tan1°の厳密値を求めれば京大の伝説の問題は解けるのか

その昔、京都大学の後期試験で「tan1°は有理数か」という伝説的な問題が出題されました。そのあまりの手の付けにくさに、当時の受験生の出来は芳しくなかったようで、中にはtan1°を直接求めようとして力尽きていた答案も複数あったようです。

そこで今回はtan1°の厳密値を無理やり求めて考察してみようと思います。

 

 $\sin 1^{\circ}$は実は求められる

2006年度の京都大学後期入試の最終問題として

「$\tan\,1^{\circ}$ は有理数か」

という歴代最短レベルの問題が出題されました。今となっては随分と手垢の付いてしまった問題ですが、本稿では定石である加法定理による証明ではなく、 $\tan\,1^{\circ}$ が無理数であることを式の形から直接示せないか検討してみます。

以前、当サイトの「有名角・準有名角のsin・cosの値」のページで、$\sin 3^{\circ}$ は比較的難儀せずに求められることを示しました。その延長として、虚数単位を使えば $\sin 1^{\circ}$ が実は求められることを示します。

・・・が、その先にはとてもヘビーな計算が待っています。


さて、$\sin 3^{\circ}$ は次のように表せました。詳しくは「有名角・準有名角のsin・cosの値」のページをご参照下さい。$$\small \begin{align}&\sin 3^{\circ}= \cos 87^{\circ} \\ &\ \ \ =\dfrac{1}{4\sqrt{2}} \left(\dfrac{\sqrt{5} -1}{2} -\sqrt{\dfrac{3}{2} (5 + \sqrt{5})}\right) \\ &\ \ \ \ \ \ \ \ +\dfrac{1}{4\sqrt{2}} \left(\dfrac{\sqrt{3}(\sqrt{5} -1)}{2} + \sqrt{\dfrac{1}{2} (5 + \sqrt{5})}\right)\end{align}$$

ここで3倍角の公式から、$$\sin 3^{\circ}=3 \sin 1^{\circ}-4 \sin ^{3} 1^{\circ}$$が成り立ちます。$x=\sin 1^{\circ}$、$A=\dfrac{3}{4}$、$B=-\dfrac{\sin 3^{\circ}}{4}$ と置くと、これは既に$$x^3=Ax+B \quad \cdots (1)$$という簡約された3次方程式になっており「カルダノの公式」が利用できます。

ここで $x=t-u$ と置くと、$$x^{3}=(t-u)^{3}$$ $$\therefore x^{3}=-3 t u(t-u)+\left(t^{3}-u^{3}\right)$$ $$\therefore x^{3}=-3 t u x+\left(t^{3}-u^{3}\right)$$と変形できるので、$$A=-3 t u, \quad B=t^{3}-u^{3}$$を得ます。これらより$u$を消去すると$$\left(t^{3}\right)^{2}-B t^{3}+\dfrac{A}{27}=0 \quad \cdots (2)$$が得られ、$t^3$についての2次方程式と見て解くと$$t^{3}=\dfrac{B}{2}+\sqrt{\dfrac{B^{2}}{4}-\dfrac{A^{3}}{27}}$$となります($t>0$)。よって$$u^3=t^3-B=-\dfrac{B}{2}+\sqrt{\dfrac{B^{2}}{4}-\dfrac{A^{3}}{27}}$$となるので、$u$も求められて、結局$$\small \begin{align} x&=t-u \\ &= \sqrt[3]{\mathstrut \dfrac{B}{2}+\sqrt{\mathstrut \dfrac{B^{2}}{4}-\dfrac{A^{3}}{27}}}-\sqrt[3]{\mathstrut -\dfrac{B}{2}+\sqrt{\mathstrut \dfrac{B^{2}}{4}-\dfrac{A^{3}}{27}}} \end{align}$$となり、最終的に$$\small \begin{align}
x &=\sqrt[3]{\mathstrut -\dfrac{\mathstrut \sin 3^{\circ}}{8}+\sqrt{\dfrac{\sin ^{2} 3^{\circ}}{64}-\dfrac{1}{64}}}-\sqrt{\dfrac{\mathstrut \sin 3^{\circ}}{8}+\sqrt{\mathstrut \dfrac{\sin ^{2} 3^{\circ}}{64}-\dfrac{1}{64}}} \\
&=\dfrac{\sqrt[3]{\mathstrut -\sin 3^{\circ}+\sqrt{\mathstrut \sin ^{2} 3^{\circ}-1}}-\sqrt[3]{\mathstrut \sin 3^{\circ}+\sqrt{\mathstrut \sin ^{2} 3^{\circ}-1}}}{2} \\
&=\dfrac{\sqrt[3]{\mathstrut -\sin 3^{\circ}+i \cos 3^{\circ}}-\sqrt[3]{\mathstrut \sin 3^{\circ}+i \cos 3^{\circ}}}{2}
\end{align}$$と求められます。

