数論の超難問「ABC予想」遂に解決!分かりやすい例で解説します!

(2021/03/05更新)
望月新一氏の論文が遂に国際専門誌『PRIMS』の特別号電子版に4日付で掲載されました。おめでとうございます!

(2020/04/03更新)
遂に望月新一氏の論文の査読が終了し、無事アクセプト・論文掲載されるようです!


先程、京都大学数理解析研究所教授である望月新一氏が「ABC予想」を肯定的に解決したとする論文の正しさが認められ、専門誌に掲載予定とのニュースが入ってきました!速報の段階なのでまだ詳細は不明ですが、数学界に大きな足跡を残したと言える出来事になりそうです!

本稿では「ABC予想」について簡単に解説しておきます。

そもそもこの「ABC予想」というのはどのような「予想」なのでしょうか?今や定理となってしまった「ABC予想」ですが、以下に概要を示します。

《ABC予想》

 

$a+b=c$ を満たす互いに素な自然数の組 $(a,b,c)$ に対して、$d$を「積$abc$の異なる素因数からなるすべての積」とするとき、$$c>d^{1+\epsilon} \ \ \ \cdots (*)$$を満たす組 $(a,b,c)$ は任意の $\epsilon > 0$ に対して有限個しか存在しない。

 

 具体例で理解する

大抵の方は「よく分からない」というのが読んだときの感想だと思いますが、ここで一例を示しておきましょう。

自然数の組 $(a,b,c)$ で、$a + b = c$、$a < b$ であり、$a$と$b$が互いに素であるような組は「abc-triple」と呼ばれます。ここで自然数の組 $(a,b,c)$ は等式$$a+b=c$$を満たすことに注意しましょう。例えば $(a,b,c)=(3,4,7)$ とすると積$a \times b \times c \ (=84)$の異なる素因数は$2$、$3$、$7$なので $d=42$ となります。このとき$(*)$、即ち$$7>42^{1+\epsilon}$$を満たすような正の実数$\epsilon$は存在しません。

大体の「abc-triple」について、この不等式を満たすような$\epsilon$は存在しないのですが、まれにこれを満たす組が存在して、しかもそれが有限個の組しか存在しません。このような組がレアですよ、という主張がこの「ABC予想」の中身です。


確かに $(a,b,c)=(3,4,7)$ は不等式$(*)$を満たしませんでしたが、例えば $(a,b,c)=(1,8,9)$ としてみましょう。すると積$a \times b \times c \ (=72)$の異なる素因数は$2$、$3$のみなので $d=6$ となります。そこで $\epsilon = 0.1$ とすると$$6^{1+0.1}=7.177…<c \ (=9)$$となるので、この不等式は成立します。つまり、組 $(a,b,c)=(1,8,9)$ は $\epsilon = 0.1$ のとき適する組だということが分かります。

「ABC予想」とは、この例で言うと、$\epsilon=0.1$ としたときに$(*)$を満たす組 $(a,b,c)$ が $(a,b,c)=(1,8,9)$ を含めて有限個しかないことを主張しています。同じように $\epsilon=0.2$ のときも$(*)$を満たす組 $(a,b,c)$ は有限個しかない、$\epsilon=2$ のときも$(*)$を満たす組 $(a,b,c)$ は有限個しかない、(以下どんな正の実数$\epsilon$でも同様)・・・というのが「ABC予想」というワケです。

 

「ABC定理」の威力

さて、この「ABC予想」ですが、整数論の広い分野で応用できることが知られており、あの「フェルマーの最終定理」(360年近くも証明されてこなかった整数論の難問)も例外ではなく、Andrew Wiles氏が1995年に発表した論文の証明とは別に、新しく、しかも簡素な別解が得られるとされています。さらに、フェルマーの最終定理の一般化バージョンである「フェルマー=カタラン予想」も「ABC予想」から従うことが知られています。

今回、望月教授が証明に用いた数学的手法「宇宙際タイヒミュラー理論」(inter-universal Teichmüller theory:通称IUT)は非常に難解であるため、査読が困難を極めたそうです。勿論、論文を査読する人達も数学の先端を行く専門家なのですが、この理論はあまりにも独創的であったため査読が進まず、論文が提出されてから5年以上を要したことになります。論文発表時から、世界中の大学教授・研究者を集めた研究集会を開くなどして理論の理解を進めているということですが、一体どのような理論なのでしょうね・・・。

ノーベル賞には数学賞がありませんが、数学の世界にはそれに代わる「フィールズ賞」という賞があります(ただしフィールズ賞には「40歳以下」という年齢制限があります)。かのAndrew Wiles氏は45歳で「特別賞」を授与されました(論文発表時は42歳)。望月教授は現在48歳(論文発表時は43歳)ですが、今回の功績を考えれば「特別賞」を授与される可能性は小さくないと思います。


 

さて、今回のニュースは数学界にとって明るいニュース、それもビッグニュースでした。望月教授は経歴からもわかる通り、まさに鬼才と呼ぶべき人物でしょう。人間の科学の中で最も抽象的な学問である数学の未来を切り拓いていくのは、こういった天才と呼ぶべき人々なのでしょう!

因みに「ABC予想」という名前は $a+b=c$ の$a,b,c$から来ています。何とも分かりやすいネーミングですね(笑)

余談ですが、「ABC予想が正しいならば、非Wieferich素数が無数に存在する。」という定理が知られています。「Wieferich素数」というのは $2^{p-1}\equiv 1 \pmod{p^2}$ を満たすような素数を指します。これは今のところ$1093$と$3511$しか知られていません。

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