今年の静岡大学の理系数学からタンジェント絡みの級数の問題を取り上げます。
《問題》
$2$以上の自然数$n$に対して、$$a_{n}=\dfrac{1}{2^{n}} \tan \dfrac{\pi}{2^{n}}$$とおく。このとき、次の問いに答えよ。
(1)$0<x<\dfrac{\pi}{2}$ のとき、等式$$\dfrac{2}{\tan x}=\dfrac{1}{\tan \dfrac{x}{2}}-\tan \dfrac{x}{2}$$が成り立つことを証明せよ。
(2)等式$$\sum_{i=2}^{n} a_{i}=\dfrac{1}{2^{n} \tan \dfrac{\pi}{2^{n}}}$$が成り立つことを、数学的帰納法を用いて証明せよ。
(3)無限級数 $\displaystyle\sum_{n=2}^{\infty} a_{n}$ の収束、発散を調べ、収束するときはその和を求めよ。
(静岡大学2020年 前期理系第2問)
《考え方》
誘導が丁寧なので解答の方針に困るということは無さそうです。(1)は式変形だけで片付きます。三角関数を見た途端に微分したくなる人がたまにいるようですが、ここでは全く役に立ちません。(2)は「数学的帰納法」の指示があるので素直に従って解答しましょう。ここで(1)の結果を利用します。(3)は三角関数の極限の基本的な問題なので落とせません。
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解答例
(1)
$\tan$の加法定理より、
$$\begin{aligned}
\tan x &=\tan\left(\dfrac{x}{2}+\dfrac{x}{2}\right) \\
&=\dfrac{\tan \dfrac{x}{2}+\tan \dfrac{x}{2}}{1-\tan \dfrac{x}{2}\cdot\tan \dfrac{x}{2}} \\
&=\dfrac{2\tan \dfrac{x}{2}}{1-\tan^2 \dfrac{x}{2}}
\end{aligned}$$となるから、$0<x<\dfrac{\pi}{2}$ のとき $\tan x \ne 0$、$\tan \dfrac{x}{2} \ne 0$ であり逆数がとれて、$$\begin{aligned}
\dfrac{1}{\tan x} &=\dfrac{1-\tan^2 \dfrac{x}{2}}{2\tan \dfrac{x}{2}} \\
\therefore \dfrac{2}{\tan x} &=\dfrac{1}{\tan \dfrac{x}{2}}-\tan \dfrac{x}{2}
\end{aligned}$$を得る。よって示された。
【(1)別解:右辺から示す方針】
$$\begin{aligned}
\dfrac{1}{\tan \dfrac{x}{2}}-\tan \dfrac{x}{2} &=\dfrac{\cos \dfrac{x}{2}}{\sin \dfrac{x}{2}}-\dfrac{\sin \dfrac{x}{2}}{\cos \dfrac{x}{2}} \\
&=\dfrac{\cos ^{2} \dfrac{x}{2}-\sin ^{2} \dfrac{x}{2}}{\sin \dfrac{x}{2} \cos \dfrac{x}{2}} \\
&=\dfrac{2 \cos x}{\sin x} \\
&=\dfrac{2}{\tan x}
\end{aligned}$$となるから成り立つ。よって示された。
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(2)
等式$$\sum_{i=2}^{n} a_{i}=\dfrac{1}{2^{n} \tan \dfrac{\pi}{2^{n}}} \quad \cdots (*)$$を数学的帰納法を用いて示す。
$n=2$ のとき、$$\begin{aligned}
\sum_{i=2}^{2} a_{i} &\,=a_{2} \\
&\,=\frac{1}{4} \tan \frac{\pi}{4} \\
&\,= \frac{1}{4}
\end{aligned}$$であり、$$\dfrac{1}{2^{2} \tan \dfrac{\pi}{2^{2}}} =\dfrac{1}{4 \tan \dfrac{\pi}{4}} =\dfrac{1}{4}$$となるから等式$(*)$が成立している。
$n=k$ のとき等式$(*)$が成立すると仮定する。このとき$$\begin{aligned}
