LaTeX形式の文書やホームページ上でMathJaxを経由して表示するLaTeXスタイルの数式内での括弧の取り扱いや豆知識についてまとめました。
目次
・括弧の種類
・括弧のサイズ調整
・数式の上下に横向きの波括弧と説明を付ける
・括弧の小ワザ集
# 異なる種類の括弧の組合せ
# 改行にまたがる括弧の書き方
# 場合分けにはダミーのドットが使える
# 区切り線を括弧の大きさに合わせる
# 括弧に積分区間を付ける
# 二項係数(組合せの総数)は\binomコマンドで
括弧の種類
数式中で利用される主な括弧の種類を以下に示します。
種類 | LaTeX 記法 | 表示 |
---|---|---|
丸括弧 | (x+y) |
\((x+y)\) |
角括弧(大括弧) | [x+y] |
\([x+y]\) |
二重角括弧 | \llbracket x+y \rrbracket |
|
床関数 | \lfloor x+y \rfloor |
\(\lfloor x+y \rfloor\) |
天井関数 | \lceil x+y \rceil |
\(\lceil x+y \rceil\) |
波括弧(中括弧) | \{ x+y \} |
\(\{ x+y \}\) |
山括弧 | \langle x+y \rangle |
\(\langle x+y\rangle\) |
パイプ | |x+y| |
\(\displaystyle| x+y |\) |
ダブルパイプ | \|x+y\| |
\(\| x+y \|\) |
角括弧は \lbrack \rbrack でも表示でき、波括弧は \lbrace \rbrace でも表示できます。波括弧は “brace”(ブレ-ス)とも呼ばれます。LaTeX文書中で波括弧は引数の指定などに用いられるため、そのままでは表示できません。数式中で波括弧を表示するためにはバックスラッシュ「\」でエスケープする必要があります。
パイプはBackSpaceキーの横にあるキーをShiftと同時に押せば入力可能です。ダブルパイプはベクトルのノルムの表示などで用いられます。パイプを「\」でエスケープするとダブルパイプになります。
LaTeX文書でstmaryrdパッケージを導入すれば\llbracket
と\rrbracket
というコマンドで二重角括弧が表示できます。当サイトのMathJaxの設定ではstmaryrdパッケージを使えるようにしていないので、上の表では表示していません。
量子力学などで多用されるブラケット記号を手軽に使いたい場合はbraket.styの導入をお勧めします。LaTeX文書ではbraket.styがあれば\usepackageコマンドで読み込めます。MathJaxでbraketパッケージを利用するには、JavaScriptのコードに
MathJax = { loader: {load: ['[tex]/braket']}, tex: {packages: {'[+]': ['braket']}} };
などと付け加えてMathJaxの設定を変更する必要があります(当サイトでは数式のインライン表示が不正になるので導入していません)。
括弧のサイズ調整
括弧のサイズは \big \Big \bigg \Bigg の順で大きくすることができます。
LaTeX 記法 | 表示 |
---|---|
丸括弧 | \(\big( \Big( \bigg( \Bigg(\) |
角括弧(大括弧) | \(\big] \Big] \bigg] \Bigg]\) |
波括弧(中括弧) | \(\big\{ \Big\{ \bigg\{ \Bigg\{\) |
山括弧 | \(\big \langle \Big \langle \bigg \langle \Bigg \langle\) |
山括弧 | \(\big \rangle \Big \rangle \bigg \rangle \Bigg \rangle\) |
パイプ | \(\displaystyle\big| \; \Big| \; \bigg| \; \Bigg|\) |
ダブルパイプ | \(\displaystyle\big\| \; \Big\| \; \bigg\| \; \Bigg\|\) |
左上鍵括弧 | \(\displaystyle\big \lceil \Big \lceil \bigg \lceil \Bigg \lceil\) |
右上鍵括弧 | \(\displaystyle\big \rceil \Big \rceil \bigg \rceil \Bigg \rceil\) |
左下鍵括弧 | \(\displaystyle\big \lfloor \Big \lfloor \bigg \lfloor \Bigg \lfloor\) |
右下鍵括弧 | \(\displaystyle\big \rfloor \Big \rfloor \bigg \rfloor \Bigg \rfloor\) |
左右の大きさのバランスが良くない時は「\bigl( \bigr)」のようにlとrで左右の括弧を明示すれば改善します。
