5^m+4^mが10^19を上回る最小の自然数m(2024年東京大学前期文系数学第2問)

今年の東大文系では整数問題は出題されませんでしたが、東大数学としては珍しい、シンプルな指数対数分野の問題が出題されました。


問題

以下の問いに答えよ。必要ならば、$0.3<\log_{10}2<0.31$ であることを用いてよい。

(1)$5^{n}>10^{19}$ となる最小の自然数$n$を求めよ。

(2)$5^{m}+4^{m}>10^{19}$ となる最小の自然数$m$を求めよ。

(2024年 東京大学 前期文系第2問)

 考え方・解答例

対数の基本問題という見た目の印象です。(1)は典型問題なので解き切りたいですね。$\log_{10}5$が与えられていなくても$\log_{10}\dfrac{10}{2}$とすれば求められるということは常識にしておきましょう。(2)では不等式の評価の際に一工夫が必要になります。対数値の小数部分の評価が本問の最大のポイントになります。


解答例

(1)

$5^{n}>10^{19}$ の両辺に$10$を底とする対数をとり、$$n \log_{10}5>19$$ $$\therefore n \log_{10}\dfrac{10}{2}>19$$ $$\therefore (1-\log_{10}2)n>19$$を得る。$0.3<\log_{10}2<0.31$ より$$1-0.31<1-\log_{10}2<1-0.3$$ $$\therefore 0.69<1-\log_{10}2<0.7$$ が成り立つから、$$\therefore 0.69n<(1-\log_{10}2)n<0.7n$$を得る。ここで $$18.63<(1-\log_{10}2)\cdot 27<18.9$$および$$19.32<(1-\log_{10}2)\cdot 28<19.6$$が成り立つから、求める最小の自然数$n$は$$\color{red}{28}$$である。

(1)別解

(上記の解法とほぼ同じ)

$5^{n}>10^{19}$ より、$$n \log_{10}5>19$$ $$\therefore n \log_{10}\dfrac{10}{2}>19$$ $$\therefore (1-\log_{10}2)n>19$$ $$\therefore n>\dfrac{19}{1-\log_{10}2}$$ここで、$0.3<\log_{10}2<0.31$ より、$$\dfrac{19}{0.7}<\dfrac{19}{1-\log_{10}2}<\dfrac{19}{0.69}$$を得る。$\dfrac{19}{0.7}=27.1 \ldots$、$\dfrac{19}{0.69}=27.5 \ldots$ であるから、$$27.1<\dfrac{19}{1-\log_{10}2}<27.6$$を得る。したがって、求める最小の自然数$n$は$$\color{red}{28}$$である。

(2)

(1)の結果より $5^{28}+4^{28}$ は明らかに$10^{19}$より大きいから $m \leqq 28$ である。

以下、$5^{27}+4^{27} < 10^{19}$ となることを示す。

$0.3<\log_{10}2<0.31$ より、$$0.6<2\log_{10}2=\log_{10}2^2<0.62$$ $$\therefore 0.6<\log_{10}4<0.62$$となる。よって $$\log_{10}4^{27}<27 \cdot 0.62=16.74<16+0.74<16+3\log_{10}2$$ より、$$4^{27}<8 \cdot 10^{16}$$を得る。また、(1)より $0.69<\log_{10}5<0.7$ であるから $$\log_{10}5^{27}<27 \cdot 0.7=18.9<18+0.9<18+3\log_{10}2$$ より、$$5^{27}<8 \cdot 10^{18}$$を得る。以上より、$$5^{28}+4^{28}<8 \cdot 10^{18}+8 \cdot 10^{16}=8.08 \cdot 10^{18}<10^{19}$$となるから $m=27$ では所与の不等式が成立しない。

したがって、$5^{m}+4^{m}>10^{19}$ となる最小の自然数$m$は$$\color{red}{28}$$である。


コメント

(1)はオーソドックスな対数関数の問題ですが、(2)の解答はややトリッキーに見えるかもしれません。これを例えば$$\small 4^m+4^m<5^m+4^m<5^m+5^m$$という評価にしてしまうと、絶妙に雑な評価しかできません。実際、$m=27$ のとき$\log_{10}(2\cdot 5^m)$について、$$0.3+27\cdot 0.69<\log_{10}2+m\log_{10}5<0.31+27\cdot 0.7$$ $$\therefore 18.93<\log_{10}2+m\log_{10}5<19.21$$となり、上限が$19$より小さいのか大きいのか判別できません。ここで余計な時間を取られてしまった人もいたかもしれませんね。そこで、対数値の小数部分を上手く評価してやる必要があります。突然登場する $3\log_{10}2$ は小数部分を評価するために持ち出しています。対数にすることにで指数に直す操作が簡単になります。


実際に値を計算すると、それぞれ$$4^{27}=18014398509481984 \approx 1.80 × 10^{16}$$ $$5^{27}=7450580596923828125 \approx 7.45 × 10^{18}$$および $$4^{28}=72057594037927936 \approx 7.20 × 10^{16}$$ $$5^{28}=37252902984619140625 \approx 3.72 × 10^{19}$$となります。$5^{28}$に比べると$4^{28}$は遥かに小さい値なので、$m$が十分に大きい場合は $5^m+4^m \approx 5^m$ となることが分かりますね。


今年の東大数学は何となく近年の京大数学を見ているような気分になる出題でした。特に本問のような対数値の近似値を使って何かする、というのは東大数学としては非常に珍しく、1968年(!)の理系数学(2次)に誘導付きで $0.300<\log_{10}2<0.302$ を証明させる問題が出ているくらいで、他に例がありません。1989年の理系第4問はこれに近いですが、対数の操作を必要とするわけではありません。また、対数値ではないですが、2003年の理系後期第2問に$\sqrt{5}$の近似値を与えて解答させる問題が出題されています。

一方で、京大数学では本問のようなタイプの問題をたびたび見かけることがあります。例えば2022年の理系第1問や、2017年の文系第2問などが挙げられます。東大受験生としては過去問で対策し切れていない人もいたかもしれませんね。

因みに、一橋大学の1998年前期第2問は漸化式の問題ですが、本問にそっくりな出題です。これを参考にしたのか、というくらい似ています。

とはいえ、筆算で何とかしてしまおうというのは無謀なように思われますが、しかし――

まずこれを試験本番で筆算で解き切ろうとした決意が凄いですね。執念を感じます。

腕力勝負に持ち込むのも立派な答案と言えます。ただし、このような時間的コストのかかる回答は他に解けそうな問題が一切なくなってから最後の手段として取り掛かるべきですね。もちろん、100分の試験時間の中で適切に時間配分できるのであればその限りではありません😅(解けないよりは遥かにマシです)

ただ、よく見ると計算ミスをしてしまっているようにも見えます。このような指数計算を手計算する場合、正確な計算力でねじ伏せていないと加点は見込めません。

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