対象:高校化学/前提:イオン、酸塩基、化学平衡、濃度
金属イオンの水溶液に試薬を加えると、沈殿ができたり、さらに加えた試薬で沈殿が消えたりします。色の一覧を覚える前に、溶解度、酸塩基反応、錯体形成のどの変化が起きたかを分けてみましょう。
✎沈殿が生じるのは、溶解平衡を超えたとき
難溶性塩AgClの溶解をAgCl(s)⇌Ag⁺+Cl⁻と書きます。濃度を使う近似では、平衡で[Ag⁺][Cl⁻]=Kspです。混合直後の積QがKspを超えると、沈殿が生成する方向が熱力学的に有利になります。少量のイオンがあるだけで必ず目に見える沈殿になるわけではありません。
計算用にKsp=1.0×10−10(mol/L)²とし、混合後の[Ag⁺]=[Cl⁻]=1.0×10−4mol/Lなら、Q=1.0×10−8でKspより大きくなります。混ぜる前の濃度ではなく、混合による希釈後の値を使います。
この数値は計算用で、実測の溶解度積ではありません。厳密な平衡定数は活量で定義します。核生成が遅い場合など、平衡の予測と観測までの時間も区別します。
この内容を詳しく確かめる:OpenStax Chemistry 2e, 15.1:Precipitation and Dissolution。
✎水酸化物の沈殿はpHにも依存する
M(OH)₂(s)⇌M²⁺+2OH⁻では、濃度積は[M²⁺][OH⁻]²です。OH⁻濃度を増やすと沈殿が生成しやすくなります。一方、酸を加えるとOH⁻が消費され、溶解する方向へ進めます。沈殿の生成を酸化還元反応と決め付けず、金属の酸化数が変わっているかも確認します。
✎過剰の塩基で溶ける両性水酸化物
Al(OH)₃やZn(OH)₂は酸にも強塩基にも溶ける代表的な両性水酸化物です。Al(OH)₃の場合、酸性側ではAl(OH)₃+3H⁺→Al³⁺+3H₂O、塩基性側ではAl(OH)₃+OH⁻→[Al(OH)₄]⁻と表せます。
最初はOH⁻を加えて沈殿が生じても、さらに加えると溶けたヒドロキソ錯体が安定になるため、沈殿が減ることがあります。「OH⁻を多くすれば、すべての水酸化物が必ず沈殿し続ける」という規則にはなりません。
✎アンモニアは塩基と配位子の両方になる
アンモニア水ではNH₃+H₂O⇌NH₄⁺+OH⁻によってOH⁻が供給されます。同時にNH₃の孤立電子対は金属イオンへ配位できます。この二つの働きが、少量添加と過剰添加で異なる結果を生むことがあります。
Cu²⁺水溶液では、アンモニア水を少量加えるとCu(OH)₂の沈殿を生じ得ます。十分な過剰のアンモニアではアンミン錯体を形成し、深青色の溶液になります。水溶液中の配位水を含めて表す場合には、[Cu(NH₃)₄(H₂O)₂]²⁺などと記述します。
AgClもアンモニア中で[Ag(NH₃)₂]⁺を形成すると、溶液中の遊離Ag⁺が減り、溶解平衡が移動して溶けやすくなります。沈殿が消える理由を、単に水で薄まったためと説明することはできません。
この内容を詳しく確かめる:OpenStax Chemistry 2e, 15.2:Lewis Acids and Bases。
✎反応を見分けるための整理
| 観察 | 確認すること |
|---|---|
| 試薬を加えると沈殿 | 混合後の濃度積、pH、難溶性塩の種類 |
| 酸で沈殿が溶ける | H⁺によって消費される成分と溶解平衡 |
| 過剰NaOHで溶ける | ヒドロキソ錯体の形成と両性 |
| 過剰NH₃で溶ける | 塩基としての作用とアンミン錯体形成 |
✎確認問題
二価金属の水酸化物で、OH⁻濃度を10倍にすると濃度積は何倍?
遊離金属イオン濃度が一定の瞬間を比べれば、10²=100倍です。実際に沈殿が進めば金属イオン濃度も変わります。
NaOHとアンモニア水は、同じpHなら常に同じ結果になる?
なりません。アンモニアは配位子としても働き、金属によっては錯体を形成します。pHだけでは反応条件を指定し切れません。
✎発展:平衡を足し合わせる
AgClの溶解平衡とAg⁺の錯体形成平衡を足すと、AgCl+2NH₃⇌[Ag(NH₃)₂]⁺+Cl⁻となります。対応する平衡定数は、同じ定義と標準状態でそろえれば二つの定数の積です。一つ一つの暗記事項を、複数の平衡の組合せとして理解できます。
数値例と確認問題は学習用に作成しています。本文の近似条件を確認して利用してください。