大きさを自分で設定するのではなく、中身に合わせて自動的に調整させたい時は左側に\leftコマンド、右側に\rightコマンドを指定すると良いでしょう。例えば以下のようになります。
(\left・\right指定なし) \[ (\dfrac{1}{x+y})+y(\displaystyle \int_{0}^{1} x^{2} ~\mathrm{d} x) \] (\left・\right指定あり) \[ \left(\dfrac{1}{x+y}\right)+y\left(\displaystyle \int_{0}^{1} x^{2} ~\mathrm{d} x\right) \]
(\left・\right指定なし)\[(\dfrac{1}{x+y})+y(\displaystyle \int_{0}^{1} x^{2} ~\mathrm{d} x)\](\left・\right指定あり)\[\left(\dfrac{1}{x+y}\right)+y\left(\displaystyle \int_{0}^{1} x^{2} ~\mathrm{d} x\right)\]
数式の上下に横向きの波括弧と説明を付ける
\underbrace コマンドでは下側に、\overbrace コマンドでは上側に吹き出しが付きます。例えば以下のように使います。\[ N=\underbrace{222 \cdots \cdots 222}_{n \text{ 個}}\] \[ \underbrace{\overbrace{111…111}^{m \text{ 個}}\overbrace{222…222}^{n \text{ 個}}}_{m+n \text{ 桁}}\]
\[ N=\underbrace{222 \cdots \cdots 222}_{n \text{ 個}} \] \[ \underbrace{\overbrace{111...111}^{m \text{ 個}}\overbrace{222...222}^{n \text{ 個}}}_{m+n \text{ 桁}} \]
\underbrace のときは _(アンダーバー (アンダースコア))を使い、\overbrace のときは ^(キャレット)を使います。
括弧の小ワザ集
「ワザ」と呼べるほどのものではありませんが幾つか紹介します。
異なる種類の括弧の組合せ
括弧の両端は同じ種類である必要はありません。例えば \(0 < x \leqq 1\) のような半開区間は\[(0,\,1]\]と表示可能です。
\[ (0,\,1] \]
また、\leftと\rightの指定は両端の括弧が同じ種類でなくても機能します。\[\left(-\frac{1}{2}, \frac{1}{2}\right]\]
\[ \left(-\frac{1}{2}, \frac{1}{2}\right] \]
改行にまたがる括弧の書き方
数式が横長になりすぎて紙面からはみ出てしまう場合に、数式を折り返して表示したいときがあります。このようなケースでは括弧の中身が途中で分断されてしまい、そのままではエラーが発生してしまうので、対になる括弧の代わりにドット「.」をダミーとして配置して対応します。\[\begin{aligned} y = 1 + & \left( \dfrac{1}{x} + \dfrac{1}{x^2} + \dfrac{1}{x^3} + \ldots \right. \\
& \quad \left. + \dfrac{1}{x^{n-1}} + \dfrac{1}{x^n} \right)\end{aligned}\]
\[ \begin{aligned} y = 1 + & \left( \dfrac{1}{x} + \dfrac{1}{x^2} + \dfrac{1}{x^3} + \ldots \right. \\ & \quad \left. + \dfrac{1}{x^{n-1}} + \dfrac{1}{x^n} \right) \end{aligned} \]
ここでは「\left( ・・・ \right. // \left. ・・・ \right)
」という形で大きい括弧を分割して表示しています。これは改行が何個あっても使えるテクニックなので覚えておくと便利です。
場合分けにはダミーのドットが使える
また、ドットをダミーとして使えば場合分けの表示も簡単になります。例えば「ディリクレの関数」は以下のように表記できます。\[f(x)=\left\{ \begin{array}{l} 1 & (x \in \mathbb{Q}) \\ 0 & (x\in\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q}) \end{array} \right.\]
\[ f(x)=\left\{ \begin{array}{l} 1 & (x \in \mathbb{Q}) \\ 0 & (x\in\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q}) \end{array} \right. \]
