4次式の因数分解(2021年東京大学前期理系数学第6問)

今年の東大の理系数学から4次式の因数分解に関する整数問題を取り上げます。


 

定数$b$、$c$、$p$、$q$、$r$に対し、$$\small x^{4}+b x+c=\left(x^{2}+p x+q\right)\left(x^{2}-p x+r\right)$$が$x$についての恒等式であるとする。

(1)$p \ne 0$ であるとき、$q$、$r$を$p$、$b$で表せ。

(2)$p \ne 0$ とする。$b$、$c$が定数$a$を用いて$$\small b=\left(a^{2}+1\right)(a+2),\, c=-\left(a+\frac{3}{4}\right)\left(a^{2}+1\right)$$と表されているとき、有理数を係数とする$t$についての整式$f(t)$と$g(t)$で$$\small \left\{p^{2}-\left(a^{2}+1\right)\right\}\left\{p^{4}+f(a) p^{2}+g(a)\right\}=0$$を満たすものを1組求めよ。

(3)$a$を整数とする。$x$の4次式$$\small x^{4}+\left(a^{2}+1\right)(a+2) x-\left(a+\frac{3}{4}\right)\left(a^{2}+1\right)$$が有理数を係数とする2次式の積に因数分解できるような$a$をすべて求めよ。

(2021年東京大学 前期理系 第6問)

 

 考え方

今年の東大理系数学で出題されたもう一つの整数問題です。誘導が丁寧なのでそれほど解きにくくはないでしょう。(2)の問い方が少し不思議な感じですが、要は与4次式が2次式の積に因数分解できる$p$について成り立つ関係式を求めさせています。(3)では(2)の結果を使って、$p$が有理数になるような整数$a$の条件を絞り込みます。


解答例

 

(1)

恒等式$$\small x^{4}+b x+c=\left(x^{2}+p x+q\right)\left(x^{2}-p x+r\right) \ \cdots (*)$$の右辺を$x$について整理すると$$\small x^{4}+\left(-p^{2}+q+r\right) x^{2}+p(-q+r) x+qr$$となる。$(*)$の2次、1次の項を両辺で比較して$$\begin{cases} -p^{2}+q+r=0 \ \cdots ①\\ p(-q+r)=b \ \cdots ②\end{cases}$$となる。$p \ne 0$ であるから、$②$の両辺を$p$で割って$$-q+r=\dfrac{b}{p} \ \cdots ②^{\prime}$$となるから、$①+②^{\prime}$より$$-p^{2}+2r=\dfrac{b}{p}$$ $$\therefore r=\color{red}{\dfrac{1}{2} p^{2}+\dfrac{b}{2 p}}$$を得る。これと$②$より$$\therefore q=r-\dfrac{b}{p}=\color{red}{\dfrac{1}{2} p^{2}-\dfrac{b}{2 p}}$$を得る。

 

 

(2)

(1)の結果から、$$c=qr=\dfrac{1}{4}\left(p^{4}-\dfrac{b^2}{p^2}\right)$$となる。いま、$\small c=-\left(a+\dfrac{3}{4}\right)\left(a^{2}+1\right)$ と表されるから、$$\small -\left(a+\dfrac{3}{4}\right)\left(a^{2}+1\right)=\dfrac{1}{4}\left(p^{4}-\dfrac{b^2}{p^2}\right)$$ $$\small \therefore -\left(4a+3\right)\left(a^{2}+1\right)p^{2}=p^{6}-b^2$$となる。これに $\small b=\left(a^{2}+1\right)(a+2)$ を代入して、$$\small -\left(4a+3\right)\left(a^{2}+1\right)p^{2}=p^{6}-\left(a^{2}+1\right)^2(a+2)^2$$ $$\small \therefore p^{6}+(4 a+3)\left(a^{2}+1\right) p^{2}-\left(a^{2}+1\right)^{2}(a+2)^{2}=0 \ \cdots ③$$を得る。

 

