巨大な数が登場する大学入試数学シリーズ第4弾です。今回は昔の東大理類に出題されたことのある、今でもそこそこ有名な整数問題を取り上げてみます。
《問題》
$\dfrac{10^{210}}{10^{10}+3}$ の整数部分のけた数と、$1$の位の数字を求めよ。ただし、$$3^{21}=10460353203$$を用いてよい。
(1989年東京大学 理系第4問)
《考え方》
発想力勝負のシンプルな整数問題です。何も考えずにひたすら割り算を決行するという選択肢も無い訳ではありませんが、現実的ではないですし、何よりエレガンスに欠けます。
桁数は直ちに求められるので問題無いでしょう。「$1$の位の数字」とあるので $\text{mod}$ $10$ を考えます。与式を観察すると、分母が微妙に$10$の倍数でないところが解きにくい原因になっていることに気付きます。分母を何とかシンプルにできないかと考え、$n=10^{10}+3$ と置けば $10^{10}=n-3$ という式で表せることに着目します(ここがポイント)。これによって与式は $\dfrac{(n-3)^{21}}{n}$ となり、多項式の割り算が可能な程度まで書き直すことができました。ここまで来れば残りはそれほど難しくないはずです。
解答例
$$\small \dfrac{10^{210}}{10^{11}}<\dfrac{10^{210}}{10^{10}+3}<\dfrac{10^{210}}{10^{10}}$$ $$\small \therefore 10^{199}<\dfrac{10^{210}}{10^{10}+3}<10^{200}$$よって整数部分の桁数は$$\color{red}{200} \quad \cdots (\text{答}) $$である。
$n=10^{10}+3$ と置けば $10^{10}=n-3$ となるから、与式は $\dfrac{(n-3)^{21}}{n}$ と変形できる。ここで$$\small \begin{align}(n-3)^{21}&=\displaystyle \sum_{k=0}^{21}{}_{21}\mathrm{C}_k n^{21-k}(-3)^k \\ &=\displaystyle nN-3^{21}\end{align} \cdots (*)$$と展開して整理できる。ただし $N=\small \displaystyle \sum_{k=0}^{20}{}_{21}\mathrm{C}_k n^{20-k}(-3)^k$ である。これより、$$\small \begin{align}\dfrac{(n-3)^{21}}{n} &=N-\dfrac{3^{21}}{n} \\ &=N-\dfrac{10460353203}{10000000003} \\ &=N-1-\dfrac{460353200}{10000000003} \end{align}$$となる。ここで、$n \equiv 3 \pmod{10}$、$3^{21} \equiv 3 \pmod{10}$ より、$(*)$から $N \equiv 1 \pmod{10}$ である。よって $N-1$ の$1$の位は$0$であるから、$$0<\dfrac{460353200}{10000000003}<1$$より、$\dfrac{10^{210}}{10^{10}+3}$ の整数部分の$1$の位の数字は$$\color{red}{9} \quad \cdots (\text{答}) $$である。
(コメント)
掴み所の無い問題です。$n=10^{10}+3$ という置き換えを使いましたが、与式の分数の形から等比数列の和の公式を連想すれば置き換えなくても和の形に直すことができます。
解答例中の$N$の$1$の位の数字さえ求められれば勝ちなのですが、そこに辿り着くまでに発想力が必要です。ヒントとして$3^{21}$の値が与えられていることから、二項定理を使うことができそうだと判断できればしめたもの。そこから先は合同式の出番です。
$N$の下一桁については、$$\small \begin{align} N &= \sum_{k=0}^{20}{}_{21}\mathrm{C}_k n^{20-k}(-3)^k \\ &\equiv \sum_{k=0}^{20}{}_{21}\mathrm{C}_k 3^{20-k}(-3)^k \pmod{10} \\ &=3^{20}\sum_{k=0}^{20}(-1)^k{}_{21}\mathrm{C}_k \\ &=3^{20}\left(\sum_{k=0}^{21}(-1)^k{}_{21}\mathrm{C}_k+1\right) \\ &=3^{20}\left\{(1-1)^{21}+1\right\} \\ &=3^{20} \\ &= 3486784401 \\ &\equiv 1 \pmod{10} \end{align}$$のように二項定理を用いても求められますが、解答例中の$(*)$式について $\text{mod}$ $10$ を考えれば直ちに求められます。
本問に関しては無数に例題が作れます。例えば $4^{21}=4398046511104$ を既知とすれば、$\dfrac{10^{210}}{10^{10}+4}$ の$1$の位の数字も解答例と全く同じ方針で$6$と求められます。与式の分数に$10$の冪を使っているところがミソで、これが例えば $\dfrac{9^{120}}{9^{10}+1}$ などでは $9^{12}=282429536481$ というヒントが与えられたとしても計算がやや面倒になります。
“巨大な有理数の1の位の数(1989年東京大学理系数学第4問)” への2件の返信