第2回「#旧帝戦数学部門」を解いてみた


先日、レッドブル主催の「第2回『#旧帝戦数学部門』」という催しがあったらしく、旧帝大の理学部は密かに盛り上がっていたようです。このようなイベントを聞きつけては、数学愛好家として解かない訳にはいきません。


《問題1》

$\displaystyle \sum_{k=0}^{n} {}_{n}\mathrm{C}_{k} a_k=n!$ を満たす数列$\{a_n\}$($n \geqq 0$)に対して、鍵番号 $A_1=\left[ \dfrac{a_{10}}{100}\right]$ を求めよ。ただし実数$x$以下の最大の整数を$[x]$と表すものとする。

(第2回「旧帝戦数学部門」)


《考え方》

さて、この数列$\{a_n\}$は一体どんな数列なのでしょうか。まず、${}_{0}\mathrm{C}_{0}$や${}_{n}\mathrm{C}_{0}$、$0!$はいずれも$1$であるということを前提としておきます。

$n=0$ のときは$$\displaystyle \sum_{k=0}^{0} {}_{0}\mathrm{C}_{k} a_k=0!$$ $$\therefore {}_{0}\mathrm{C}_{0} \cdot a_0=1$$と求められます。$n=1$ のときは$$\displaystyle \sum_{k=0}^{1} {}_{1}\mathrm{C}_{k} a_k=1!$$ $$\therefore {}_{1}\mathrm{C}_{0} \cdot a_0+{}_{1}\mathrm{C}_{1} \cdot a_1=1$$ $$\therefore a_1=0$$と求められます。$n=2$ のときは$$\displaystyle \sum_{k=0}^{2} {}_{2}\mathrm{C}_{k} a_k=2!$$ $$\therefore {}_{2}\mathrm{C}_{0} \cdot a_0+{}_{2}\mathrm{C}_{1} \cdot a_1+{}_{2}\mathrm{C}_{2} \cdot a_2=2$$ $$\therefore a_2=1$$と求められます。同様にして $n=3$ のときは$$\displaystyle \sum_{k=0}^{3} {}_{3}\mathrm{C}_{k} a_k=3!$$ $$\therefore {}_{3}\mathrm{C}_{0} \cdot a_0+{}_{3}\mathrm{C}_{1} \cdot a_1+{}_{3}\mathrm{C}_{2} \cdot a_2+{}_{3}\mathrm{C}_{3} \cdot a_3=6$$ $$\therefore a_3=2$$と求められます。これを順次繰り返して計算していくと、$a_4=9$、$a_5=44$、$a_6=265$、$\cdots$と求められます。では、$$1,0,1,2,9,44,265,\cdots$$という数列を見て何か規則性が見出せないか考えてみましょう。すると、実は $a_n$ がいずれも $n-1$ で割り切れることに気が付きます(ただし $n \geqq 2$)。そこで $n\ (\geqq 2)$ に対して $\dfrac{a_n}{n-1}$ を並べてみますと、$$1,1,3,11,53,\cdots$$となります。すると今度は $\dfrac{a_n}{n-1}$ が $a_{n-1}+a_{n-2}$ で与えられるのではないかと見当が付くはずです。ということは$$a_{n}=(n-1)(a_{n-1}+a_{n-2})$$という漸化式が成立するので、順次計算して$$a_{10}=1334961$$を得ます。よって$$A_1=\left[ \dfrac{1334961}{100}\right]=\color{red}{13349}$$と求められます。


(コメント)

答えを出すだけなら何でもアリの世界ではありますが、一応解説しておきましょう。本問の背景になっているのは

「モンモール数は階乗数の二項変換により得られる」

という事実です。「階乗数」というのは言うまでもなく$n!$のことで、「モンモール数」というのは完全順列(攪乱順列)の総数として与えられる数を指します。完全順列とは何だったかというと、整数 $1、2、3、\cdots、n$ を要素とする順列において、$i$ 番目 $(i \leqq n)$ が $i$ でない順列のことを言います。具体的な例で言うと「$1$から$n$までの番号が付けられたボールを、$1$から$n$までの番号が付けられた箱に入れるとき、ボールと箱の番号が同じにならないような組の総数」と説明できます。これがモンモール数の定義であり、本問の$a_n$の正体なのでした。それから「二項変換」というのは、とある数列$\{x_n\}$に対して、$$y_n=\displaystyle \sum_{k=0}^{n} {}_{n}\mathrm{C}_{k} x_k$$という演算により、$x_n$を新しい数列$y_n$に変換するという操作のことを指します。本問の場合は$a_n$が$x_n$に、$n!$が$y_n$にそれぞれ対応しますね。

