東京工業大学2019年前期数学第5問

2020年まであと1週間です!

今回は今年の東工大の数列の問題をピックアップします。


《問題》

$a=\dfrac{2^{8}}{3^{4}}$ として、数列$$b_{k}=\dfrac{(k+1)^{k+1}}{a^{k} k !} \quad(k=1,2,3, \cdots)$$を考える。

(1)関数 $f(x)=(x+1) \log \left(1+\dfrac{1}{x}\right)$ は $x>0$ で減少することを示せ。

(2)数列$\{b_{k}\}$の項の最大値$M$を既約分数で表し、$b_k=M$ となる$k$をすべて求めよ。

(東京工業大学大学2019年 前期第5問)


ヘビー級の問題が並んだ今年の東工大数学の中では割と完答しやすい部類の問題だったのではないでしょうか。(1)は落とせませんが、(2)での使いどころに戸惑った受験生もある程度居たものと推察されます。数列$\{b_{k}\}$には階乗や指数が含まれているので、差をとるよりも比をとる方が見通しが良さそうです。

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解答例

 

(1)
$$\begin{align} & f(x) \\ =& (x+1) \log \dfrac{x+1}{x} \\ =& (x+1)\left\{\log (x+1)-\log x\right\} \end{align}$$より$$\begin{align} & f^{\prime}(x) \\ =& \left\{\log (x+1)-\log x\right\}+(x+1)\left(\dfrac{1}{x+1}-\dfrac{1}{x}\right) \\ =& \log \left(1+\dfrac{1}{x}\right)-\dfrac{1}{x} \end{align}$$および$$\begin{align} & f^{\prime \prime}(x) \\ =& \dfrac{1}{x+1}-\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{x^{2}} \\ =& \dfrac{x^{2}-x(x+1)+(x+1)}{x^{2}(x+1)} \\ =& \dfrac{1}{x^{2}(x+1)}>0 \end{align}$$となるから、$f^{\prime}(x)$は $x>0$ で単調増加であり、$\displaystyle \lim_{x \to \infty}f^{\prime}(x)=0$ であるから$f^{\prime}(x)$は $x>0$ で負となる。よって$f(x)$は $x>0$ で単調減少する。

 

 

 

(2)

 

数列$\{b_{k}\}$の隣り合う2項の比は$$\begin{align} \dfrac{b_{k+1}}{b_{k}} =& \dfrac{(k+2)^{k+2}}{a^{k+1}(k+1) !} \cdot \dfrac{a^{k} k !}{(k+1)^{k+1}} \\ =& \dfrac{1}{a} \cdot \dfrac{(k+2)^{k+2}}{(k+1)^{k+2}} \\ =& \dfrac{1}{a}\left(1+\dfrac{1}{k+1}\right)^{(k+1)+1}\end{align}$$と式変形できる。これはすべての自然数$k$に対して正なので自然対数をとることができ、$$\begin{align} \log\dfrac{b_{k+1}}{b_{k}} =& \log\dfrac{1}{a}\left(1+\dfrac{1}{k+1}\right)^{(k+1)+1} \\ =& -\log a + \{(k+1)+1\}\log\left(1+\dfrac{1}{k+1}\right) \end{align}$$となる。ここで(1)より $f(x)=(x+1) \log \dfrac{x+1}{x}$ は $x>0$ で単調減少するから、$$\log\dfrac{b_{k+1}}{b_{k}} = -\log a + f(k+1)$$は $k>1$ で単調減少する数列である。$\log x$ と真数$x$の増減は等しいから、真数である$\dfrac{b_{k+1}}{b_{k}}$も $k>1$ で単調減少する数列となる。ここで$$\begin{align} \dfrac{b_{k+1}}{b_{k}} =& \dfrac{1}{a}\left(1+\dfrac{1}{k+1}\right)^{(k+1)+1} \\ =& \dfrac{3^{4}}{2^{8}}\left(\dfrac{k+2}{k+1}\right)^{k+2} \end{align}$$であり、$$b_{1}<b_{2}=b_{3}>b_{4}>b_{5}>\cdots$$となる。よって、$$M=\left(\dfrac{3^{4}}{2^{8}}\right)^{2} \cdot \dfrac{3^{3}}{2 !}=\dfrac{3^{11}}{2^{17}}=\dfrac{177147}{131072}$$であり、$b_{k}=M$ となる$k$は $\color{red}{2,\ 3}$ と求められる。


差をとるよりも比をとる方が見通しが良さそう、と言いましたが、本問は差を取ることでも難なく解答可能です。その場合は誘導設問を無視することになりますが・・・。

別解(誘導無視バージョン)

