【非回転体】交差する円柱の共通部分【Steinmetz solid】

交差する円柱の共通部分の体積を求めさせる問題は手ごろな積分の問題として時々出題されます。今回はこの “Steinmetz solid” をテーマに体積や表面積について詳しく解説します。非回転体の求積の代表例なのでしっかり押さえておきましょう!


 

 交差する円柱 - Steinmetz solid

軸が1点で交わるような、半径が等しい2本以上の直円柱の共通部分が成す立体は、”Steinmetz solid“「シュタインメッツの立体」と呼ばれます。この名前はドイツ生まれのアメリカ合衆国の数学者、チャールズ・プロテウス・シュタインメッツ(1865-1923 / Charles Proteus Steinmetz)に因んで名付けられました。

入試問題の題材としてはかなり昔から使い古されているにもかかわらず、この名称は受験業界でもほとんど知られていないようです(参考書や情報誌などでこの名前が使われているのを見掛けたことがありません)。因みに、中国語では「牟合方蓋」と呼ばれています。この図形を指す日本語名は恐らく無さそうです。


「軸が1点で交わる2本以上の直円柱」というのは字面からはちょっと想像しにくいかもしれません。2本、もしくは3本の直円柱の場合は互いに直交した状態が相当します。以下に俯瞰図を示します。$r$は円柱の半径です。

● 2つの直円柱の場合($K_2$)

立体$K_2$の表面は4種類の曲面をもちます。

表面積 $S_{2}=16r^{2}$

体積  $V_{2}=\dfrac{16}{3}r^{3}$

● 3つの直円柱の場合($K_3$)

立体$K_{2}$を緑色の円柱で切り出すイメージです。入試問題で出題されるのはこれくらいが限度でしょう。立体$K_3$の表面は12種類の曲面をもちます。

表面積 $S_{3}=24(2-{\sqrt {2}})r^{2}$

体積  $V_{3}=8(2-{\sqrt {2}})r^{3}$

● 4つの直円柱の場合($K_4$)

これは正四面体の頂点方向に4つの円柱を伸ばしたときの共通部分に相当します。立体$K_4$の表面は24種類の曲面をもちます。

体積 $V_{4}=12(2{\sqrt {2}}-{\sqrt {6}})r^{3}$

● 6つの直円柱の場合($K_6$)

この6つの円柱は立方体の面の対角線に平行な直線を軸として配置されています。立体$K_6$の表面は36種類の曲面をもちます。

体積 $V_{6}=\dfrac{16}{3}(3+2{\sqrt {3}}-4{\sqrt {2}})r^{3}$

 

 2つの円柱の場合

それでは、2つの円柱が直交する場合について詳しく見てみましょう。

立体$K_2$の3Dイメージ

● $K_2$の体積

$x$軸方向に伸びている半径$r$の円柱面の方程式は$$y^{2}+z^{2}=r^{2}$$となります($x$は任意)。また、$y$軸方向に伸びている半径$r$の円柱面の方程式は$$x^{2}+z^{2}=r^{2}$$となります($y$は任意)。

これより、2つの直円柱が直交してできる共通部分の立体$K_2$に相当する領域は、$$\begin{cases} x^{2}+z^{2} \leqq r^{2} \\ y^{2}+z^{2} \leqq r^{2} \end{cases} \quad \cdots (*)$$という式で表示することが可能です。

この場合は$z$軸方向で断面を考えるのが良いでしょう。$z$軸に垂直な2つの面 $z=t$、$z=t+dt$ に挟まれた立体$K_2$の微小体積を考えます(ただし $|t| \leqq r$)。このとき、2つの面における$K_2$の断面積はともに$S$と近似できて、微小体積$dV$は $dV=Sdt$ と表せます。

