反応式に「2A」と書いてあったら、速度式には必ず $[\mathrm{A}]^2$ が現れるのでしょうか。濃度が濃いほど反応が速そうだ、と考えるところまでは自然です。ただし、「どれだけ使うか」と「どのくらい速く進むか」は、別々に確かめる必要があります。
この記事では、濃度を変えた実験から速度式の指数を読み取ります。その前に、反応速度と物質の消費速度を区別しましょう。最後に、一次反応の半減期までつなげます。
前提知識:化学反応式、モル濃度、比例と指数。微分は「グラフのその瞬間の傾き」と読めれば、前半を理解できます。対数と指数関数を使う最後の節は発展です。
まず何の速度を測るのかを決める
物質A、B、Cの間に、次の一つの反応だけが起こるとします。容器の体積は一定で、途中の物質がたまる影響を無視できる場面を考えます。
$$2\mathrm{A}+\mathrm{B}\longrightarrow\mathrm{C}$$
Aが $0.020\,\mathrm{mol\,L^{-1}}$ 減る間に、Bは $0.010\,\mathrm{mol\,L^{-1}}$ 減り、Cは同じだけ増えます。これは反応式の係数から分かります。ところが、その変化に1秒かかるか100秒かかるかは、反応式だけでは分かりません。
Aの消費速度を、減少量を正の数で表すように定義します。
$$u_{\mathrm A}=-\frac{d[\mathrm A]}{dt}$$
Aの濃度のグラフは右下がりなので、傾きにマイナスを付けています。同じ定義でBの消費速度を測ると、Aの半分です。どの物質を測ったかによる違いをなくすため、係数で割った反応速度 $v$ を使います。
$$v=\frac{u_{\mathrm A}}{2}=-\frac{d[\mathrm B]}{dt}$$
$$v=\frac{d[\mathrm C]}{dt}$$
本記事では、$u_{\mathrm A}$ と $v$ の単位をともに $\mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}}$ とします。単位が同じでも値は違います。「速度」と書かれた表を見たら、何の速度なのかを最初に確認してください。なお、物質の出入りや体積変化がある系には、そのまま適用できません。速度と量論係数の関係はOpenStax 12.1節を参照。
例題 濃度を一つずつ変える
問題:同じ温度で初濃度を変え、反応開始直後のAの消費速度を測りました。次の数値は考え方を学ぶために作った架空のデータで、特定の実在反応の測定値ではありません。測定範囲で、指数が一定の速度式を仮定します。
$$u_{\mathrm A}=k_{\mathrm A}[\mathrm A]^m[\mathrm B]^n$$
濃度の単位は $\mathrm{mol\,L^{-1}}$、速度の単位は $\mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}}$ です。
-
- 実験1:Aは0.10、Bは0.20、消費速度は0.0040
- 実験2:Aは0.20、Bは0.20、消費速度は0.0080
- 実験3:Aは0.10、Bは0.40、消費速度は0.016
$m$、$n$ と $k_{\mathrm A}$ を求めてください。
考え方:実験1と2では、Bを固定してAだけを2倍にしています。速度も2倍なので、Aについては $2^m=2$、つまり $m=1$ です。実験1と3ではAが一定で、Bだけを2倍にしています。速度は4倍ですから、$2^n=4$ より $n=2$ となります。
解答:実験1の値を代入すると、
$$k_{\mathrm A}=\frac{0.0040}{0.10\times0.20^2}=1.0$$
単位まで含めて、$k_{\mathrm A}=1.0\,\mathrm{L^2\,mol^{-2}\,s^{-1}}$ です。速度式は次のようになります。
$$u_{\mathrm A}=k_{\mathrm A}[\mathrm A][\mathrm B]^2$$
検算:実験2なら $1.0\times0.20\times0.20^2=0.0080$、実験3なら $1.0\times0.10\times0.40^2=0.016$ です。三つの値が再現できました。Aの係数は2なのに、指数は1です。Bでは、係数1に対して指数2となりました。
両方の濃度を一度に変えた実験だけでは、それぞれの効果を分けにくくなります。また、途中の速度を比べると、反応が進んだ分だけ濃度も変わっています。ここで初速度を使ったのは、設定した初濃度との対応をそろえるためです。実際の測定には誤差があるので、少数の点だけで法則が確定したとせず、濃度範囲を広げて確かめます。
