べき乗/階乗の無限級数の性質③

べき乗が階乗で割られた形の無限級数をまとめます。これまでに扱ってきた数列群を、母関数を用いて高い視点から眺めてみます。


 

 前回までのおさらい

前回までは、ベル数Bnを用いて任意の非負整数nに対してk=0(k+1)nk!=Bn+1eという公式が成り立つことを確認しました。また、k=0(k1)nk! がどんな値になるのかについて調べました。今回はこれをさらに一般化し、j を整数として k=0(k+j)nk! の値について調べてみます。

 

 さらなる一般化

n=0 のときは Sj(n)=k=0(k+j)nk! は常に e となるので以下では省略します。

まず、

S0(n)=k=0(k+0)nk! n12345678910S0(n)e1251552203877414021147115975

S1(n)=k=0(k+1)nk! n12345678910S1(n)e251552203877414021147115975678570となっており、S0(n+1)=S1(n) が成り立っていることが観察できますが、このことはS0(n+1)=k=0kn+1k!=k=1kn(k1)!=k=0(k+1)nk!=S1(n)という式変形によって納得できます。


j を大きくしてみます。

S2(n)=k=0(k+2)nk! n12345678910S2(n)e31037151674326317007948285625953535027

S3(n)=k=0(k+3)nk! n12345678910S3(n)e4177737219151048160814372939240983716360786

S4(n)=k=0(k+4)nk! n12345678910S4(n)e5261417994736293711904971291020913127567310847

S5(n)=k=0(k+5)nk! n123456S5(n)e63723515401042773013 n78910S5(n)e529032396719530785747247126450

S6(n)=k=0(k+6)nk! n123456S6(n)e750365272720878163967 n78910S6(n)e13220351094977293197715815305195

S7(n)=k=0(k+7)nk! n123456S7(n)e865537451638699338233 n78910S7(n)e3017562274990832561189052438979402

S8(n)=k=0(k+8)nk! n123456S8(n)e982757708767340649931 n78910S8(n)e6376149636253246461470676681531511

S9(n)=k=0(k+9)nk! n123456S9(n)e101011031106441112111176701 n78910S9(n)e12616132137144475151235497516926317722

S10(n)=k=0(k+10)nk! n123456S10(n)e111221365154151758022025823 n78910S10(n)e23599287278054700331512294740012800675

ここから面白いことが分かります。Sj(1)e=j+1と表せたり、Sj(2)e=(j+1)2+1=j2+2j+2であったり、Sj(3)e=(j+1)3+3(j+1)+1=j3+3j2+6j+5となることなどが推測できます。


今度は逆に j を小さくしてみます。

S1(n)=k=0(k1)nk! n12345678910S1(n)e01141141162715342517722

S2(n)=k=0(k2)nk! n12345678910S2(n)e12371031212043072811

S3(n)=k=0(k3)nk! n12345678910S3(n)e2513361012938482523736522402

S4(n)=k=0(k4)nk! n12345678910S4(n)e310351274721787685526572103765407695

S5(n)=k=0(k5)nk! n123456S5(n)e4177534015737393 n78910S5(n)e351781690358186033989250

S6(n)=k=0(k6)nk! n123456S6(n)e526139759421423711 n78910S6(n)e134873774060447532526033347

S7(n)=k=0(k7)nk! n123456S7(n)e6372331492968563581 n78910S7(n)e421356281461918928273128022586

S8(n)=k=0(k8)nk! n123456S8(n)e750363267119876149323 n78910S8(n)e1131003862666866198725510661527

S9(n)=k=0(k9)nk! n123456S9(n)e865535445237397316697 n78910S9(n)e2700950231775471999712551733542570

S10(n)=k=0(k10)nk! n123456S10(n)e982755701565698619583 n78910S10(n)e5879133560903805377262535177291275

以上の表を眺めると j が負のときでもSj(1)e=j+1 Sj(2)e=j2+2j+2 Sj(3)e=j3+3j2+6j+5などが成立しています。これらの予想は母関数を考えれば上手く説明できそうです。

 

 母関数によるアプローチ

全部のパターンについてやっているとキリが無いので、ここでは例として任意の整数 j についてSj(2)e=j2+2j+2と表せることを母関数を用いて確認してみます。Sj(2) というのは要するに k=0(k+j)2k! のことでした。毎度お馴染みの ex のマクローリン展開から出発します。

まずex=k=0xkk!に対して xj を掛けます。xjex=k=0xk+jk!この両辺を x で微分すると、(j+x)xj1ex=k=0k+jk!xk+j1を得ます。これにさらに x を掛けると(j+x)xjex=k=0k+jk!xk+jとなるので、再び微分すると、(j2+2jx+x2+x)xj1ex=k=0(k+j)2k!xk+j1という式が得られます。右辺の累乗の次数を合わせるために両辺に xj+1 を掛けて(j2+2jx+x2+x)ex=k=0(k+j)2k!xk()という式を得ます。

最後の式に対して x=1 とすると(j2+2j+2)e=k=0(k+j)2k!という値が得られ、Sj(2)e=j2+2j+2が分かります。因みに、これは「べき乗/階乗の無限級数の性質①」の導入で登場した数列(j=1 のときに相当)の一般化バージョンになっています。

この手順を繰り返せば原理的には無限のnについて Sj(n) が求められます。また、微分とxを掛ける操作を繰り返しているだけなので Sj(n)ejn 次式として表せることが理解できます。

 

 積分漸化式で一般項を導く

それにしても、Sj(n) を一発で求められればとても楽チンなのですが、そのような便利な公式が存在するのかについては管理人は寡聞にして知りません。ですが、次の漸化式が成り立ちそうだということは何とか自力で見出しました。Sj(n+1)e=(n+1)0jSj(n)edj+Bn+1ここで Bnn 番目のベル数で、以下の表に示すような値をとります。n01234567Bn11251552203877

これまで Sj(n) は力づくで求めてきましたが、この積分漸化式を用いれば機械的な計算処理で次々と Sj(n) を求めることができそうです。

厳密には証明していませんが、一応Sj(0)e=1Sj(1)e=j+1Sj(2)e=j2+2j+2Sj(3)e=j3+3j2+6j+5Sj(4)e=j4+4j3+12j2+20j+15Sj(5)e=j5+5j4+20j3+50j2+75j+52Sj(6)e=j6+6j5+30j4+100j3+225j2+312j+203となることを確認しているので、恐らくすべてのnについて上記の積分漸化式は正しい和を与えると予想されます。

微分型の漸化式に翻訳するとSj(n)=1n+1ddjSj(n+1)となります。こちらの方が検算しやすいでしょうか。

いずれにしても証明は面倒そうなのでサボります。時間のある方は取り組んでみて下さい・・・。

 


(コメント)

ここまで3日連続で(k+j)nk!の無限級数の極限値Sj(n)について色々と考察してきましたが、いかがでしたでしょうか? 母関数については別に解説のページを用意していますので、そちらも是非参考にしてみて下さい!

 

ところで、Sj(0)e=1Sj(1)e=(j+1)+0Sj(2)e=(j+1)2+1Sj(3)e=(j+1)3+3(j+1)+1Sj(4)e=(j+1)4+6(j+1)2+4(j+1)+4Sj(5)e=(j+1)5+10(j+1)3+10(j+1)2+20(j+1)+11Sj(6)e=(j+1)6+15(j+1)4+20(j+1)3+60(j+1)2+66(j+1)+41となることからも何か言えそうです。末尾の定数項は前回の記事で紹介した数列Anになっています。

 

Sj(n)は想像以上に興味深い数列ですね・・・!

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