平面 $z=t$ における$K_2$の断面は次のようになっています。上は$y$軸方向から眺めた図で、下は$z$軸方向から眺めた図です。

図より、断面は1辺が$2x$の正方形となっていることが分かります。勿論、これは式からも分かることです。$z=t$ と固定すると、$(*)$式より、$$\begin{cases} x^{2} \leqq r^{2}-t^{2} \\ y^{2} \leqq r^{2}-t^{2} \end{cases}$$ $$\therefore \begin{cases} -\sqrt{r^{2}-t^{2}} \leqq x \leqq \sqrt{r^{2}-t^{2}} \\ -\sqrt{r^{2}-t^{2}} \leqq y \leqq \sqrt{r^{2}-t^{2}} \end{cases}$$を得るので、結局、断面は1辺が$2\sqrt{r^{2}-t^{2}}$の正方形で、面積$S$は$$S=4(r^{2}-t^{2})$$で与えられます。

したがって、立体$K_2$の体積は$$V=\int_{-r}^{r}4\left(r^{2}-z^{2}\right) dz=\color{red}{\frac{16}{3} r^{3}}$$と求められます。


● $K_2$の表面積

表面積は少々考えにくいかもしれません。下の図は立体$K_2$の $z \geqq 0$ の部分を抜き出したものです。このうちの4分の1の表面積を考えて、後で8倍すれば全体の表面積を求めることができます。

そこでまず $y^{2}+z^{2} = r^{2}$ の表面を考えてみます。この微小面積$dS$は、縦が$\sqrt{(dy)^2+(dz)^2}$、横が$2\sqrt{r^2-z^2}$の長方形に近似できます。したがって、$$\begin{align} dS &= 2\sqrt{\mathstrut r^2-z^2} \cdot \sqrt{\mathstrut (dy)^2+(dz)^2} \\ &= 2\sqrt{\mathstrut r^2-z^2} \sqrt{\mathstrut 1+{\left(\dfrac{dy}{dz}\right)\!}^2}\ dz \end{align}$$となり、$y=\sqrt{r^{2}-z^{2}}$ より$$\dfrac{dy}{dz}=-\dfrac{z}{\sqrt{r^2-z^2}}$$であるので、結局$$dS=2r\,dz$$となります。よって$$S=\int _{0}^{r}2r\,dz =2r^{2}$$を得るので、これを8倍した$$\color{red}{16r^2}$$が求める表面積となります。

※微小面積$dS$の縦の長さが$\sqrt{(dy)^2+(dz)^2}$となるのは、以下の図のように微小な弧長を直角三角形の斜辺で近似しているためです。

弧長の近似

因みに、$K_2$の上側の帽子のような部分は “Cloister vault”(クロイスターボールト)と呼ばれています。教会や博物館、体育館やちょっとしたスタジアムの天井に、この図形と同じようなアーチ型の屋根が設置されていたりします。

 

 3つの円柱の場合

続いて、3つの円柱が直交する場合について詳しく見てみましょう。

● $K_3$の体積

この求積は2003年に芝浦工業大学(工学部)の第4問として出題されたこともあります。場合分けが必要になりますが、基本的な考え方は$K_2$の場合と同じです。

立体$K_3$に相当する領域は、$$\begin{cases} x^{2}+y^{2} \leqq r^{2} \\ x^{2}+z^{2} \leqq r^{2} \\ y^{2}+z^{2} \leqq r^{2} \end{cases} \quad \cdots (**)$$という連立式で表示できます。

これらの共通部分の体積を$V$とし、これを平面 $z=t$ で切った断面積を$S$と置きます。ただし上半分だけを考えれば十分なので、$0 \leqq t \leqq r$ として良いでしょう。このとき、断面となる領域は$$\begin{cases}
x^{2}+y^{2} \leqq r & \cdots ① \\
|x| \leqq \sqrt{r-t^{2}}, \ |y| \leqq \sqrt{r-t^{2}} & \cdots ②
\end{cases}$$と表示できます。ここで②は先ほどと同様、1辺が$2\sqrt{r-t^{2}}$の正方形となりますが、今回は①の条件も考慮する必要があります。