ここで$$z=-\sin 3^{\circ}+i \cos 3^{\circ}$$および$$w=\sin 3^{\circ}+i \cos 3^{\circ}$$と置くと、$$z=\cos 93^{\circ}+i \sin 93^{\circ}$$ $$w=\cos 87^{\circ}+i \sin 87^{\circ}$$と極形式に直せるので、$$\small z^{1/3}=\left\{\begin{array}{cl}
\cos 31^{\circ}+i \sin 31^{\circ} & \cdots (\text{A}) \\
\cos 151^{\circ}+i \sin 151^{\circ} & \cdots (\text{B}) \\
\cos 271^{\circ}+i \sin 271^{\circ} & \cdots (\text{C})
\end{array}\right.$$および$$\small w^{1/3}=\left\{\begin{array}{cl}
\cos 29^{\circ}+i \sin 29^{\circ} & \cdots (\text{D}) \\
\cos 149^{\circ}+i \sin 149^{\circ} & \cdots (\text{E}) \\
\cos 269^{\circ}+i \sin 269^{\circ} & \cdots (\text{F})
\end{array}\right.$$と求められます。これらの $3 \times 3=9$ 通りの複素数の差 $z^{1/3}-w^{1/3}$ のうち、3つは実数となります。

複素数の差をベクトルとして捉えると分かりやすいでしょうか。複素数の差が実数になるということは、その2点を結ぶ線分は実軸に平行となります(下図)。

※$\text{A}$などの記号は$z^{1/3}$と$w^{1/3}$の各点に対応しています。

$z^{1/3}-w^{1/3}$ が実数になるとき、これに対応するベクトルは上の図でいうところの $\overrightarrow{\mathrm{EA}}$、$\overrightarrow{\mathrm{DB}}$、$\overrightarrow{\mathrm{FC}}$ に相当します。大きさを見ても一目瞭然ですが、これらの実数のうち $\overrightarrow{\mathrm{FC}}$の大きさが $2\sin 1^{\circ}$ に相当しています。

ここまで、二次方程式$(2)$を経由して$x$が $\small \pm \dfrac{B}{2}+\sqrt{\dfrac{B^{2}}{4}-\dfrac{A^{3}}{27}}$ の三乗根の主値の差となるように計算してきたので、原点を中心に$\overrightarrow{\mathrm{DA}}$を $-120^{\circ}$ 回転させて得られるベクトルは$\overrightarrow{\mathrm{FC}}$に一致します。

つまり、$$2\sin 1^{\circ}=\left(-\dfrac{1}{2}-i \dfrac{\sqrt{3}}{2}\right)x$$という等式が成り立ちます。これより$$\small \sin 1^{\circ}=\dfrac{1+\sqrt{3}\,i}{4}\left(\sqrt[3]{\mathstrut \sin \,3^{\circ}\,+\,i\,\cos\,3^{\circ}}-\sqrt[3]{\mathstrut -\sin\,3^{\circ}\,+\,i\, \cos \,3^{\circ}}\right)$$と求められます。

虚数単位を含んでいますが、この右辺はちゃんと$$0.0174524…$$という実数になっています。


 

 求めたは良いけれど

さて、大変な道のりでしたが、何とか $\sin 1^{\circ}$ を求めることができました。続いて $\tan 1^{\circ}$ を求めるためには $\cos 1^{\circ}$ も求めなければなりません。

