e^xのマクローリン展開とeの逆数(2020年神戸大学後期理系数学第3問)

今日は今年の神戸大後期から、$e^x$のマクローリン展開に関連する出題を取り上げます。


 

$n$を自然数とし、実数$x$に対して$$\small f_{n}(x)=(-1)^{n}\left\{e^{-x}-1-\sum_{k=1}^{n} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} x^{k}\right\}$$とする。以下の問に答えよ。

(1)$f_{n+1}(x)$の導関数$f_{n+1}^{\prime}(x)$について、$f_{n+1}^{\prime}(x)=f_{n}(x)$ 成り立つことを示せ。

(2)すべての自然数$n$について、$x>0$ のとき $f_{n}(x)<0$ であることを示せ。

(3)$\small a_{n}=1+\displaystyle\sum_{k=1}^{n} \dfrac{(-1)^{k}}{k !}$ とする。$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_{2 n}$ を求めよ。

(2020年神戸大学 後期理系第3問)

 

 考え方

$e^x$のマクローリン展開を背景に持つ問題はこれまでに多くの大学で出題されていますが、本問もその一つです。

(1)は単純計算なので問題無いでしょう。級数部分は書き下しても良いですが、混乱しない自信があればシグマのまま計算した方が解答を省スペース化できて良いでしょう。(2)では「すべての自然数$n$について」とあるので数学的帰納法を選択します。(1)の結果を用いれば添え字の数字を下げることができます。本題の(3)は(2)の結果を用いて不等号を導き、はさみうちの原理によって示します。見た目の割に、後期試験としてはそれほど難しくありません。


解答例

 

(1)

$$\small f_{n+1}(x)=(-1)^{n+1}\left\{e^{-x}-1-\displaystyle\sum_{k=1}^{n+1} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} x^{k}\right\}$$より、$$\small \begin{aligned}
f_{n+1}^{\prime}(x) &=(-1)^{n+1}\left\{-e^{-x}-\sum_{k=1}^{n+1} \dfrac{(-1)^{k}}{(k-1) !} x^{k-1}\right\} \\
&=(-1)^{n+1}\left\{-e^{-x}+1-\sum_{k=1}^{n} \dfrac{(-1)^{k+1}}{k!} x^{k}\right\} \\
&=(-1)^{n}\left\{e^{-x}-1-\sum_{k=1}^{n} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} x^{k}\right\} \\
&=f_{n}(x)
\end{aligned}$$となるから示された。

 

 

(2)

すべての自然数$n$について、

「$x>0$ のとき $f_{n}(x)<0$」・・・ $(*)$

が成り立つことを数学的帰約法により示す。

 

(ⅰ)$n=1$ のとき、$$\begin{aligned} f_{1}(x) &=-\left\{e^{-x}-1-\dfrac{-1}{1 !} x\right\} \\ &=-e^{-x}+1-x \end{aligned}$$より、$$f_{1}(0)=0$$かつ$$f_{1}^{\prime}(x)=e^{-x}-1<0$$となるから$(*)$は成立する。

 

(ⅱ)$n=m$ のとき、$(*)$が成り立つと仮定する。$n=m+1$ のとき(1)の結論および仮定より、$f_{m+1}^{\prime}(x)=f_{m}(x)<0$ かつ $f_{m+1}(0)=0$ が成り立つから、$n=m+1$ のときも$(*)$は成立する。

 

故に(ⅰ)、(ⅱ)より、すべての自然数$n$について、$x>0$ のとき $f_{n}(x)<0$ であることが示された。

 

 

(3)

$$\small \begin{aligned}f_{2 n}(x) &=(-1)^{2 n}\left\{e^{-x}-1-\displaystyle\sum_{k=1}^{2 n} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} x^{k}\right\} \\ &=e^{-x}-1-\displaystyle\sum_{k=1}^{2 n} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} x^{k}\end{aligned}$$より、$x=1$ とすると、$$\small \begin{aligned}f_{2 n}(1) &=e^{-1}-1-\displaystyle\sum_{k=1}^{2 n} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} \\ &=e^{-1}-a_{2 n}\end{aligned}$$と表せる。(2)より、任意の自然数$n$について、$x>0$ のとき $f_{n}(x)<0$ であるから、$$e^{-1}-a_{2 n}<0$$ $$\therefore \, e^{-1}<a_{2 n} \quad \cdots ①$$が成り立つ。