 

$$\begin{align} & b_{k+1}- b_{k} \\ =& \dfrac{(k+2)^{k+2}}{a^{k+1}(k+1) !} – \dfrac{(k+1)^{k+1}}{a^{k} k !} \\ =& \dfrac{(k+2)^{k+2}-a(k+1)^{k+2}}{a^{k+1}(k+1) !} \\ =& \dfrac{(k+2)^{k+2}}{a^{k+1}(k+1)!}\left\{1-a\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2}\right\} \end{align}$$より、$b_{k+1}- b_{k} \geqq 0$ となるためには$$1-a\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2} \geqq 0 \quad \cdots (*)$$が成り立てばよい。

 

そこで、自然対数をとった$$\log\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2}=(k+2)\{\log(k+1)-\log(k+2)\}$$について増減を調べる。$$f(x)=(x+2)\{\log(x+1)-\log(x+2)\}$$と置くと、$$\begin{align} f^{\prime}(x) =& \frac{1}{x+1}+\log (x+1)-\log (x+2) \\ =& \frac{1}{x+1}-\log\dfrac{x+2}{x+1} \\ =& \frac{1}{x+1}-\log\left(1+\dfrac{1}{x+1}\right) \\ f^{\prime\prime}(x) =&-\frac{1}{(x+1)^{2}(x+2)} \end{align}$$となるから $x>0$ のとき $f^{\prime\prime}(x)<0$ であり、$f^{\prime}(0)=1-\log 2\ (>0)$ かつ $\displaystyle \lim_{x \to \infty} f^{\prime}(x)=0$ であるから、$f^{\prime}(x)$は $x>0$ において正であり、かつ単調減少する。$\log(k+1)-\log(k+2)<0$ から、$f(x)$は $x>0$ において負であり、かつ単調増加する。故に$\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2}$は $x>0$ において$1$より小さい値をとり、かつ単調増加する。以下、$k$について小さい方から調べていく。

 

$k=1$ のとき$$\begin{align} & 1-a\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2} \\ =& 1-\dfrac{2^{8}}{3^{4}}\left(\dfrac{2}{3}\right)^{3} \\ =& \dfrac{139}{2187} \ (>0)\end{align}$$であり、$k=2$ のとき$$\begin{align} & 1-a\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2} \\ =& 1-\dfrac{2^{8}}{3^{4}}\left(\dfrac{3}{4}\right)^{4} \\ =& 0 \end{align}$$であり、$k=3$ のとき$$\begin{align} & 1-a\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2} \\ =& 1-\dfrac{2^{8}}{3^{4}}\left(\dfrac{4}{5}\right)^{5} \\ =& -\dfrac{9019}{253125} \ (<0) \end{align}$$であるから数列$\{b_{k}\}$が最大となるのは $k=2,\ 3$ のときであり、求める最大値$M$は$\dfrac{177147}{131072}$となる。

結局、差を取る解法でも関数の増減を調べることになります。手間自体はどちらもそれほど変わらない気がします。

なお、別解において、十分大きな$k$に対して$(*)$が成り立たないことは極限を取れば分かります。$$\begin{align} & \displaystyle \lim_{x \to \infty} f(x) \\ =& -\lim_{x \to \infty} \{(x+1)+1\}\log\left(1+\dfrac{1}{x+1}\right) \\ =& -\lim_{x \to \infty} \log\left(1+\dfrac{1}{x+1}\right)^{x+1}-\lim_{x \to \infty} \log\left(1+\dfrac{1}{x+1}\right) \\ =& -\log e -0 \end{align}$$なので、$$\displaystyle \lim_{k \to \infty} \left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2} = \dfrac{1}{e}$$であり、$$\begin{align} 1-a\left(\dfrac{k+1}{k+2}\right)^{k+2} >& 1-\dfrac{a}{e} \\ =& 1-\dfrac{2^{8}}{3^{4}e} \ (\approx -0.162…) \end{align}$$となります。これより、十分大きな$k$に対しては不等式$(*)$の左辺が負になることが分かります。別解で小さい方の$k$から調べているのはこうした理由によります。

また、本問の$a$の値は $k=2,\ 3$ の2つが答えになるように調整されています。例えば $a=\dfrac{3^{20}}{10^{10}}$ のときは $k=8,\ 9$ が答えになりますね。


(コメント)

数列の最大値や最小値を求めたいときに隣接する2項の比や差をとって調べるのは定石です。本問では隣接する2項の比からアプローチする誘導が付けられていますが、この手の問題では差を取る解法も有効です。

 

一般論として、東工大は意図を感じさせる誘導設問をしっかり付けてくれることが多いので、前問までの結果が利用できなさそうなら本筋から外れている式変形をしてしまったのではないか、と疑うことができます。問題の題材自体はそれほど目新しくないので、試験場であってもすんなり解けて欲しいところです。


 

 

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