今回は総和公式の簡単な導出法について取り上げます。具体例として、3乗和から6乗和の計算方法をご紹介します。$\require{cancel}$
総和公式の導出(教科書版)
冪乗(べきじょう)の総和公式は高校数学では数列の範囲で登場するかと思います。2乗和や3乗和などは図形的に求められることが知られており、より一般には冪の差から公式を導出する方法が知られています。
具体的に言うと、例えば2乗和の場合、$$\small (k+1)^3-k^3=3k^2+3k+1 \quad (1)$$という恒等式から次のように計算することができます。
$(1)$式の両辺について $k=1$ から $k=n$ までの和を取ると$$\small \displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{(k+1)^3-k^3\}=3\sum^{n}_{k=1} k^2+3\sum^{n}_{k=1}k+\sum^{n}_{k=1}1 \quad (2)$$となります。
ここで右辺は初項と末項を残して中の項が全て綺麗に相殺されることから「望遠鏡和」(”Telescoping Sum”)と呼ばれ、次のように非常に簡単に計算できます。$$\small \begin{align}& \ \ \ \ \displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{(k+1)^3-k^3\} \\ & =\ \ \ \ \ \ (n+1)^3-\cancel{n^3} \\ & \ \ \ +\cancel{n^3}-\cancel{(n-1)^3} \\ & \ \ \ \ \ \vdots \\ & \ \ \ +\cancel{(2+1)^3}-\cancel{2^3} \\ & \ \ \ +\cancel{(1+1)^3}-\ \ 1^3 \\ & =(n+1)^3 -1 \end{align}$$この方法は俗に「和の中抜け」若しくは「項の中抜け」と呼称されることがありますが、英語圏には”Telescoping”という上手い表現があります。このような伸ばした「望遠鏡🔭」を一気に縮めるような計算法によって、計算を省力化することができます。隣接する2つの整数の差を取る理由はここにあったのです。
こうして$2$乗和の公式は$$\small \begin{align}\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^2 & =\dfrac{1}{3}\{(n+1)^3-1\}-\dfrac{1}{2}n(n+1)-\dfrac{1}{3}n \\ &=\dfrac{1}{6}n\{2(n^2+3n+3)-3(n+1)-2\} \\ &=\dfrac{1}{6}n(2n^2+3n+1) \\ &=\dfrac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \end{align}$$と計算することができます。
この考え方を利用すればあらゆる冪乗の総和の公式を次々に導くことができますが、高次になればなるほど計算が煩雑化するという難点があります。例えば$\displaystyle \sum^{n}_{k=1}k^3$を求めたいときは$2$乗和のときより項が1つ増えるので、展開や因数分解で計算ミスが起きやすくなります。$\displaystyle \sum^{n}_{k=1}k^4$では更に計算ミスを誘発しやすくなりますし、$\displaystyle \sum^{n}_{k=1}k^5$や$\displaystyle \sum^{n}_{k=1}k^6$などの公式に至っては物好きな受験参考書でも載っているものは少ないと思います。
そこで今回は、より簡単に冪乗の総和の公式を導出する方法をご紹介します!
(以下では$m$を正の整数とします)
奇数乗の場合
$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^{2m-1}$を求めたいときは$$\small k^m (k+1)^m-(k-1)^m k^m$$を利用する。
早速、具体例を見ていきましょう。
$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \ \color{red}{k^2(k+1)^2-(k-1)^2 k^2} \\ &=\{(k+1)^2-(k-1)^2\}k^2 \\ &=\color{red}{4k^3} \end{align}$$より、$$\small k^3=\dfrac{1}{4}\{k^2(k+1)^2-(k-1)^2 k^2\}$$という恒等式を得ることができます。これより $k=1$ から $k=n$ までの和を取ると$$\small \displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^3=\dfrac{1}{4}\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{k^2(k+1)^2-(k-1)^2 k^2\}$$となり、右辺の和の中身を顕わに計算していくと次のようになります。$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{k^2(k+1)^2-(k-1)^2 k^2\} \\ &=\ \ \ \ \ \ n^2(n+1)^2-\cancel{(n-1)^2 n^2} \\ &\ \ \ +\cancel{(n-1)^2 n^2}-\cancel{(n-2)^2 (n-1)^2} \\ &\ \ \ \ \ \vdots \\ &\ \ \ +\cancel{2^2 \cdot (2+1)^2}-\cancel{(2-1)^2 \cdot 2^2} \\ &\ \ \ +\cancel{1^2 \cdot (1+1)^2}-\ \ (1-1)^2 \cdot 1^2 \\ &=n^2(n+1)^2 \end{align}$$これより、$$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^3=\dfrac{1}{4}n^2(n+1)^2$$を導くことができます。
