整式の因数分解(2006年京都大学後期理系数学第1問)

一昔前の京大後期で出題された整式に関する証明問題を紹介します。


 

$1$次式$A(x)$、$B(x)$、$C(x)$に対して$$\{A(x)\}^{2}+\{B(x)\}^{2}=\{C(x)\}^{2}$$が成り立つとする。このとき$A(x)$と$B(x)$はともに$C(x)$の定数倍であることを示せ。

(2006年京都大学後期理系 第1問)

 

 考え方

整式の問題ですが、よくある整数問題と同様に因数分解できることを利用します。あるいは係数を設定してそれぞれの関数を書き下し、係数を比較しても良いでしょう。ここでは2通りの解法を示します。与整式の係数が実数とは限らないので複素数として考えるのが安全です。


解答例①

 

与えられた等式は$$\{A(x)\}^{2}=\{C(x)\}^{2}-\{B(x)\}^{2}$$ $$\therefore \quad\{A(x)\}^{2}=\{C(x)+B(x)\}\{C(x)-B(x)\}$$と整理できる。ここで、$B(x)$、$C(x)$はともに$1$次式だから $C(x)+B(x)$、$C(x)-B(x)$ は$1$次以下であり、$A(x)$が$1$次式であるから左辺の次数は$2$となる。よって $C(x)+B(x)$ と $C(x)-B(x)$ はともに$A(x)$の定数倍である。よって $pq=1$ を満たす複素数$p$、$q$を用いて$$\begin{cases}
C(x)+B(x)=p A(x) \\
C(x)-B(x)=q A(x)
\end{cases}$$と置けるから、辺々を加えて $2 C(x)=(p+q) A(x)$ を得る。ここで $p+q=0$ とすると$C(x)$は恒等的に$0$になるから$C(x)$が$1$次式であることに矛盾する。よって $p+q \ne 0$ が必要であるから、これより$$A(x)=\dfrac{2}{p+q} C(x)$$を得る。また、$$\begin{aligned} B(x) &=p A(x)-C(x) \\ &=\left(\frac{2 p}{p+q}-1\right) C(x) \end{aligned}$$となるから、$A(x)$と$B(x)$はともに$C(x)$の定数倍であることが示された。

 

次に、係数を設定して証明する素直な方針の解き方です。


解答例②

 

$a,b,c,p,q,r$を複素数として、$A(x)=ax+p$、$B(x)=bx+q$、$C(x)=cx+r$ と置く。ただし $a,b,c$ はいずれもゼロでない複素数である。このとき与えられた等式は$$\small (a x+p)^{2}+(b x+q)^{2}=(c x+r)^{2}$$ $$\small \therefore (a^{2}+b^{2}-c^{2})x^{2}+2(ap+bq-cr)x+(p^{2}+q^{2}-r^{2})=0$$となる。両辺が恒等的に一致するためには$$\begin{cases}
a^{2}+b^{2}-c^{2}=0 \quad \cdots ① \\
ap+bq-cr=0 \quad \cdots ② \\
p^{2}+q^{2}-r^{2}=0 \quad \cdots ③
\end{cases}$$が必要となる。$①$より $b^{2}=c^{2}-a^{2}$、$③$より $q^{2}=r^{2}-p^{2}$、$②$より $b^2 q^2=(cr-ap)^2$ を得るから、$$\left(c^{2}-a^{2}\right)\left(r^{2}-p^{2}\right)=(c r-a p)^{2}$$ $$\therefore a^{2} r^{2}+c^{2} p^{2}-2 a c p r=0$$ $$\therefore \quad(a r-c p)^{2}=0$$ $$\therefore \quad a r-c p=0$$となる。よって $a:p=c:r$ が成り立つから$A(x)$は$C(x)$の定数倍である。全く同様にして $b:q=c:r$ も示されるから$B(x)$も$C(x)$の定数倍である。

 


 

上記の通り、どちらの方針でも解けますが、因数分解を利用する方が計算も少なく簡潔です。なお、$C(x)=0$ の解$\alpha$を左辺に代入すると$$\{A(\alpha)\}^{2}+\{B(\alpha)\}^{2}=0$$となりますが、$A(x)$と$B(x)$が実数係数の整式とは限らないので、残念ながらここから $A(\alpha)=0$ かつ $B(\alpha)=0$ は言えません(係数が虚数である場合を考える必要がある)。この点はちょっとした落とし穴ですね。

(2021/09/12追記)
当サイトでいつもお世話になっている HN たけちゃん からコメントでご指摘を受けましたので、解答例を修正しました。

“整式の因数分解(2006年京都大学後期理系数学第1問)” への2件の返信

  1. コメントでは,「A(x),B(x)が実数係数の整式とは限らない」と言われています.
    確かにそう解釈する方が安全でしょうが,
    すると,現状の解答例も不完全であることになります.

    解答例1で,「st=1を満たす実数s,tを用いて」とありますが,
    「pq=1を満たす複素数p,qを用いて」が正しいですね.
    (s,tは以下には登場しません.p,qが正しいですが,「実数」ではダメですね.)

    解答例2でも,「a,b,c,p,q,rを実数として」は
    「a,b,c,p,q,rを複素数の定数として」がよいと思います.
    (「~を実数として」は,「虚数ではなく実数とする」という限定を
    している気分なので,あまり違和感がありませんが,
    「~を複素数として」は,何を言明しているのかがはっきりしない感があり,
    個人的には「複素数とする」場合は,複素数の何なのかを言っておきたい気分です.
    ただし,もちろん「定数」の強調は必須ではありません.)

  2. たけちゃん さん

    コメントありがとうございます。
    ご指摘を受けて、誤植と実数係数の部分を修正しました。

    確かに「複素数」だけだとふわっとした印象を受けますが、私個人は「複素数」だけでも良さそうに感じます。
    $a_1+a_2 i$ などと置いて丁寧に議論することもできるでしょうが、文字が多くて煩雑そうです。
    そう考えると、解答例1のような具体的な係数を設定せずに済む方針がシンプルですね。

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