自然数を幾つかの平方数の和で表すためには、どのような条件が必要となるのでしょうか。前回の創作整数問題#54に関連して、幾つかの平方数の和で$n$通りに表せる整数に関するメモを載せておきます。
自然数を2つの平方数の和で表す
大学入試問題でもありがちな問題設定に、ある整数を2つの平方数で表せ、というものがあります。これに関して、次のような事実が知られています。
Fermat’s theorem on sums of two squares
ある整数$n$が2つの平方数の和で表されるための必要十分条件は
「4を法として3に合同な素因数が全て平方になっていること」
である。
これは「フェルマーの二平方和定理」(Fermat’s theorem on sums of two squares)と呼ばれる定理で、証明はオイラーによって為されましたが、フェルマーによって提起されたためにこのような名前が付いています。数論分野でも割と古くから知られている定理の一つです。
具体的には、$45=\color{red}{3^2} \cdot 5$ なので、$45$は二平方和定理の条件を満たしています。実際に、$$45=6^2+3^2$$と表すことができます。
実は自然数を高々二個の平方数の和で表す方法の総数を与える公式が知られています。これを「ヤコビの二平方定理」(Jacobi’s two square theorem)と言います。
Jacobi’s two square theorem
自然数を高々2個の平方数の和で表す方法の総数は$$r_{2}(n)=4\sum _{{2{\nmid }d{\mid }n}}(-1)^{{\frac {d-1}{2}}}$$によって与えられる。ただし、総和は$2$で割り切れないような$N$の約数($1$と$N$を含む)について和を取るものとする。
これも具体例で見た方が速いです。例えば$45$の場合、$$\small \begin{align} & \ \ \ \ \ r_{2}(45) \\ &= 4\sum_{{2{\nmid }d{\mid }45}}(-1)^{{\frac {d-1}{2}}} \\ &=4\left\{(-1)^{\frac{1-1}{2}}+(-1)^{\frac{3-1}{2}}+(-1)^{\frac{5-1}{2}}+(-1)^{\frac{9-1}{2}}+(-1)^{\frac{15-1}{2}}+(-1)^{\frac{45-1}{2}}\right\} \\ &=4 \cdot 2 \\ &=8 \end{align}$$となります。実際に $x^2+y^2=45$ の整数解は$$(x,y)=(\pm 6,\pm 3),(\pm 3,\pm 6)$$(複号任意)となり$8$通り存在します。
これを天下り的に用いれば、4を法として3に合同な素因数で平方になっていないものが存在するような整数は2つの平方数の和で表せないことが分かります。
例えば$15$の場合、$15=3 \cdot 5$ なので、4を法として3に合同な素因数である「$3$」が奇数個になっており、二平方和定理の条件を満たしていません。
実際、$$\small \begin{align} & \ \ \ \ \ r_{2}(15) \\ &= 4\sum_{{2{\nmid }d{\mid }15}}(-1)^{{\frac {d-1}{2}}} \\ &=4\left\{(-1)^{\frac{1-1}{2}}+(-1)^{\frac{3-1}{2}}+(-1)^{\frac{5-1}{2}}+(-1)^{\frac{15-1}{2}}\right\} \\ &=4 \cdot (1-1+1-1) \\ &=0 \end{align}$$となり、2個の平方数の和で表す方法の総数が$0$、即ち2個の平方数の和で表せないことが分かります。
この定理によれば$2019$($=3 \cdot 673$)や、$10395$($=3^3 \cdot 5 \cdot 7 \cdot 11$)などが2個の平方数の和で表せないことが分かります。ただし、この定理は具体的にどのような平方数の組で表せるかまでは教えてくれません。例えば$2020$は$$2020=16^2+42^2=24^2+38^2$$という表示が可能ですが、$(16,42)$や$(24,38)$という組が具体的にこの定理から分かる訳ではありません。
なお、フェルマーの二平方和定理は平方剰余の相互法則の第1補充法則から導くことができます。
自然数を幾つかの平方数の和で表す
ラグランジュの四平方定理(Lagrange’s four square theorem)というものが知られており、すべての自然数は高々$4$個の平方数の和で表されることが知られています。ここでいう平方数は等しいものや$0$を含んでいます。
オイラーの四平方恒等式$$\small \begin{align}& \ \ \ \ \ (a_{1}^{2}+a_{2}^{2}+a_{3}^{2}+a_{4}^{2})(b_{1}^{2}+b_{2}^{2}+b_{3}^{2}+b_{4}^{2})\\ &=(a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+a_{3}b_{3}+a_{4}b_{4})^{2}\\&\ \ \ +(a_{1}b_{2}-a_{2}b_{1}+a_{3}b_{4}-a_{4}b_{3})^{2}\\&\ \ \ +(a_{1}b_{3}-a_{2}b_{4}-a_{3}b_{1}+a_{4}b_{2})^{2}\\&\ \ \ +(a_{1}b_{4}+a_{2}b_{3}-a_{3}b_{2}-a_{4}b_{1})^{2}\end{align}$$から、合成数は高々$4$個の平方数の和で表されることが帰納的に分かります。これより、すべての素数が高々$4$個の平方数の和で表されることを示せばラグランジュの四平方定理が証明できますが、やや複雑なのでここでは詳細を割愛します(証明自体はWikipediaや数論の参考書に載っていると思います)。
自然数を高々4個の平方数の和で表す方法の数は、「ヤコビの四平方定理」(Jacobi’s four square theorem)によって与えられます。
Jacobi’s four square theorem
自然数を高々4個の平方数の和で表す方法の総数は$$r_{4}(N)=8\sum _{4{\nmid }d{\mid }N}d$$によって与えられる。ただし、総和は$4$で割り切れないような$N$の約数($1$と$N$を含む)について和を取るものとする。
ここで「異なる平方数の和」に限定すると、面白い事実が知られています。実は以下に示す31個の自然数を除くすべての自然数は異なる幾つかの平方数の和で表せるのです。
幾つかの異なる平方数の和で表せない自然数
