「無理数の無理数乗は無理数か?」といった問題は数学Aの単元「集合と論理」でよく出題されますが、反例を上手く見つけられないなど厄介なタイプの問題でもあります。この記事では有理数・無理数が関連する演算結果をまとめます。
有理数同士の演算
有理数同士の演算は常に有理数となります。ここでは結果だけ示します。
有理数同士の演算
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- 有理数$+$有理数:有理数
- 有理数$-$有理数:有理数
- 有理数$\times$有理数:有理数
- 有理数$\div$有理数:有理数
有理数同士の四則演算は有理数を与えます。少し難しく言い換えると、有理数の集合$\mathbb{Q}$の要素同士の四則演算の結果は$\mathbb{Q}$の要素となります。有理数の集合がこのような性質をもつことを「有理数の集合は四則演算について閉じている」などと表現します。
※これは専門的には「体」と呼ばれる種類の集合が持っている性質で、有理数は体を構成しています。有理数全体の集合には$\mathbb{Q}$という記号が割り当てられていますが、無理数全体からなる集合はこの「閉じている」という性質(専門的には「代数的閉包」といいます)を有さず、特別な記号は割り当てられていません。無理数全体の集合を表現するには、例えば、$\bar{\mathbb{Q}}$のように有理数の補集合として表すことができます。
無理数と有理数の演算
まず、結論をまとめると以下のようになります。
無理数と有理数の演算
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- 有理数$+$無理数:無理数
- 有理数$-$無理数:無理数
- 有理数$\times$無理数:有理数が$0$⇒有理数、それ以外⇒無理数
- 有理数$\div$無理数:有理数が$0$⇒有理数、それ以外⇒無理数
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- 無理数$+$有理数:無理数
- 無理数$-$有理数:無理数
- 無理数$\times$有理数:有理数が$0$⇒有理数、それ以外⇒無理数
- 無理数$\div$有理数:無理数
有理数$+$無理数は常に無理数
この事実は背理法で証明するのが一般的です。
証明
命題「$Q_1$が有理数で$I$が無理数であるならば、$Q_1+I$ は有理数である」を真と仮定して矛盾を導く。この命題が真であるならば、$$Q_1+I=Q_2$$を満たすような有理数$Q_2$が存在する。これより $I=Q_2-Q_1$ となる。
一般に、有理数は整数の比で表せるから、$p_1$、$p_2$、$q_1$、$q_2$を整数($p_1 \ne 0$、$p_2 \ne 0$)として$$Q_{1}=\dfrac{q_{1}}{p_{1}}, \ Q_{2}=\dfrac{q_{2}}{p_{2}}$$と表されるので$$I=\dfrac{q_{2}}{p_{2}}-\dfrac{q_{1}}{p_{1}}=\dfrac{p_{1} q_{2}-p_{2} q_{1}}{p_{1} p_{2}}$$となる。ここで $p_{1} q_{2}-p_{2} q_{1}$ および $p_{1} p_{2}$ は整数であるからこれは有理数となり、$I$が無理数であることに矛盾する。
よって仮定は誤りであるから背理法により、命題「$Q_1$が有理数で$I$が無理数であるならば、$Q_1+I$ は無理数である」が真であることが示された。
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有理数$\times$無理数が常に無理数とは限らない
「有理数$\times$無理数」は一見すると無理数になりそうな気がしますが、「有理数」がゼロの場合はどうでしょうか? 積はゼロになり無理数ではありませんから、無理数と有理数の積は無理数と有理数のどちらにもなり得ることが結論されます。
(反例)$0 \times \sqrt{2}=0$
除算の場合は、ゼロでは割れないので無理数のままです。
「有理数$\times$無理数」は「無理数$\times$有理数」と同じことなので、無理数も有理数も両方あり得ます。「無理数$\div$有理数」も有理数の逆数をとれば「無理数$\times$有理数」と同じことなので省略。
無理数同士の演算
結論から言うと、無理数同士の演算の結果は有理数と無理数のどちらにもなり得ます。
無理数同士の演算
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- 無理数$+$無理数:両方あり得る
- 無理数$-$無理数:両方あり得る
- 無理数$\times$無理数:両方あり得る