\sum_{i=2}^{k+1} a_{i} &=\sum_{i=2}^{k} a_{i}+a_{k+1} \\
&=\dfrac{1}{2^{k} \tan \dfrac{\pi}{2^{k}}}+\dfrac{1}{2^{k+1}} \tan \dfrac{\pi}{2^{k+1}} \\
&=\dfrac{1}{2^{k+1}}\left(\dfrac{2}{\tan \dfrac{\pi}{2^{k}}}+\tan \dfrac{\pi}{2^{k+1}}\right)
\end{aligned}$$となる。ここで(1)より$$\dfrac{1}{\tan \left\{\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{\pi}{2^{k}}\right)\right\}}-\tan \left\{\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{\pi}{2^{k}}\right)\right\}=\dfrac{2}{\tan \dfrac{\pi}{2^{k}}}$$ $$\therefore \dfrac{2}{\tan \dfrac{\pi}{2^{k}}}+\tan \dfrac{\pi}{2^{k+1}}=\dfrac{1}{\tan \dfrac{\pi}{2^{k+1}}}$$となるから、$$\sum_{i=2}^{k+1} a_{i}=\dfrac{1}{2^{k+1} \tan \dfrac{\pi}{2^{k+1}}}$$が成立する。したがって $n=k+1$ のときも等式$(*)$が成立する。
以上より、$2$以上のすべての整数$n$について等式$(*)$が成立することが示された。
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(3)
$$\begin{aligned}
\sum_{i=2}^{n} a_{i} &=\dfrac{1}{2^{n} \tan \dfrac{\pi}{2^{n}}} \\
&=\dfrac{1}{2^{n}} \cdot \dfrac{\cos \dfrac{\pi}{2^{n}}}{\sin \dfrac{\pi}{2^{n}}} \\
&=\cos \dfrac{\pi}{2^{n}} \cdot \dfrac{\dfrac{\pi}{2^{n}}}{\sin \dfrac{\pi}{2^{n}}} \cdot \dfrac{1}{\pi}
\end{aligned}$$と式変形できる。$n \to \infty$ のとき $\dfrac{\pi}{2^{n}} \to 0$ であるから$$\begin{aligned}
\sum_{n=2}^{\infty} a_{n} &=\lim _{n \to \infty} \sum_{i=2}^{n} a_{i} \\
&=\lim _{n \to \infty}\left(\cos \dfrac{\pi}{2^{n}} \cdot \dfrac{\dfrac{\pi}{2^{n}}}{\sin \dfrac{\pi}{2^{n}}} \cdot \dfrac{1}{\pi}\right) \\
&=1 \cdot 1 \cdot \dfrac{1}{\pi} \\
&=\dfrac{1}{\pi}
\end{aligned}$$となり収束する。よって求める和は $\color{red}{\dfrac{1}{\pi}}$ である。
(コメント)
丁寧な誘導設問が付いているので落としたくない問題です。式変形のヒントが(1)で与えられているので(2)で利用しましょう。(3)は三角関数の極限の基本問題なので、解けなかった人は要復習です。
本問では(2)の問題文中に $\displaystyle \sum_{i=2}^{n} a_{i}=\dfrac{1}{2^{n} \tan \dfrac{\pi}{2^{n}}}$ と明示されているので(2)の証明が不完全でも(3)を解答することは可能です。この問題のように、次の問題で必要な情報が問題文から揃ってしまう場合や、結論がある程度予想できてしまう場合は、たとえその前の問題の解答が未完成でも後続の設問を解いてしまうことが可能です。採点チームの方針にも依るでしょうが、基本的に問題を解く順番は得点に影響しません。特に本問のように問題文中に答えが載っているようなケースでは、答案全体の数学的な論理性はともかくとして、(2)をすっ飛ばして(3)だけ解いてしまってもよいのです。それで減点するようなら、試験問題を最初から順番に解かなければならないというルール乃至は注意事項を問題冊子に記載すべきでしょう。