モンモール数$a_n$には他にも$$a_n=n a_{n-1}+(-1)^n$$という漸化式が存在するので、こちらから$a_{10}$を計算しても良いですし、当然、ひたすら計算して$a_{10}$を求めても良いでしょう。

因みに、モンモール数$a_n$は関数 $f(x)=\dfrac{e^{-x}}{1-x}$ の$n$階導関数に $x=0$ を代入すれば得られます。この関数はモンモール数の母関数(指数型母関数)となっています。



《問題2》

座標空間上の平面図形 $K$ を、$xy$ 平面、$yz$ 平面、$zx$ 平面に正射影した(垂直に影を落とした)図形の面積がそれぞれ $6$、$23$、$282$ になるとする。図形 $K$ の面積を $S$ として、鍵番号 $A_2=S$ を求めよ。

(第2回「旧帝戦数学部門」)


(コメント)

これは何というか、手抜きと言われても仕方ない問題です(笑)。空間版三平方の定理とも言える、いわゆる「四平方の定理」なるものの存在を知らなければ解答は難しいのではないでしょうか?

その定理とは、座標空間上の平面図形 $K$ の面積を $S$とし、$K$ を $xy$ 平面、$yz$ 平面、$zx$ 平面に正射影した図形の面積をそれぞれ $S_1$、$S_2$、$S_3$ とするとき、$$S^2={S_1}^2+{S_2}^2+{S_3}^2$$が成立する、というものです。因みにこの「四平方の定理」は1998年の岐阜大や2003年の東工大などで取り上げられていますが、受験数学ではほとんど使い道の無い公式と言えます(笑)。

この公式より、求める面積$S$は$$S=\sqrt{6^2+23^2+282^2}=283$$となるので、$$A_2=\color{red}{283}$$とあっさり求められます。なお、座標空間上の「曲面」では一般に「四平方の定理」が成立しないので注意しましょう。



《問題3》

虚数単位を $i=\sqrt{-1}$ として、複素数 $a、b \ (a \ne 0)$ に対して $a^b$ を次のように定める。まず $a=r(\cos \theta + i \sin \theta)$ ($r>0$、$-\pi < \theta \leqq \pi$) とおくとき、$a^b=e^{b(\log r+\theta i)}$ とし、実数 $x、y$ に対するオイラーの公式 $e^{x+yi}=e^x (\cos y + i \sin y)$ を用いて $e^{b(\log r+\theta i)}$ を計算する。ここで $i$ の($i$ の $i$ 乗)乗 $i^{i^i}$ の虚部 $\mathrm{Im}(i^{i^i})$ の小数第$5$位以下を切り捨てた数 $\alpha$ の正則連分数表示$$\alpha=a_0+\dfrac{1}{a_1+\dfrac{1}{a_2+ \ddots }}$$($a_0$ は非負整数で、$a_1$、$a_2$、$\cdots$ は正の整数)を考えるとき、鍵番号 $A_3=100a_3+10a_2+a_1$ を求めよ。

(第2回「旧帝戦数学部門」)


《考え方》

問題3は高校数学を超えてきましたね。オイラーの公式の天下り的証明は大学初年度の解析の講義で紹介されると思いますが、複素関数に関しては普通取り扱いません。学部生向け、ということでしょうか。大変に物好きな高校生であれば $i^i$ が実数であることを知っているかもしれませんが、$i^{i^i}$ は流石に手に負えないのでは?出題サイドもそう判断したのか、問題文中にはヒントが沢山書いてあります。