2, 3, 6, 7, 8, 11, 12, 15, 18, 19, 22, 23, 24, 27, 28, 31, 32, 33, 43, 44, 47, 48, 60, 67, 72, 76, 92, 96, 108, 112, 128
ここで挙げた自然数は異なる幾つかの平方数では表せませんが、これ以外の自然数はすべて異なる平方数を何個か用いた和により表現できます。なかなか面白い事実だと思います。
※ここでは $4=2^2$ なども「異なる平方数の和」と見なしています。また、平方数は正の整数を二乗したものとして $2=(-1)^2+1^2$ などは除外しています。
ここから発展して、幾つかの平方数の和で表せるような数のリストを以下に掲載しておきます(10項目まで)。オンライン整数列大辞典(OEIS)のリンクを併記していますので必要に応じて参照してください。
異なる0でない2つの平方数の和でちょうど$n$通りに表される整数
$n=1$(OEISリンク:A025302)
5, 10, 13, 17, 20, 25, 26, 29, 34, 37, ・・・
$n=2$(OEISリンク:A025303)
65, 85, 125, 130, 145, 170, 185, 205, 221, 250, ・・・
$n=3$(OEISリンク:A025304)
325, 425, 650, 725, 845, 850, 925, 1025, 1300, 1325, ・・・
$n=4$(OEISリンク:A025305)
1105, 1625, 1885, 2125, 2210, 2405, 2465, 2665, 3145, 3250, ・・・
$n=5$(OEISリンク:A025306)
8125, 10625, 16250, 18125, 21250, 23125, 25625, 32500, 33125, 36250, ・・・
$n=6$(OEISリンク:A025307)
5525, 9425, 11050, 12025, 12325, 13325, 14365, 15725, 17225, 17425, ・・・
$n=7$(OEISリンク:A025308)
105625, 180625, 203125, 211250, 265625, 361250, 406250, 422500, 453125, 525625, ・・・
$n=8$(OEISリンク:A025309)
27625, 32045, 40885, 45305, 47125, 55250, 58565, 60125, 61625, 64090, ・・・
$n=9$(OEISリンク:A025310)
71825, 93925, 122525, 143650, 156325, 173225, 187850, 209525, 223925, 244205, 245050, ・・・
$n=10$(OEISリンク:A025311)
138125, 235625, 276250, 300625, 308125, 333125, 393125, 430625, 435625, 471250, ・・・
異なる$n$個の$0$でない平方数の和で表される整数
$n=2$(OEISリンク:A004431)
5, 10, 13, 17, 20, 25, 26, 29, 34, 37, ・・・
$n=3$(OEISリンク:A004432)
14, 21, 26, 29, 30, 35, 38, 41, 42, 45, ・・・
$n=4$(OEISリンク:A004433)
30, 39, 46, 50, 51, 54, 57, 62, 63, 65, ・・・
$n=5$(OEISリンク:A004434)
55, 66, 75, 79, 82, 87, 88, 90, 94, 95, ・・・
$n=6$(OEISリンク:A224981)
91, 104, 115, 119, 124, 130, 131, 136, 139, 143, ・・・
$n=7$(OEISリンク:A224982)
140, 155, 168, 172, 179, 185, 188, 191, 195, 196, ・・・
$n=8$(OEISリンク:A224983)
204, 221, 236, 240, 249, 255, 260, 261, 268, 269, ・・・
その他
・異なる3個の0でない平方数の和で2通り以上に表される整数
(OEISリンク:A024804)
62, 69, 74, 77, 86, 89, 90, 94, 98, 101, ・・・
・異なる4個の0でない平方数の和で2通り以上に表される整数
(OEISリンク:A025386)
78, 90, 94, 95, 99, 102, 105, 110, 111, 114, ・・・
・2個の平方数の和で表される素数
(OEISリンク:A000152)
2, 5, 13, 17, 29, 37, 41, 53, 61, 73, ・・・
$2$つの平方数の和で表される自然数の割合
$x$以下の自然数のうち、$2$つの平方数の和で表されるものの割合は$$\dfrac{x}{\sqrt {\ln(x)}}$$に比例するという事実が知られています。これはドイツの数学者エトムント・ランダウとインドの数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンがそれぞれ独立に発見しました。
$N( x )$を$x$以下の自然数のうち$2$つの平方数の和で表されるものの個数とすると、極限$$c=\lim _{x\rightarrow \infty }{\dfrac {N(x){\sqrt {\ln(x)}}}{x}}$$
が存在して、その値はおよそ $c=0.7642236…$ であることが分かっています。この極限値$c$をランダウ・ラマヌジャンの定数と言います。これより$$N(x) \approx \dfrac{cx}{\sqrt {\ln(x)}}$$が成り立ちます。
方程式$x^2+y^2=n$の整数解を求めることは、円周$x^2+y^2=n$上の格子点を求めることに対応しています。$x^2+y^2+z^2=n$であれば球面上の格子点、さらに文字数が多くなれば、より高次の超球面上における格子点を求める作業に対応します。
フェルマーの二平方和定理や、ヤコビの二平方定理・四平方定理などは奥深い数論の世界においては比較的初歩の知識ですが、非常に興味深い定理です。
ヤコビの四平方定理の、水色の枠に囲まれたところ、高々4個の自然数が2個になっています。
たにゐ さん
コメントして頂き、ありがとうございます。
ご指摘の部分について確認し修正しました。
至らない点の多いウェブサイトですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。