②の正方形が①の円に含まれるとき、$x=y=\sqrt{r-t^{2}}$ が①を満たすから$$2-2 t^{2} \leqq 1$$ $$\therefore \dfrac{r}{\sqrt{2}} \leqq t \leqq r$$となります。したがって、$\dfrac{r}{\sqrt{2}} \leqq z \leqq r$ の範囲における体積$V_1$は$$\begin{align} V_{1} &= \int_{\frac{r}{\sqrt{2}}}^{r} S\,dt \\ &= 4\left[r^2 t-\frac{t^{3}}{3}\right]_{\frac{r}{\sqrt{2}}}^{r} \\ &= \left(\frac{8}{3}-\frac{5}{3} \sqrt{2}\right)r^3 \end{align}$$と求められます。

②の正方形が①の円からはみ出るとき($0 \leqq t \leqq \dfrac{r}{\sqrt{2}}$ のとき)、断面図は次のようになります。

図のように角$\theta$を定義すると($t=r\sin\theta$)、網掛け部分の面積は$$4\left\{2 \cdot \frac{1}{2} \cdot r \cos \theta \cdot r \sin \theta+\frac{1}{2} \cdot r^{2}\left(\frac{\pi}{2}-2 \theta\right)\right\}$$ $$\therefore r^2(4 \cos \theta \sin \theta+\pi-4 \theta)$$となるから、$$\begin{aligned}
V_{2}=& \int_{0}^{\frac{r}{\sqrt{2}}} S \, d t \\
&= \int_{0}^{\frac{\pi}{4}} S \frac{d t}{d \theta} d \theta\\
&= r\int_{0}^{\frac{\pi}{4}} S \cos \theta \, d \theta \quad (\because t=r\sin\theta) \\
&= r^{3}\int_{0}^{\frac{\pi}{4}}\left\{4 \cos ^{2} \theta \sin \theta+(\pi-4 \theta) \cos \theta\right\} d \theta \\
&= r^{3}\left[-\frac{4}{3} \cos ^{3} \theta+(\pi-4 \theta) \sin \theta-4 \cos \theta\right]_{0}^{\frac{\pi}{4}} \\
&= \left(\frac{16}{3}-\frac{7}{3} \sqrt{2} \right) r^{3} \\
\end{aligned}$$と求められます。

以上より、$$V=2\left(V_{1}+V_{2}\right)=\color{red}{8(2-\sqrt{2})r^{3}}$$を得ます。

※あるいは、もっと簡単に「1辺が$\sqrt{2}r^2$の立方体 + 6個の$V_1$」と見なして計算することもできます。

 


● $K_3$の表面積

切り分ける部分が$K_2$の場合と異なるだけです。

上の図の網掛け部分を求めて24倍すれば全体の表面積が求められます。したがって、$$S=\int _{\frac{r}{\sqrt{2}}}^{r}2r\,dz =(2-\sqrt{2})r^2$$より、これを24倍した$$\color{red}{24(2-\sqrt{2})r^2}$$が求める表面積となります。

 


(コメント)

難関大学の入試数学で時々出題されるテーマなので、モノの見方を一通りさらっておくとアドバンテージになるはずです。特に空間図形の把握が苦手な受験生は多いので、早いうちに類題を経験しておくと良いでしょう。類題としては例えば、1998年の島根医科大学、2002年の近畿大学(理工)第2問や、2005年の東京大学(理科)第6問、2006年の東北大学後期理系第5問、2004年の名古屋市立大学(医)や2008年の名古屋市立大学(薬)第2問などがあります。2019年には駿台の大学別模試である東工大実戦において第3問に$xy$平面上で立方体を転がす問題が出題されました。

 

また、1999年の大阪大学(理系)第4問には2本の三角柱が交差してできる共通部分の体積を求めさせる問題が出題されています。これは「断頭三角柱」と呼ばれる図形で、高校受験で盛んに出題される図形の一つです。

 

以上、色々と眺めてきましたが、求積の方法を含めてどれも常識としておきたい内容です。それはそれとして “Steinmetz solid”「シュタインメッツの立体」と聞いてピンとくる人は数学オタクの可能性がかなり高いですね…(笑)

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