 

また、$$\small \begin{aligned}f_{2 n+1}(x) &=(-1)^{2 n+1}\left\{e^{-x}-1-\sum_{k=1}^{2 n+1} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} x^{k}\right\} \\ &=-\left(e^{-x}-1-\sum_{k=1}^{2 n+1} \dfrac{(-1)^{k}}{k !} x^{k}\right) \end{aligned}$$となるから同様にして$$\small \begin{aligned}
f_{2 n+1}(1) &=-\left(e^{-1}-1-\sum_{k=1}^{2 n+1} \dfrac{(-1)^{k}}{k !}\right) \\ &=-e^{-1}+\left(1+\sum_{k=1}^{2 n} \dfrac{(-1)^{k}}{k !}\right)+\dfrac{(-1)^{2 n+1}}{(2 n+1) !} \\
&=-e^{-1}+a_{2 n}+\dfrac{-1}{(2 n+1) !}<0
\end{aligned}$$ $$\therefore \, a_{2 n}<e^{-1}+\dfrac{1}{(2 n+1) !} \quad \cdots ②$$を得る。

 

①と②より、$$\therefore \, e^{-1}<a_{2 n}<e^{-1}+\dfrac{1}{(2 n+1) !} $$が成り立つ。$n \to \infty$ のとき $\dfrac{1}{(2 n+1) !} \to 0$ となるから、はさみうちの原理より$$\displaystyle \lim _{n \rightarrow \infty} a_{2 n}=\color{red}{e^{-1}}$$を得る。

 


 

解答例を眺めてみると、どの設問も基本事項の積み重ねで解答できる問題だと分かります。(1)は微分法の基本問題ですし、(2)も単なる関数列の数学的帰納法の問題です。手こずるとしたら(3)でしょうか。解答例では$f_{2 n}(x)$を持ち出して議論を始めていますが、$a_{2n}$の添え字(index)が$2n$なので$f_{2 n}(x)$を考えるのは自然です。はさみうちの原理を利用するために$f_{2 n+1}(x)$を考えていますが、$f_{2n+2}(x)$を持ち出すと$$\small f_{2 n+2}(x)=e^{-1}-a_{2n}+\dfrac{1}{2(n+1)(2n)!}$$となり不等号で上手く挟めません。添え字が偶数であることに拘り過ぎるとタイムロスに繋がってしまいます。


冒頭で少し触れたように、本問の背景には$$\begin{aligned}
e^x &=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \dfrac{1}{n!}x^n \\
&= 1 + x + \dfrac{1}{2!}x^2 + \dfrac{1}{3!}x^3 + \cdots
\end{aligned}$$という関数 $f(x)=e^x$ の級数展開があります。大学数学の知識ですが、無限回微分可能な関数$f(x)$の「マクローリン展開」は$$\small \begin{aligned} f(x) &= \sum_{n=0}^{\infty} f^{(n)} \dfrac{x^n}{n!}\\
&= f(0) + f^{(1)}(0)x + \dfrac{f^{(2)}(0)}{2!}x^2 + \cdots + \dfrac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n + \cdots \end{aligned}$$で与えられることが知られています。この表示によれば、$e^x$や$\sin x$といった初等的な「超越関数」を無限個の項から成る多項式として書き下すことができるのです。

本問は入試問題として小難しくアレンジされていますが、上記のマクローリン展開において$x$の部分を$-x$とした場合について議論するもので、$$e^{-x}= \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} \dfrac{(-x)^n}{n!}$$が成り立つことを確認しているに過ぎません。

こういった級数展開が背景にある問題は難関大学で多く出題されています。予備知識があれば極限値の見当も付きますし、非常に見通し良く解答することができます。

※参考:各種三角関数のマクローリン展開

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