$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \ \color{red}{k^3(k+1)^3-(k-1)^3 k^3} \\ &=\{(k+1)^3-(k-1)^3\} k^3 \\ &=\color{red}{6 k^5 + 2 k^3} \end{align}$$より、
$$\small k^5=\dfrac{1}{6}\{k^3 (k+1)^3-(k-1)^3 k^3\}-\dfrac{1}{3}k^3$$という恒等式を得ることができます。これより $k=1$ から $k=n$ までの和を取ると$$\small \displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^5=\dfrac{1}{6}\displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{k^3 (k+1)^3-(k-1)^3 k^3\}-\dfrac{1}{3}\sum^{n}_{k=1} k^3$$となります。ここで右辺の第一項は先程と同様に「望遠鏡和」の要領で以下のように計算できます。$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{k^3 (k+1)^3-(k-1)^3 k^3\} \\ &=\ \ \ \ \ \ n^3(n+1)^3-\cancel{(n-1)^3 n^3} \\ &\ \ \ +\cancel{(n-1)^3 n^3}-\cancel{(n-2)^3 (n-1)^3} \\ &\ \ \ \ \ \vdots \\ &\ \ \ +\cancel{2^3 \cdot (2+1)^3}-\cancel{(2-1)^3 \cdot 2^3} \\ &\ \ \ +\cancel{1^3 \cdot (1+1)^3}-\ \ (1-1)^3 \cdot 1^3 \\ &=n^3(n+1)^3 \end{align}$$これより、$$\small \begin{align}\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^5 & =\dfrac{1}{6}n^3(n+1)^3-\dfrac{1}{3}\cdot\dfrac{1}{4}n^2(n+1)^2 \\ &=\dfrac{1}{12}n^2(n+1)^2\{2n(n+1)-1\} \\ &=\dfrac{1}{12}n^2(n+1)^2(2n^2+2n-1) \end{align}$$となります。
※$5$乗和のケースでは $\displaystyle \dfrac{1}{3}\sum^{n}_{k=1} k^3$ という項が残ってしまいますが、いずれの項にも $n^2(n+1)^2$ が因数として含まれているので、因数分解の計算は全く難しくありません。
偶数乗の場合
$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^{2m}$を求めたいときは$$\small k^m (k+1)^m (2k+1)-(k-1)^m k^m (2k-1)$$を利用する。
これも具体例で確認しましょう。
$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \ \color{red}{k^2(k+1)^2(2k+1)-(k-1)^2k^2(2k-1)} \\ &=\{(k+1)^2(2k+1)-(k-1)^2(2k-1)\}k^2 \\ &=\color{red}{10k^4+2k^2} \end{align}$$より、$$\small k^4=\dfrac{1}{10}\{k^2(k+1)^2(2k+1)-(k-1)^2k^2(2k-1)\}-\dfrac{1}{5}k^2$$という恒等式を得ることができます。これより $k=1$ から $k=n$ までの和を取ると$$\small \begin{align}\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^4=\dfrac{1}{10}\sum^{n}_{k=1} \{k^2(k+1)^2(2k+1) -(k-1)^2&k^2(2k-1)\} \\ &-\dfrac{1}{5}\sum^{n}_{k=1} k^2\end{align}$$となり、右辺の第一項の望遠鏡和は$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{k^2(k+1)^2(2k+1) -(k-1)^2k^2(2k-1)\} \\ &=\ \ \ \ \ \ n^2(n+1)^2(2n+1)-\cancel{(n-1)^2 n^2(2n-1)} \\ &\ \ \ +\cancel{(n-1)^2 n^2(2n-1)}-\cancel{(n-2)^2 (n-1)^2(2n-3)} \\ &\ \ \ \ \ \vdots \\ &\ \ \ +\cancel{2^2 \cdot (2+1)^2(2\cdot2+1)}-\cancel{(2-1)^2 \cdot 2^2 \cdot (2\cdot2-1)} \\ &\ \ \ +\cancel{1^2 \cdot (1+1)^2(2\cdot1+1)}-\ \ (1-1)^2 \cdot 1^2 \cdot (2\cdot1-1) \\ &=n^2(n+1)^2(2n+1) \end{align}$$と計算されます。これより、$$\small \begin{align}& \ \ \ \ \displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^4 \\ &=\dfrac{1}{10}n^2(n+1)^2(2n+1)-\dfrac{1}{5} \cdot \dfrac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \\ &=\dfrac{1}{30}n(n+1)(2n+1)\{3n(n+1)-1\} \\ &=\dfrac{1}{30}n(n+1)(2n+1)(3n^2+3n-1) \end{align}$$と計算できます。
