\begin{align} a_n &= \left(\dfrac{3}{2}-\dfrac{1}{2}\smash{\fbox{? }}\right)n^3+\left(-\dfrac{21}{2}-\dfrac{7}{2}\smash{\fbox{? }}\right)n^2 \\ &\ \ \ \ \ +\left(22-7\smash{\fbox{? }}\right)n+\left(-12+4\smash{\fbox{? }}\right) \end{align}$$
これがこの《なぞなぞ?》に無限個の解が存在することの根拠なのでした。これによれば、どんな複素数でも$a_3$に登場させることができます。
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タネ明かし
さて、ここまでの話でお分かり頂けたと思いますが、ある数列を徹頭徹尾・・・とはちょっと意味が違いますが、完全に定義するためには一般項が与えられているか、漸化式(と初めの数項)が与えられている必要があります。
ですから、高校数学のドリル等でよくある「次の数列の一般項を求めよ」といったタイプの問題は、言ってしまえばナンセンスであるとも言えます(極論ですが)。
一つ例を挙げてみます。
例)「数列 $1$、$3$、$6$、$10$、$25$、$\cdots$ の一般項を求めよ」
普通なら階差数列を取って $a_n=\dfrac{1}{2}n(n+1)$ と求めるのでしょうが、$$\begin{align} a_n &= mn^5-15mn^4+85mn^3 \\ & \ \ \ \ \ +\left(\dfrac{1}{2}-225m\right)n^2+\left(274m+\dfrac{1}{2}\right)n-120m \end{align}$$とすれば$m$に様々な値を代入することで$6$項目の値をどんな値にも変えることができますから、実は一般項は一意に定まらないのです。同様に漸化式を定めることもできません。$a_{n+1}=a_n+n+1$ に「見える」というだけです。まあ、もちろんこれらは難癖なのですが(笑)。
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要するに…
この《なぞなぞ?》は
「一般項や漸化式の与えられていない数列は一意に定まらない」
という事実を分かりやすい形で提示したものと言えます。ですから、これはなぞなぞというよりは証明問題に近いものなんじゃないかと思います。幸い、友人は面白がってくれていたようですが、数学嫌いの人にも必ずウケるという保証はありません(笑)。
推測や予想というのはあくまで可能性の話に過ぎません。見かけに騙されると損した気分になりますし、見かけ以上のものが見えると得した気分になります。理学という学問は、自然が作り出す「見かけ」のさらに奥にある「本質」を追究する学問なのだと感じる今日この頃です。