べき乗/階乗の無限級数の性質①

べき乗が階乗で割られた形の数列からなる無限級数に関する面白い性質を紹介します。


 

 とある無限級数の問題

早速ですが、次の問題に取り組んでみます。

《問題》

無限和 $\small \dfrac{1^{2}}{0 !}+\dfrac{2^{2}}{1 !}+\dfrac{3^{2}}{2 !}+\dfrac{4^{2}}{3 !}+\cdots$ を求めよ。

 

高校生向けの問題とは言えませんが、とても面白い問題です。少し考えてみて下さい。

 

以下、マクローリン展開を用いて求めてみます。


ここでは前提として$$e^{x} =\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{x^{k}}{k !}$$という式が成り立つことを認めます。これは$e^x$のマクローリン展開です。

この式の両辺に対して$x$を掛けます。$$x e^{x} =\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{x^{k+1}}{k !}$$この両辺を$x$で微分すると、$$(1+x) e^{x} =\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{k+1}{k !} x^{k}$$を得ます。これにさらに$x$を掛けると$$\left(x+x^{2}\right)e^{x} =\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{k+1}{k !} x^{k+1}$$となるので、再び微分すると、$$\left(1+3 x+x^{2}\right) e^{x} =\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(k+1)^{2}}{k !} x^{k}$$という式が得られます。

最後の式に対して $x=1$ とすると$$\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(k+1)^{2}}{k !}=5e$$という値が得られます。

つまり、この問題の答えは$5e$という非常に綺麗な値になります。これは驚くべきことに思えます。

 

 問題を一般化してみる

上記の式変形を応用すれば分子がより高次の級数の極限値も求めることができます。

例えば、$$\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(k+1)^{3}}{k !}=15e$$ $$\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(k+1)^{4}}{k !}=52e$$ $$\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(k+1)^{5}}{k !}=203e$$ $$\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(k+1)^{6}}{k !}=877e$$ $$\vdots$$となります。

ここで右辺の係数に興味が湧くのは自然でしょう。この数列は$$5,15,52,203,877,\cdots$$となっており、何らかの規則性があるのではないかと疑いたくなります。

事実、規則性は存在するのですが、これを見出すのは知識が無ければなかなか難しい作業です。$$\small \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(k+1)^1}{k !} x^{k}=(1+x) e^{x}$$ $$\small \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(k+1)^{2}}{k !} x^{k}=(1+3 x+x^{2}) e^{x}$$ $$\small \sum_{k=0}^{\infty} \frac{(k+1)^{3}}{k !}x^k=(x^3 + 6 x^2 + 7 x + 1)e^x$$ $$\small \sum_{k=0}^{\infty} \frac{(k+1)^{4}}{k !}x^k=(x^4 + 10 x^3 + 25 x^2 + 15 x + 1)e^x$$ $$\small \sum_{k=0}^{\infty} \frac{(k+1)^{5}}{k !}x^k=(x^5 + 15 x^4 + 65 x^3 + 90 x^2 + 31 x + 1)e^x$$ $$\vdots$$これらの式から規則性が見えるという方はかなり数学のセンスがあると言えそうです。

結論から言うと、右辺の多項式の係数は「第2種スターリング数」という数列になっています。

 

 第2種スターリング数とベル数

$x^n$を下降階乗冪 $\small \displaystyle x^{\underline {k}}\equiv x\,(x-1)(x-2)\cdots (x-k+1)$ を用いて$$x^{n}=\sum_{k=0}^{n}\left\{\begin{array}{l} n \\ k \end{array}\right\} x^{\underline{k}}$$として展開したときの展開係数として定義される数列を「第2種スターリング数」と言います。これは$$\small \left\{\begin{array}{l} n \\ k \end{array}\right\}=\left\{\begin{array}{l} n-1 \\ k-1 \end{array}\right\}+k\left\{\begin{array}{c} n-1 \\ k \end{array}\right\}$$という漸化式を満たします。

第2種スターリング数を小さい$n,k$について表にすると以下のようになります。$$\small \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}
\hline n \backslash k & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 \\
\hline 0 & 1 & & & & & & & \\
\hline 1 & 0 & 1 & & & & & & \\
\hline 2 & 0 & 1 & 1 & & & & & \\
\hline 3 & 0 & 1 & 3 & 1 & & & & \\
\hline 4 & 0 & 1 & 7 & 6 & 1 & & & \\
\hline 5 & 0 & 1 & 15 & 25 & 10 & 1 & & \\
\hline 6 & 0 & 1 & 31 & 90 & 65 & 15 & 1 & \\
\hline 7 & 0 & 1 & 63 & 301 & 350 & 140 & 21 & 1 \\
\hline
\end{array}$$ちゃんと先ほどの多項式の係数になっていますね!

一般に第2種スターリング数の和について次の関係式が成立します。$$\displaystyle \sum _{k=0}^{n}\left\{\begin{array}{l} n \\ k \end{array}\right\}=B_{n}$$ここで$B_{n}$は「ベル数」と呼ばれる数列です。

ベル数を分かりやすく説明すると「$n$個のボールを区別できない箱に入れる方法の総数」と言い換えられます。ベル数$B_{n}$の満たす漸化式は二項係数を用いて$$\displaystyle B_{n+1}=\sum _{k=0}^{n}{{{}_n\mathrm{C}_{k}}\,B_{k}}$$と表せます。

この辺りの話題は母関数と絡めて理解すると霧が晴れるような体験が味わえるのですが、ここでは割愛します・・・。

さて、このベル数は$$1, 1, 2, 5, 15, 52, 203, 877, \cdots$$という数列です。($B_0 = B_1 = 1$ と定義されています)

小さい$n$について表にすると以下のようになります。$$\small \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}
\hline n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 \\
\hline B_n & 1 & 1 & 2 & 5 & 15 & 52 & 203 & 877 \\
\hline
\end{array}$$つまり、任意の非負整数$n$について$$\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(k+1)^{n}}{k !}=B_{n+1}e$$という公式が成立します。これが一般化した場合の結論になります。


(コメント)

厳密には証明していませんが、第2種スターリング数を経由して一般化した公式が導けました。勉強ばかりしていると数学を目の敵にする人が多くなってしまいますが、こういう事実を美しいと感じて頂ければ幸いです。たまには息抜きも必要ですね。

 

次回はこの無限級数をさらに発展させてみます。

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