・・・と思いましたが、ここで次の関係式に思い至ります。$$\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$$これより、両辺を $\sin^2\theta$ で割って整理すると$$\dfrac{1}{\tan^2\theta}=1-\dfrac{1}{\sin^2\theta}$$という式が得られます。

$\tan 1^{\circ}$ が有理数のときは当然 $\tan^2 1^{\circ}$ も有理数なので、その逆数の $\dfrac{1}{\tan^2 1^{\circ}}$ も有理数です。反対に $\dfrac{1}{\tan^2 1^{\circ}}$ が無理数なら $\tan 1^{\circ}$ も無理数であることが言えるので、結局 $\sin^2 1^{\circ}$ が無理数であることを示せば良いようです。

したがって$$\small (1+i \sqrt{3})^{2}\left(\sqrt[3]{\mathstrut \sin \,3^{\circ}\,+\,i\,\cos\,3^{\circ}}-\sqrt[3]{\mathstrut -\sin\,3^{\circ}\,+\,i\, \cos \,3^{\circ}}\right)^{2}$$が無理数であることを示せば十分です。しかし、これがなかなか難題。

うまいこと計算すると、$$\small \begin{align} \sin^2 1^{\circ} &=\dfrac{(1+\sqrt{3}\,i)^2}{16}\left(\sqrt[3]{\mathstrut \sin \,3^{\circ}\,+\,i\,\cos\,3^{\circ}}-\sqrt[3]{\mathstrut -\sin\,3^{\circ}\,+\,i\, \cos \,3^{\circ}}\,\right)^2 \\ & \quad \vdots \\ &=\dfrac{1}{2}\left(1-\sin\dfrac{23}{45}\pi\right) \\ &=\dfrac{1}{2}\left(1-\sin 92^{\circ}\right) \end{align}$$と変形でき、$\sin 92^{\circ}$ が無理数であることから $\tan 1^{\circ}$ の無理数性が従うのですが、これは自明なことではないのでさらに証明する必要があります。この証明は $\cos 2^{\circ}$ が無理数であることを示すのと同値で、しかも半角の定理を考えれば、最後の式の形に変形できるのはほとんど自明に思われます。

結局、何だかんだやっても加法定理に頼らざるを得ず、これではあまり面白くありません。

 

 厳密値

さしずめ、$\sin 1^{\circ}$ が無理数であることを式の形から直接示すのは難し過ぎて、残念ながら行き詰まってしまいました。

$\sin 1^{\circ}$ の値を三角関数を用いずに表そうとすると、$$\scriptsize \begin{align}\sin\dfrac{\pi}{180}=-\dfrac1{\sqrt[3]{2}}\left(\dfrac{1+i}{32}\right)&\left\{\sqrt[3]{-1-i\sqrt{3}} \left(1-i\sqrt{3}\right)\left(\sqrt{2}+\sqrt{10}-2i\sqrt{5-\sqrt{5}}\right)\right. \\ &+\left.\sqrt[3]{-1+i\sqrt{3}}\left(\sqrt{3}-i\right)\left(\sqrt{2}+\sqrt{10}+2i\sqrt{5-\sqrt{5}}\right)\right\}\end{align}$$となって虚数単位を含む形にしかなりません。さらにここから無理やり $\cos 1^{\circ}$ と $\tan 1^{\circ}$ の厳密値を求めてみると・・・