$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \ \color{red}{k^3(k+1)^3(2k+1)-(k-1)^3k^3(2k-1)} \\ &=\{(k+1)^3(2k+1)-(k-1)^3(2k-1)\}k^3 \\ &=\left[2k\{(k+1)^3-(k-1)^3\}+\{(k+1)^3+(k-1)^3\}\right]k^3 \\ &=\color{red}{14k^6+10k^4} \end{align}$$より、$$\small k^6=\dfrac{1}{14}\{k^3(k+1)^3(2k+1)-(k-1)^3k^3(2k-1)\}-\dfrac{5}{7}k^4$$という恒等式を得ることができます。これより $k=1$ から $k=n$ までの和を取ると$$\small \begin{align}\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^4=\dfrac{1}{14}\sum^{n}_{k=1} \{k^3(k+1)^3(2k+1) -(k-1)^3&k^3(2k-1)\} \\ &-\dfrac{5}{7}\sum^{n}_{k=1} k^4\end{align}$$となり、右辺の第一項の望遠鏡和は$$\small \begin{align}&\ \ \ \ \displaystyle \sum^{n}_{k=1} \{k^3(k+1)^3(2k+1) -(k-1)^3k^3(2k-1)\} \\ &=\ \ \ \ \ \ n^3(n+1)^3(2n+1)-\cancel{(n-1)^3 n^3(2n-1)} \\ &\ \ \ +\cancel{(n-1)^3 n^3(2n-1)}-\cancel{(n-2)^3 (n-1)^3(2n-3)} \\ &\ \ \ \ \ \vdots \\ &\ \ \ +\cancel{2^3 \cdot (2+1)^3(2\cdot2+1)}-\cancel{(2-1)^3 \cdot 2^3 \cdot (2\cdot2-1)} \\ &\ \ \ +\cancel{1^3 \cdot (1+1)^3(2\cdot1+1)}-\ \ (1-1)^3 \cdot 1^3 \cdot (2\cdot1-1) \\ &=n^3(n+1)^3(2n+1) \end{align}$$と計算されます。これより、$$\small \begin{align}& \ \ \ \ \displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^6 \\ &=\dfrac{1}{14}n^3(n+1)^3(2n+1) \\ & \ \ \ \ \ -\dfrac{5}{7} \cdot \dfrac{1}{30}n(n+1)(2n+1)(3n^2+3n-1) \\ &=\dfrac{1}{42}n(n+1)(2n+1)\{3n^2(n+1)^2-(3n^2+3n-1)\} \\ &=\dfrac{1}{42}n(n+1)(2n+1)(3n^4+6n^3-3n+1) \end{align}$$と計算できます。
※いずれのケースでも余分な項が残ってしまいますが、これらの項はどれも $n(n+1)(2n+1)$ を因数として含むため、因数分解にはほとんど苦労しません。
ここまで見てきたように、出発点となる恒等的の選び方を工夫するだけで、単純に $(k+1)^4-k^4$ や $(k+1)^6-k^6$ などを計算する方法に比べて、かなり少ない計算量で総和公式が導出できてしまいます。
冒頭で紹介した単純な冪の差だと$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^{p}$を求めるには $p-1$ までの冪乗の和を予めすべて求めておいて、更にそれらを足し合わせる必要がありましたが、今回紹介した恒等式を用いれば計算の手間が大幅に削減できます。
本当は愚直に計算する方法も併記して今回紹介した恒等式の威力を体感して頂きたいところなのですが、4乗和以降の公式の導出は計算が非常に面倒なので本稿では省略しました・・・。実際に手計算してみるとどれだけ計算量が削減できているかがお分かり頂けるかと思います。
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一応、種明かしをしておきます。今回紹介した恒等式の出所は、総和公式の因数に由来しています。
実は$3$以上の奇数乗の冪和公式はすべて $n^2(n+1)^2$ で括ることができ、$2$以上の偶数乗の冪和公式はすべて $n(n+1)(2n+1)$ で括ることができます。この事実に基づいた上で、更に望遠鏡和を利用できるように恒等式を選ぶ、というのがモチベーションとなっています。
また、余談ですが、$\displaystyle \sum^{n}_{k=1} k^{p}=S_p$ と置くと、$p \geqq 3$ のとき、$S_p$は$S_1$と$S_2$のみからなる多項式で表せることが知られています。
他の総和公式のエレガントな(視覚的に分かりやすい)導出方法としては「グノモン」を利用した図形的な方法などが知られていますが、冪が高次になると有難みが失われてしまいます・・・。
4乗和以上の公式が必要になる状況はあまり想定しにくいですが、隣接する冪の積を利用する導出方法は知っておいて損は無いかと思い、まとめてみました。望遠鏡和の考え方は部分分数分解などでも使う場面がありますね!
(2020/08/06 書式を一部変更)
(2023/12/24 書式を一部変更)
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