反応次数と速度定数の読み方
速度式の指数を反応次数といいます。例題ではAについて一次、Bについて二次、指数の和は3なので全体では三次です。反応次数は、濃度を変えたときの速度の変わり方を表します。反応式の係数が表す、物質の増減の比とは役割が違います。IUPAC Gold Bookの反応次数の定義も、この区別を明示しています。
消費速度から $v=u_{\mathrm A}/2$ に書き換えると、指数は変わらず、比例定数が半分になります。
$$v=k[\mathrm A][\mathrm B]^2,\qquad k=\frac{k_{\mathrm A}}{2}$$
したがって、今回の $k$ は $0.50\,\mathrm{L^2\,mol^{-2}\,s^{-1}}$ です。速度の定義を変えたのに、同じ数値の $k$ を使うと2倍の食い違いが起きます。
速度定数の単位も暗記だけで決めないようにしましょう。全次数が $p$ の濃度型速度式なら、濃度の $p$ 乗に掛けて「濃度÷時間」になる単位が必要です。一次では $\mathrm{s^{-1}}$、二次では $\mathrm{L\,mol^{-1}\,s^{-1}}$、今回の三次では上に示した単位になります。
大学への橋渡し 総括反応と素反応
反応式は、反応前後の帳尻を示します。実際には、途中の物質を作る段階と、それを使う段階に分かれているかもしれません。その道筋を反応機構といい、一つの基本的な段階として扱う反応を素反応といいます。
素反応に対する通常の質量作用型モデルでは、関与する反応物の係数に対応した濃度の積を使えます。たとえば、素反応としての $\mathrm A+\mathrm B\to\mathrm I$ には $v=k[\mathrm A][\mathrm B]$ という形を考えます。一方、複数の段階を足し合わせた総括反応の係数からは、一般に速度式を決められません。素反応と反応機構についてはOpenStax 12.6節を参照。
指数が係数と一致する実験結果が得られても、それだけで素反応だと証明できるわけではありません。同じ速度式に至る機構が複数ある場合もあります。「係数から予測する」にはモデルの根拠が必要で、「実験と合う」ことから何が言えるかにも限界があるのです。
発展 一次反応の半減期を式で確かめる
ここからは例題とは別に、Aの消費速度が一次の反応を考えます。$k_1$ は時間によらず一定で、次の定義に従うものとします。
$$-\frac{d[\mathrm A]}{dt}=k_1[\mathrm A]$$
この式を満たす濃度は $[\mathrm A](t)=[\mathrm A]_0e^{-k_1t}$ です。微分すると右辺から $-k_1$ が出るので、元の式を確かめられます。濃度が初めの半分になる時間 $t_{1/2}$ は、
$$\frac12=e^{-k_1t_{1/2}}$$
$$t_{1/2}=\frac{\ln2}{k_1}$$
となります。初濃度は両辺で割り消え、半減期に残りません。たとえば $k_1=0.035\,\mathrm{s^{-1}}$ なら約20秒です。初濃度を2倍にしても、このモデルの半減期は同じです。一次反応の積分速度式と半減期はOpenStax 12.4節を参照。
一次と二次の式を混同しないために:上の定義の一次反応に、$1/(2k_1[\mathrm A]_0)$ を半減期として使うことはできません。式への代入で半分になるか、単位が時間になるか、両方を確認してください。
理解を確かめる3問
-
- 例題でAだけを3倍、Bを半分にすると、Aの消費速度は何倍になりますか。
- $2\mathrm A+\mathrm B\to\mathrm C$ でAの消費速度が $0.018\,\mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}}$ のとき、反応速度とCの生成速度はいくらですか。
- 一次反応の定義を変えずに $k_1$ が2倍になると、半減期はどうなりますか。初濃度だけが2倍の場合はどうでしょうか。
解答:1は $3\times(1/2)^2=3/4$ 倍。2はどちらも $0.0090\,\mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}}$。3は半減期が半分になり、初濃度だけの変更では変わりません。各答えを、速度の定義と速度式に戻して確かめてみましょう。

“反応式の係数はなぜ速度式の指数と限らないのか” への2件の返信