$$\scriptsize \begin{align}\cos\dfrac{\pi}{180}=\dfrac1{\sqrt[3]{2}}\left(\dfrac{1+i}{32}\right)&\left\{\sqrt[3]{-1-i\sqrt{3}} \left(\sqrt{3}+i\right)\left(\sqrt{2}+\sqrt{10}-2i\sqrt{5-\sqrt{5}}\right)\right. \\ &+\left.\sqrt[3]{-1+i\sqrt{3}}\left(\sqrt{3}-i\right)\left(2\sqrt{5-\sqrt{5}}-i(\sqrt{2}+\sqrt{10})\right)\right\}\end{align}$$ $$\scriptsize \tan\dfrac{\pi}{180}=-\dfrac{\sqrt[3]{-1-i \sqrt{3}} \left(1-i \sqrt{3}\right) \left(\sqrt{2}+\sqrt{10}-2i\sqrt{5-\sqrt{5}}\right)+\sqrt[3]{-1+i\sqrt{3}} \left(\sqrt{3}-i\right)\left(\sqrt{2}+\sqrt{10}+2i\sqrt{5-\sqrt{5}}\right)}{\sqrt[3]{-1-i\sqrt{3}}\left(\sqrt{3}+i\right) \left(\sqrt{2}+\sqrt{10}-2i\sqrt{5-\sqrt{5}}\right)+\sqrt[3]{-1+i\sqrt{3}}\left(\sqrt{3}-i\right) \left(2 \sqrt{5-\sqrt{5}}-i\left(\sqrt{2}+\sqrt{10}\right)\right)}$$となります。

とてもイカツイ見た目ですね・・・。折角こんなに難解な式を導いたのですが、これが無理数であることをきちんと示すのはかなり面倒そうです。

鶏を捌くのに牛刀を用いるというのはまさにこのことでしょう。やはり $\tan$ の加法定理が最も合理的な解法ということですね。これらの式から別解を与えるのはかなり難しそうです。残念!

(もし上記の式から $\tan 1^{\circ}$ が無理数であることが示せたという方は是非ご連絡下さい・・・)

 

 Niven’s theorem

三角関数について、Niven’s theorem「ニーヴンの定理」というものが知られています。

Niven’s theorem

$\dfrac{\theta}{\pi}$ と $\sin \theta$ がともに有理数となるような実数で $0 \leqq \theta \leqq \dfrac{\pi}{2}$ を満たす $\theta$ は$$\theta=0,\,\dfrac{\pi}{6},\,\dfrac{\pi}{2}$$の3つのみである。

$\cos \theta = \sin \left(\dfrac{\pi}{2}-\theta\right)$ なので、これは $\phi=\dfrac{\pi}{2}-\theta$ などと置き換えれば $\cos \phi$ について$$\phi=0,\,\dfrac{\pi}{3},\,\dfrac{\pi}{2}$$が言えます。

また、$$\small \cos 2\theta = \dfrac{1-\tan^2 \theta}{1+\tan^2 \theta}$$より、$\tan$ の取り得る有理数が $0$ と $\pm 1$ に限ることが従います。これ以外の場合はすべて無理数となることが言えるので、Nivenの定理を既知とすれば $\tan 1^{\circ}$ が無理数であることが直ちに従います。ただし、当然ですが答案でNivenの定理を使う場合はその証明も添えておくべきなので、あまり使い物にはなりません。

 

 級数表示

$\tan 1^{\circ}$、すなわち $\tan\dfrac{\pi}{180}$ は$$\small \tan\dfrac{\pi}{180}=\dfrac{2}{45 \pi} \sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{(2k-1)^{2}-\dfrac{1}{8100}}$$という無限級数による表示が可能です。級数部分が有理数なので無理数であることが直ちに示せそうに見えますが、一般に無限級数の極限値は有理数か無理数かは判定不可能です。仮に $\small \displaystyle \sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{(2k-1)^{2}-\dfrac{1}{8100}}$ が有理数に収束したとしても、さらに$\pi$の無理数性を証明する必要があります。$\pi$の無理数性の証明はかなり難しい(一般的な高校生レベルではまず思い付かない)ので、級数を利用する証明も現実的ではありません。

 


(コメント)

散々計算してきましたが、加法定理による証明法が最も簡単ということですね。試験場でその他の証明法を用いるのは非現実的のようです。・・・という訳で、厳密値で京大の問題を殴り付ける計画は断念せざるを得ませんでした(笑)。今回に関しては完全にネタ投稿ですね・・・。

 

それはさておき、こういった「一行問題」に対応できるためには柔軟な思考力を身に付けておく必要があります。普段から色々な視点で問題を眺めるように心掛けることが大切です。


(参考文献)
・“The Sine of a Single Degree” by Travis Kowalski

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