- 無理数$\div$無理数:両方あり得る
具体的な例を見てみましょう。
無理数$+$無理数:
有理数:$\sqrt 2+(2-\sqrt 2)=2$
無理数:$\sqrt 2+\sqrt 2=2\sqrt 2$
無理数$-$無理数:
有理数:$(2+\sqrt 2)-\sqrt 2=2$
無理数:$2\sqrt 2-\sqrt 2=\sqrt 2$
無理数$\times$無理数:
有理数:$\sqrt 2 \times\sqrt 2 = 2$
無理数:$\sqrt 2 \times\sqrt 3 = \sqrt 6$
無理数$\div$無理数:
有理数:$\sqrt 2 \div\sqrt 2 = 1$
無理数:$\sqrt 6 \div\sqrt 2 = \sqrt 3$
このように無理数同士の演算結果は有理数と無理数のどちらも有り得ます。
べき乗の演算
結論から言うと全部「両方あり得る」となります。
べき乗の演算
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- 有理数の有理数乗:両方あり得る
- 有理数の無理数乗:両方あり得る
- 無理数の有理数乗:両方あり得る
- 無理数の無理数乗:両方あり得る
具体的な例を挙げておきます。
有理数の有理数乗:
有理数:$4^{1/2}=2$
無理数:$2^{1/2}=\sqrt 2$
有理数の無理数乗:
有理数:$1^{\sqrt 2}=1$、$0^{\sqrt 2}=0$(☜見落としがち!)
$2^{\log_{2}3}=3$ など
無理数:$2^{\log_{2}\sqrt 3}=\sqrt 3$
無理数の有理数乗:
有理数:$(\sqrt{2})^2=2$
無理数:$(\sqrt{2})^3=2\sqrt 2$
無理数の無理数乗:
有理数:$\left(\sqrt{2}^{\sqrt{2}}\right)^{\sqrt{2}}=2$、$\left(\sqrt{2}\right)^{\log_{2}9}=3$
無理数:$\left(\sqrt{2}\right)^{\log_{2}3}=\sqrt{3}$
このように、四則演算以外の無理数同士の演算結果は有理数と無理数のどちらも有り得ます。特に「有理数の無理数乗」が有理数にもなるという事実は初見だと見逃しやすいので覚えておきましょう。
それから、平方根などの累乗根をとる操作は有理数乗の演算に相当します。底の値によっては有理数にも無理数にもなります。
「無理数の無理数乗」について、これが有理数になる場合に関する入試問題が1986年大阪大学前期理系第1問や2020年横浜市立大学前期理系数学第2問に出題されています。無理数になる例も指数部分を調整すれば幾らでも作ることができます。
演算結果まとめ
以上の内容をまとめます。
演算結果まとめ
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- 有理数$+$有理数:有理数
- 有理数$-$有理数:有理数
- 有理数$\times$有理数:有理数
- 有理数$\div$有理数:有理数
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- 有理数$+$無理数:無理数
- 有理数$-$無理数:無理数
- 有理数$\times$無理数:有理数が$0$⇒有理数、それ以外⇒無理数
- 有理数$\div$無理数:有理数が$0$⇒有理数、それ以外⇒無理数
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- 無理数$+$有理数:無理数
- 無理数$-$有理数:無理数
- 無理数$\times$有理数:有理数が$0$⇒有理数、それ以外⇒無理数
- 無理数$\div$有理数:無理数
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- 無理数$+$無理数:両方あり得る
- 無理数$-$無理数:両方あり得る
- 無理数$\times$無理数:両方あり得る
- 無理数$\div$無理数:両方あり得る
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- 有理数の有理数乗:両方あり得る
- 有理数の無理数乗:両方あり得る
- 無理数の有理数乗:両方あり得る
- 無理数の無理数乗:両方あり得る
以上の内容を押さえておけば、試験会場で慌てたり、苦いケアレスミスをしたりすることもなくなるはずです。今後、二次試験だけでなく大学入学共通テストの数学ⅠA第1問の小問集合などでも出題される可能性が十分にあるので、具体例とともに覚えておきましょう。
私の感覚では,「有理数+無理数=無理数」が真とか偽とかいう言い方自体,
かなり気持ち悪いです.