ここで$$\small \left\{p^{2}-\left(a^{2}+1\right)\right\}\left\{p^{4}+f(a) p^{2}+g(a)\right\}=0$$の左辺を整理すると$$\small \begin{align} p^{6}&+\left\{-(a^{2}+1)+f(a)\right\}p^{4} \\ & \quad +\left\{-(a^{2}+1) f(a)+g(a)\right\} p^{2}-(a^{2}+1) g(a) \end{align}$$となるから$③$の左辺と比較することにより$$\color{red}{f(t)=t^2+1,\ g(t)=(t^{2}+1)(t+2)^{2}}$$を得る。

 

 

(3)

3次の項の係数が$0$であるような4次式が有理数を係数とする2次式の積に因数分解できるとすると、$(*)$の形に因数分解されることに注意する。

 

いま、1次の項の係数が$\small \left(a^{2}+1\right)(a+2)$であり、定数項が$\small -\left(a+\dfrac{3}{4}\right)\left(a^{2}+1\right)$であるから、$(*)$の右辺の係数$p$について $p \ne 0$ のとき、(1)および(2)より関係式$$\small \left\{p^{2}-\left(a^{2}+1\right)\right\}\left\{p^{4}+\left(a^{2}+1\right) p^{2}+\left(a^{2}+1\right)(a+2)^{2}\right\}=0$$が成り立つ。

 

$p \ne 0$ より、$$p^{4}+\left(a^{2}+1\right) p^{2}+\left(a^{2}+1\right)(a+2)^{2}>0$$であるから$$p^2=a^2+1$$の場合に限られ、$$\therefore (p-a)(p+a)=1$$ $$\therefore \begin{cases} p-a=1 \\ p+a=1 \end{cases} \text{ または }\begin{cases} p-a=-1 \\ p+a=-1 \end{cases}$$ $$\therefore \begin{cases} p=1 \\ a=0 \end{cases} \text{ または }\begin{cases} p=-1 \\ a=0 \end{cases}$$となる。$a=0$ のとき、いずれの場合でも$p$、$q$、$r$は有理数となるから $a=0$ は求める整数$a$として適する。

 

また、$p=0$ のときは $a=-2$ となる場合に限られ、このとき与えられた4次式は$$x^4+\dfrac{25}{4}$$となる。しかしこれを2次式の積に因数分解すると$$\left(x^{2}+\dfrac{5}{2}i\right)\left(x^{2}-\dfrac{5}{2}i\right)$$となり係数が有理数でないので不適である($i$は虚数単位)。

 

以上より、求める整数$a$は$$\color{red}{a=0}$$である。

 


 

(3)をいきなり出題しても良さそうな問題でしたが、本問では丁寧な誘導設問が付いています。しかし誘導を付けたことで却って分かりにくくなっている面もあり、予備校の講評ではやや難という分類が多かったようです。

(1)は簡単な計算問題ですね。(2)は定数項$c$と$b$の関係式から$b$を消去し、$a$と$p$の関係式を導けばOKです。単に因数分解できることを確かめさせる問題であり、難しく考える必要はありません。問い方が「・・・を満たすものを1組求めよ。」と他にも満たすものがあるかのような表現になっているので不思議な感じがしますが、今回求められたものしかありません。

(3)では$\small \left(x^{2}+p x+q\right)\left(x^{2}-p x+r\right)$の形に因数分解できることを断っておく必要があります。この点は見落としがちですが、言及が一切無いと減点される可能性があります。$x$の4次式$$\small x^{4}+\left(a^{2}+1\right)(a+2) x-\left(a+\dfrac{3}{4}\right)\left(a^{2}+1\right)$$は(3)で初めて登場しているので、(1)と(2)の流れのまま因数分解後の式の形を自明のものとして解答してしまうのは不注意と言えます。

(3)自体はそれほど難しい問題ではありません。(2)のヒントから$p\,(\ne 0)$についての関係式が成り立つので、これをもとに整数$a$を決定していきます。合否の分かれ目になりそうな問題でした。

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