ヒントを頼りに解答してみましょう。まず、$i$ の偏角は $\dfrac{\pi}{2}$ ですから、$$i=1 \cdot \left(\cos \left( \dfrac{\pi}{2}+2n \pi \right) + i \sin  \left( \dfrac{\pi}{2}+2n \pi \right) \right)$$と書き表せますが、偏角$\theta$の範囲は既に決められているので $n=0$ です。これより、$$i^i=e^{i(\log |1|+\frac{\pi}{2}i)}=e^{-\frac{\pi}{2}}$$となりますから、$$i^{i^i}=e^{i^i (\log |1|+\frac{\pi}{2}i)}=\mathrm{exp} \left(\frac{\pi}{2}i e^{-\frac{\pi}{2}}\right)$$となります(※ $\mathrm{exp}(x) \equiv e^x$ です)。これより$$i^{i^i}=\left(\cos \left(\frac{\pi}{2} e^{-\frac{\pi}{2}}\right) + i \sin \left(\frac{\pi}{2} e^{-\frac{\pi}{2}}\right) \right)$$となるので、$i^{i^i}$ の虚部 $\mathrm{Im}(i^{i^i})$ の値は $\sin \left(\frac{\pi}{2} e^{-\frac{\pi}{2}}\right)$ と求められます。さて、これをどのような手計算で求めればよいのかよく分かりませんが、取り敢えず $\sin \left(\frac{\pi}{2} e^{-\frac{\pi}{2}}\right)$ は $\color{red}{0.3207}644499793…$ となるので、$\alpha=0.3207$ を正則連分数展開すれば良いことが分かります。$0.3207$ というのは要するに $\dfrac{3207}{10000}$ のことですから、$$\begin{align} \dfrac{3207}{10000}
&=0+\dfrac{1}{\dfrac{10000}{3207}} \\
&=0+\dfrac{1}{3+\dfrac{379}{3207}} \\
&=0+\dfrac{1}{3+\dfrac{1}{0+\dfrac{3207}{379}}} \\
&=0+\dfrac{1}{3+\dfrac{1}{8+\dfrac{175}{379}}} \\
&=0+\dfrac{1}{3+\dfrac{1}{8+\dfrac{1}{0+\dfrac{379}{175}}}} \\
&=0+\dfrac{1}{3+\dfrac{1}{8+\dfrac{1}{2+\dfrac{29}{175}}}} \\
&=0+\dfrac{1}{3+\dfrac{1}{8+\dfrac{1}{2+\dfrac{1}{6+\dfrac{1}{29}}}}} \end{align}$$

したがって $a_1=3$、$a_2=8$、$a_3=2$ となるので、$$A_3=\color{red}{283}$$と求められます。


(コメント)

問題2と数値が同じですが、何か深い意味があるのでしょうか・・・?

有理数であれば正則連分数展開は有限回の手続きで終了します。$a_3$が出た時点で展開を止めても良いのですが、折角なので最後まで展開しておきました。$\sin \left(\frac{\pi}{2} e^{-\frac{\pi}{2}}\right)$ を計算機無しで求めるとすればマクローリン展開と不等式による評価の組み合わせなどが考えられますが、出題サイドはどういう解法を期待しているのでしょうか。何か良い解法をご存知の方はご教授頂けると幸いです。

余談ですが、Google先生は $i$ が$20$個並んだ冪まで計算してくれるようです(このように指数の上にさらに指数を乗っける演算を「超冪」または「テトレーション」と言います)。また、$i$ が無限個並んだ超冪は $0.438283…+i \cdot 0.360592…$ という複素数に収束することが知られています。


(全体を通して)

いずれの問題も「第1回『#旧帝戦数学部門』」よりはユニークかつ難しめの出題で、数学的背景のしっかりした問題だという印象を受けました。一体誰が作問しているのでしょうか・・・?

因みに結果(解答時間順:主催者発表)は、

北海道大学 26:46、京都大学 27:47、大阪大学 38:46、九州大学 38:53、名古屋大学 47:16、東北大学 58:23、東京大学 68:46

の順の成績だったようです。第3回が催されるとしたら来年でしょうか。次回作にも期待!

 



(2017/10/24追記)

実はレッドブルの箱を開けるには次の最終問題を解かなければならなかったようです。


(最終問題)

$x=A_1$、$y=A_2$、$z=A_3$ とするとき、
鍵番号=「$x^2+y^2+z^2$ $+x^2y+y^2z+z^2x$ $-xy^2-yz^2-zx^2$ $-xy-yz-zx-1$」の下$5$桁


《考え方》

与式は$$-(x-y+1)(y-z+1)(z-x+1)$$と因数分解できるため、$x=13349$、$y=z=283$ より、与式は$$\begin{align}&\ \ \ \ \ -13067 \cdot 1 \cdot (-13065) \\ &=170720355 \end{align}$$となるので求める番号は$$\color{red}{20355}$$となります。これが何か意図を含ませた数字なのかはよく分かりませんね・・・。

 

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