「Aが有理数でBが無理数であるとき,A+Bは無理数」という命題の真偽を
問題にしているのでしょうが,
本来,等号「=」は,「その両側が等しい」ということを主張しているだけであり,
上記の意味であると主張するのは無理があると思います.
[式自体の意味を考えれば,例えばA+B=CとB-C=Aは同値であるはずであり,
「有理数+無理数=無理数」が真であるというなら,
「無理数-無理数=有理数」も真であることになりませんか?]
証明の中身の書き方ですが,
命題「有理数と無理数の和は無理数」を偽と仮定するのは
命題「有理数と無理数の和は有理数」を真と仮定することとは全く違います.
背理法による証明の書き出しは,
「ある有理数とある無理数の和が有理数であると仮定」
でなければならないはずです.
ただし,議論の本質部分は,現状でよさそうです.
おっと,A+B=Cと同値なのはC-B=Aでした.
どうも失礼しました.
たけちゃん さん
コメント頂き、ありがとうございます。
ご指摘の点は私の認識不足による不備でした。
文中の表現について修正させて頂きました。
例えば
「有理数+無理数は常に無理数になる」
という文は日常語としては許容できる表現だと思うのですが、これは数学的に厳密には
「ある有理数とある無理数の和は常に無理数になる(属する)」
とすべき主張だと思います。
これについても表現上問題視すべきでしょうか?
(数学的に好ましくないので乱用すべきでないという意見は尤もだと思いますが)
修正前の「証明」の書き方は全く数学的な表現でなかったので反省しています…。
私は,「有理数+無理数は常に無理数になる」については
問題ないと思っています.
どちらかと言えば,p⇒qの形式で,前提と結論が明確である
「Aが有理数でBが無理数であるならば,A+Bは無理数である」
が好みですが,それほどこだわるつもりはありません.
むしろ,
「ある有理数とある無理数の和は常に無理数になる(属する)」
の方が嫌な感じです.
数学の表現としては,「ある有理数とある無理数」は,
存在を主張する意味であることがしばしばありますね.
実際,書き直していただいた証明中に登場する命題
「ある有理数とある無理数の和が有理数となる」は,
「常に」ということばが入っていないという差異はありますが,
「ある有理数とある無理数」は存在を主張しているように見えます.
ついでなのであげておきますが,
有理数の無理数乗が有理数となる例としては,
底が0や1である少しトリッキーな例だけではなく,
2^(log_2 3)=3といった,無理数となる例と対応するものも存在しますね.
たけちゃん さん
ご回答ありがとうございます。
「存在を主張」というご指摘について、
「ある有理数」という表現は「ある【特定の】有理数」の存在を主張するものになってしまっており、ここで意図する命題を正確に表すには「任意の有理数」ないしは単に「有理数」などの全称的な表現に改めなければならない、
という理解で正しいでしょうか?
これをそのまま直すと
「任意の有理数と任意の無理数の和は常に無理数になる」
のようになるでしょうか。その点、
「Aが有理数でBが無理数であるならば,A+Bは無理数である」
は意味が明確で分かりやすいですね。
私の理解が誤っていたり論点がずれていたらご指摘下さい。
また、挙げて頂いた有理数の無理数乗が有理数となる例を追記させて頂きました。ありがとうございます。