「\begin{cases} \\ \end{cases}
」でcases環境を利用する正統派の方法もありますが、ドットを使う記法は括弧内の数式の微調整に向いています。どちらの方法でも見た目は変わりませんが、両方とも覚えておくと良いと思います。なお、LaTeX文書内でcases環境を利用するにはamsmathパッケージの読み込みが必要です。
区切り線を括弧の大きさに合わせる
集合を表す場合に区切り線を入れる場合には「パイプ」を使いますが、括弧の中身によっては高さが揃わない場合があります。このような場合は\middleコマンドを付けることで解決します。
(\middleなし)\[ \left\{\left(\begin{array}{l}x \\ y\end{array}\right) \in \mathbb{R}^{2} \;|\; x^2+y^2 \leqq 1\right\} \](\middleあり)\[ \left\{\left(\begin{array}{l}x \\ y\end{array}\right) \in \mathbb{R}^{2} \;\middle|\; x^2+y^2 \leqq 1\right\} \]
(\middleなし) \[ \left\{\left(\begin{array}{l}x \\ y\end{array}\right) \in \mathbb{R}^{2} \;|\; x^2+y^2 \leqq 1\right\} \] (\middleあり) \[ \left\{\left(\begin{array}{l}x \\ y\end{array}\right) \in \mathbb{R}^{2} \;\middle|\; x^2+y^2 \leqq 1\right\} \]
\middleコマンドを付けると前後が狭く窮屈な印象を受けるので、面倒ですが以下のように前後の空白を適宜付け足して調整します。微調整はお好みで。
\( \left\{(a,b,c) \in \mathbb{N}^{3} \,\middle|\, \dfrac{abc}{a+b+c} \leqq 1\right\} \)
\( \left\{(a,b,c) \in \mathbb{N}^{3} \;\middle|\; \dfrac{abc}{a+b+c} \leqq 1\right\} \)
\( \left\{(a,b,c) \in \mathbb{N}^{3} \mathrel{ }\middle|\mathrel{ } \dfrac{abc}{a+b+c} \leqq 1\right\} \)
\( \left\{(a,b,c) \in \mathbb{N}^{3} \,\middle|\, \dfrac{abc}{a+b+c} \leqq 1\right\} \) \( \left\{(a,b,c) \in \mathbb{N}^{3} \;\middle|\; \dfrac{abc}{a+b+c} \leqq 1\right\} \) \( \left\{(a,b,c) \in \mathbb{N}^{3} \mathrel{ }\middle|\mathrel{ } \dfrac{abc}{a+b+c} \leqq 1\right\} \)
行列の場合はarray環境のパラメータで仕切り線を入れたいところにパイプで指定します。\[\left[\begin{array}{ccc|ccc}1 & 2 & 3 & 1 & 0 & 0 \\ 4 & 5 & 6 & 0 & 1 & 0 \\ 7 & 8 & 9 & 0 & 0 & 1\end{array}\right] \]
\[ \left[\begin{array}{lll|lll}1 & 2 & 3 & 1 & 0 & 0 \\ 4 & 5 & 6 & 0 & 1 & 0 \\ 7 & 8 & 9 & 0 & 0 & 1\end{array}\right] \]
括弧に積分区間を付ける
「[ ]_{a}^{b}
」とすれば括弧に積分区間を付けることができます。\[ \displaystyle \int_{a}^{b} f(x)g(x) \,dx = \Bigl[ f(x)G(x) \Bigr]_{a}^{b} – \int_{a}^{b} f'(x)G(x) \,dx \]
\[ \displaystyle \int_{a}^{b} f(x)g(x) \,dx = \Bigl[ f(x)G(x) \Bigr]_{a}^{b} - \int_{a}^{b} f'(x)G(x) \,dx \]
二項係数(組合せの総数)は\binomコマンドで
\binom{n}{k} とすると縦型の二項係数 $\binom{n}{k}$ が表示できます。ディスプレイスタイルにしたいときは分数と同様に \dbinom{n}{k} とすると $\dbinom{n}{k}$ のように大きくなります。
括弧を使わないタイプの二項係数は {}_{n}\mathrm{C}_{k} → ${}_{n}\mathrm{C}_{k}$ などとすれば表示可能です。
読者の皆さんが愛用されているお気に入りの小ワザも是非コメント欄にて教えて下さい!