対象:高校化学から大学初年級/前提:化学反応式、物質量、比熱
同じ始状態から同じ終状態へ変化するとき、エンタルピー変化は経路によらず決まります。この性質を使うと、直接測りにくい反応の熱を、別の反応のデータから求められます。計算では反応式の向き、係数、物質の状態をそろえる必要があります。
✎発熱反応でΔHが負になる理由
エンタルピー変化をΔH=H生成物−H反応物とします。圧力が一定で、体積変化による仕事以外の仕事を考えない閉じた系では、系が受け取る熱qₚがΔHに等しくなります。系から周囲へ熱が出る発熱反応ではqₚが負なので、ΔHも負です。
「発生した熱量が50kJ」と正の大きさで表すことと、「反応のエンタルピー変化が−50kJ」と書くことは両立します。どちらを述べているか確認します。エンタルピーの定義と符号の取り方はOpenStaxのエンタルピーの解説も参照してください。
✎例題:二つの反応式を差し引く
同じ温度・圧力の条件について、計算用に丸めた次の値を使います。Cは黒鉛、O₂、CO、CO₂は気体です。
② C+½O₂ → CO ΔH=−111kJ
求めたい反応がCO+½O₂→CO₂なら、①に②の逆反応を加えます。反応式を逆にするとΔHの符号も逆になるので、−394+111=−283kJです。左辺と右辺に現れるCを消すと、求める反応式が残ります。
反応式を2倍にすれば、同じ変化を2倍の量について考えるのでΔHも2倍です。CO1molの酸化に対応する値を、CO2molの反応へそのまま使うことはできません。
✎水が液体か気体かでも値は違う
H₂O(l)とH₂O(g)は同じ分子式でも、エンタルピーが異なります。燃焼で生じた水を水蒸気のまま扱うか、凝縮した液体まで含めるかによって、取り出される熱も変わります。反応式を足し合わせるときに、状態記号が違う水をそのまま相殺してはいけません。
✎温度上昇から熱を求める
仮想的な熱量測定で、溶液100gの比熱を4.2J g⁻¹ K⁻¹とし、温度が5.0K上がったとします。溶液が受け取った熱はmcΔT=2.1kJです。容器の熱容量と外への放熱を無視でき、温度上昇が反応だけによるなら、反応側の熱は−2.1kJとなります。
反応の進行度が0.050molなら、この測定から求める反応エンタルピーは−2.1/0.050=−42kJ/molです。これは計算用の例です。実際の測定では、容器や温度計も熱を受け取り、混合や希釈の熱が含まれる場合があります。
✎確認問題
A→BでΔH=+18kJ、B→CでΔH=−30kJなら、A→CとC→AのΔHは?
同じ基準量と状態をそろえれば、A→Cは18−30=−12kJ、逆のC→Aは+12kJです。
触媒を加えて別の経路で同じ生成物を得た。ΔHは変わる?
反応物・生成物の状態と量が同じなら変わりません。触媒は反応経路と速度に影響しますが、始状態と終状態のエンタルピー差を変えません。
✎発展:発熱なら必ず自然に進むのか
一定温度・一定圧力での反応の方向は、エンタルピーだけでなくエントロピーも含むギブズエネルギーで考えます。ΔG=ΔH−TΔSなので、吸熱でもΔGが負になる場合があります。また、進む向きが熱力学的に有利でも、障壁が高ければ観測時間内にほとんど反応しない場合があります。自由エネルギーと平衡、温度と反応速度を区別して読み進めてください。
